ヒキニートキャラのゲーム実況者な俺、配信の切り忘れで妹が超人気VTuberであることがバレる〜詰んだかと思いきや、リスナーの反応がなんだかおかしい〜

乃崎かるた

本編です!

1

※《》はコメント欄


「んじゃ、今日の配信はこれくらいにしとくか」


 流行りのFPS「ゼノック・スキーム」で二連勝したところで、俺はゲームのログイン画面に戻った。

 そこにはプレイヤー名「shuri」が表示されている。


《さすがはXランク、エイム半端なくて草》

《まだ十一時じゃねぇか、ヒキニートの癖に社会に適合してるフリすんなwww》


「あ、お前ら舐めんなよ? 今日もちゃんと部屋出て夕飯買いに行ったんだからな」


《コンビニ行く時しか外出ないとか、典型的すぎてもはや芸術w》

《ご飯作ってくれる人もいないトッププレイヤーか……強く生きろよ》


 最近大会で優勝したおかげかリスナーは着々と増えているが、思いの外ヒキニートキャラがウケている。


 大人気VTuberな妹に「キャラをしっかりさせた方が良い」というありがたいアドバイスを頂いてから意識するようになったのだが、俺もだんだん楽しくなってきた。


「悲しいとか言うな! ニートの素晴らしさに気づいてないとは可哀想な奴らだなぁ。まあお前らは俺と違って、明日も学校や仕事があるんだから早く寝ろよ。

――じゃ、おやすみ」


 

 配信を切って軽く伸びをする。


「……ん〜っ、課題でもするかぁ」


《え、課題……? ニートじゃねぇの?》

《まさか切り忘れ……》

《学生? 待ってアツすぎwww》


 

 少しすると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「あー、入っていいよ。配信終わったから」

「お兄ちゃんお疲れー! 紅茶でも飲む?」


 一つ歳下で、現在高校一年生の妹が部屋に入ってくる。

 

 名前は唯菜ゆいな

 肩まで伸びた栗色の髪がさらさらと揺れている。

 平均より身長が低く華奢なその身体に、所謂「アニメ声」な高めの地声がよく似合っていた。


《お兄ちゃん!?!?》

《いや妹さんの声めっちゃ可愛くね?》

《ほたるんに似てる!!!》


「――紅茶? 珍しいな……さては頼み事か?」

「うぅ、速攻バレた……実は宿題が分かんなくて……」

「またか。そんな情けないこと言ってると秋夜しゅうやほたる様の名が泣くぞ」

「うぇー、意地悪言わないでよぉ……」


 唯菜が泣き言を言う様子に、俺は思わずくすりと笑う。

 妹の分身である秋夜ほたるは元気いっぱいのおバカキャラなのだが、意外とゲームが強かったりトークが上手かったりする。


 そのギャップがウリになっているのだ。


《ちょ、おい! ガチほたるん?》

《やっべ神回来たwww》

《ほたるん可愛い〜!!!》

《おいshuri、そこ代われ》


「分かった、分かった。教えるから。どこが分からなかったんだ?」

「やったぁ! お兄ちゃん大好き!」


 唯菜は一瞬で満面の笑みになった。

 こたつの前に腰掛け、持ってきた参考書をペラペラとめくる。


《てぇてぇ……》

《てぇてぇ……》

《てぇてぇ……》

《ほたるんの登場で、shuriがニートじゃなかった事実が霞んでて草》


 俺はゲーミングチェアから立ち上がり、唯菜の隣に座って参考書を覗き込んだ。


「数学かぁ、俺苦手なんだよな……」

「嘘つけぇ、全国模試で二十位ぐらいだったくせに」

「あれは総合順位だからな、他の科目である程度補えるんだよ」


《いや待てw 20位は優等生通り越してバケモンw》

《補えねぇよwwwww》

《ヒキニートマジでどこ行った》

《shuriお兄ちゃん、俺にも勉強教えて!》


 問題に目を通し、軽く方針を立てる。


「これは、二次関数の頂点の値を場合分けするしかないな」

「やっぱり値は出せないんだね」

「ああ。それで地道にx軸との交点を数えていく」

「へぇ、えーっと……ああ、なるほど……おっけ、ありがと!」


 決して理解力が低い訳では無い唯菜は、すらすらとシャーペンを走らせる。

 そして、書きながら俺に話しかけるというマルチタスクをこなしてきた。


「お兄ちゃん、今どの武器使ってるの?」

「ゼノスキの話か? 基本的にはグラディウス・ライフルかな」

「うへぇ……エイムミスったら終わるやつじゃん」


 秋夜ほたるも配信でゼノスキはやり込んでいるので、かなりの高ランクプレイヤーだ。

 彼女とゲームの話をすることは多い。

 

「でも、エイムさえミスらなければ一発でキル出来る」

「その前提がおかしいんだって! エイムほんと無理ぃ……」

「無理とか言われてもだな……ほたるさんはハイディングが上手いって有名なんだから良いだろ」

「まあねー、罠貼りには自信ある!」

「否定しないんだな」


《自信満々ほたるん可愛い》

《この二人がコラボしたら最強じゃね?》


「私がお兄ちゃんとコラボしたら最強じゃない?」

「いいやダメだ。何度も言ってるだろ、俺は死にたくない」

「えー、どういうことー?」

「えー、じゃない。お前のリスナーは俺の存在を許さないぞ。それに、普通に家族と住んでるってバレたら俺のキャラが終わる」


 唯菜はいつも俺とコラボしたがっているが、これだけは絶対に了承しないと決めている。

……ガチ恋は怖いんだぞ。


《もうコラボしちゃってるんだよなぁww》

《ヒキニートキャラはもう終わってるから諦めた方がいいよ、20位お兄ちゃん♡》

《コラボ見たい》

《俺ほたるんのリスナーだけど、この20位お兄ちゃんは許すわ》


「もう、お兄ちゃんってばビビりだなぁ。 兄妹なんだから大丈夫だよ!」

「大丈夫じゃない」

「えー? じゃあ今日のところは諦めるかぁ。寝る前に一戦しよー」

「今日のところは、ってなんだよ……分かった、俺の予備PC使っていいよ」


《おっと》

《来るぞ……》


 PCを開くと、ゼノスキのログイン画面のままだった。


……あれ、シャットダウンしてなかったっけ。


「――っ、まさか!」

「……お兄ちゃん?」


 俺は一気に背筋が冷えるのを感じながら動画配信サイトを開いた。


《いないいないばあ!》

《20位お兄ちゃんおかえり〜》


「――は、配信、切り忘れた……」

「ええええ!?!?」

「本当にごめん……」

「っふ、お兄ちゃん、そんな、凡ミス、わはははははっ!!!」


 唯菜は爆笑しながらコメント欄を覗きに来た。


「笑い事じゃないだろ……」

「ほら見て、コメ欄めっちゃ盛り上がってる!」

「は?」


 唯菜はこほん、と咳払いをして口調を変えた。


「シュリスナーの皆さん、こんぽた〜! shuriの妹、秋夜ほたるです! お兄ちゃんのちょーポンコツな凡ミスで素性がバレましたぁ〜!」


《こんぽた!》

《お兄ちゃんとのイチャイチャ助かる》

《超ポンコツwww》


 唯菜のリスナーや野次馬が増えていたのだろう、普段は一万そこそこの同時接続数が十五万にまで膨れ上がっていた。

 コメントが雪崩のように流れており、ひとつずつ目で追うのでやっとの状態だ。


《トレンド見てみて》

 

「……トレンド?」


 スマホでSNSアプリを開き、トレンドのページに移る。


「ちょっと待て、一位が『20位お兄ちゃん』?! 俺のヒキニートキャラが……」

「え、私も見たい!」


 唯菜が俺のスマホを奪ってその下を確認した。


「……えーっと、『配信切り忘れ』『秋夜ほたる』『shuriの配信』『ゲーマー兄妹』『有能ニート』……すごい、埋めつくしちゃってるよ!」

「有能ニートってなんだよ……」


《こっちのセリフだわwww》

《お勉強配信求む》


「お勉強配信、需要ないだろ……俺はVTuberじゃなくてゲーム実況者だからな?」

「――お兄ちゃん、見て!」


 唯菜は俺が適当にコメントを拾っているところを遮り、スマホの画面を見せてきた。

「ほたるん」でエゴサした結果だ。


「ほらー、炎上してない!」

「……確かに」


 みんなただ面白がっているだけのようだ。

 VTuberオタクは意外と寛容なのか……?


《いや、さすがに兄さんと彼氏は違うからな》

《血繋がっちゃってるから一番可能性ないw》

《ほたるんに変な虫がつかないよう見張っててくれよー》


……ああ、なるほどな。


「……まあ、とりあえず。これからどうするか考えるから、一旦配信閉じるわ」


 俺は今度こそしっかりと確認して配信を切った。




――実は、唯菜とは一滴も血が繋がっていない。

 しかも小学六年生のときに一目惚れしたなんてバレた日には……





 小学五年生のとき、私はお兄ちゃんに一目惚れした。


 お母さんの再婚相手とその連れ子とは、近所の飲食店で会うことになった。

 夜ご飯を一緒に食べながら、新しい家族で親睦を深めようということらしい。

 

 人見知りだった私は気が進まなかったけど、若くしてお父さんを亡くしたお母さんには幸せになって欲しくて。

 だから、勇気を出して仲良くなろうと思った。


――でも知らない人と会いたくない気持ちとか、不安な気持ちとか。

 そういうのは全部、お兄ちゃんを見た瞬間に吹き飛んだ。


 男の子のくせにすべすべの肌とさらさらの黒い髪。

 身長が同じくらいだったから、大きな優しい瞳が真正面から私に向けられた。


「初めまして。俺は柊涼也ひいらぎりょうや


 太陽のような笑顔が眩しくて、一瞬頭が真っ白になった。


「え、えっと……わたしは、||立花唯菜たちばなゆいな、です……」

「良い声だね。ルナに似てる」

「るな……?」

「俺の好きなアニメキャラ。……あー、ごめん。気持ち悪かった?」


 少し困った顔をしたお兄ちゃんに、私はふるふると頭を振った。


「ううん。あ、ありがとう」


……初めて声を褒めてもらった。

 学校のみんなには高くて気持ち悪いとか、かわいこぶってるとか言われてばかりで。


 でも自分の声を変えることは出来ないから、だんだん人と話をするのが苦手になっていったのだ。


 声を褒めてもらって少し緊張が解れた私は、食事中お兄ちゃんと色んな話をした。


「趣味とかある?」

「うーん、ゲームとか、かな」


 友達の少なかった私は、家でゲームをするのが好きだった。

……実は結構良いランクまで来ていたり。


「ゲーム? へぇ、どんなの?」

「……FPSが一番好き」

「あー、俺も結構やるよ」

「……わたしの方が、強いと思う」


 思わず口から出てしまった言葉に、お兄ちゃんは堪えきれないというように笑った。


「っはは、急に強気になるじゃん! じゃあ今度お手並み拝見といこうか」


 そう言って私をゲームに誘ってくれた。


――後日ボロ負けしたのは、また別の話。

 妹にはちょっとぐらい手加減してくれても良かったと思うんだけど。

 

 ご飯を食べ終わったら、外はもう真っ暗だった。

 お母さんたちが会計をしている間、お兄ちゃんと一緒にお店の外に出る。

 

 夏の終わりの涼しさが身体を包んだ。


 低木の方を見て、私はあっ、と声を上げる。

 葉の上で、小さな黄色い光が灯っていたのだ。


「……ほたるだな」


 お兄ちゃんが小さく呟いた。


「蛍? あれって、夏前に飛んでるんじゃなかったっけ」

「秋に生まれてくる蛍もいるみたいだよ。ほら、こいつも普通より体が小さい」

「ほんとだ。光も弱々しいけど、頑張って生きてるんだね」

「他の蛍がいない時期だからこそ、弱い光でも綺麗に輝いて見えるんだろうな」

「……そっか。誰にでも、輝ける場所はあるんだね」

「うん」


 ふわりと微笑むお兄ちゃんに、どうしようもなく胸が高鳴った。


――だから。


「これからよろしくね、

「無理にそう呼ばなくても……」

「ううん、大丈夫」


――お兄ちゃんは、私の家族になるんだから。

 この想いに、気づかれてはいけない。





「登録者数が……増えてる……十五万くらい……」

 

 翌日。

 俺は自分のチャンネルを見て言葉を失っていた。


「良かったねぇ〜! 可愛いほたるんのおかげだねぇ〜!」


 唯菜はえらくご機嫌だ。

 後ろから俺の首に腕を絡ませてくる。


「そうだな……まあ、炎上してないから結果オーライってことだよな……」

「だからそう言ってんじゃんっ! コラボしよーよー」

「分かった」

「やー、なんでぇ……え、良いの?」


 唯菜の動きが止まる。

 その隙に俺は、そっと唯菜の腕を解いた。

……俺の精神衛生上良くなかったからな。


「いやもう、受け入れられてるっぽいから大丈夫だろ。もはや鉄は熱いうちに打った方が良いまである」

「やったー!!!」

「……分かってるとは思うが、実の兄妹のフリをするぞ」

「――うん。そりゃあ、ね」


 唯菜は急に神妙な顔つきになった。

 さすがにそこの重要性は理解しているようだ。




 十九時になり、俺たちは配信を始めた。

 

 今回は告知もしておいたし、使うチャンネルは俺より登録者数の多い秋夜ほたるのものだ。

 待機人数だけで一万人に迫っていた。


「皆さん、こんぽた〜! 秋夜ほたるです! 今日はお待ちかね、お兄ちゃんとのコラボでーす!」

「shuriです……昨日は本当にすみませんでした……」

 

《こんぽた!》

《こんぽた!》

《shuri、めちゃめちゃしおらしくて草》

 画面はほぼ挨拶コメントで埋め尽くされていた。

 唯菜の配信の様子を見るのは何気に久しぶりだ。


 ゲーム実況者である俺のリスナーとは異なる次元の熱量に、少し圧倒される。


《ほたるんに質問! 自称ヒキニートのお兄ちゃんだけど、普段どんな生活してるの?》


「どんな生活? そりゃもうお菓子の家に住んでて、朝は山へ芝刈りに、昼は川へ洗濯をしに行ってるよー! たまに熊さんとお相撲したりもしてる! ――あ、でも模試は二十位だよ」


《草》

《草》

《そこだけは誤魔化さないほたるんwww》

《やっぱ20位お兄ちゃんなんだよなー》


「おいほたる、その個人情報は俺のキャラ上めちゃくちゃセンシティブであることを忘れてないか?」

「え、もう今更ヒキニートキャラは無理だって〜! 諦めてお勉強配信しよ!」

「――そろそろゼノスキを始めていこうか」

「あー! 逃げたぁ!」


 唯菜が持ち前のテンションの高さでしっかりと盛り上げてくれたところで、ようやくゲームにログインした。


 俺がグラディウス・ライフルで遠くの敵を撃ち落とす。

 そして、その間に俺の近くまで寄ってきてしまった敵は、唯菜がこっそりと近づいてナイフで切り刻んでいった。


 

「……わ、気づいたらもう二時間くらい経っちゃってるね! そろそろ終わりにしよっか」


 キリの良いところでゲームをやめ、ゲストだった俺は配信を抜けた。


 一人になった唯菜は、締めに投げ銭に書かれたメッセージを読み始める。


 俺の配信には無い文化だ。


「天使のわっかさん。 『今日の晩御飯代』ありがとうございます! アセロラさん。『今日は落とし穴に落ちなかったね』ちょっとー!あれは前回たまたまポカしただけで、いつもやってる訳じゃないんだからね?」


 軽い雑談を交えながら、唯菜は大量のコメントを読み進めていく。


……こんなことを毎回か。よくやってるな。

 そんなことを考えながら、俺は色とりどりのコメント欄をぼんやりと見つめた。

 

「わぁ、みんな投げ銭本当にありがとね! ほたるん大好きさん、『今日もお疲れ様!』ありがとうございます! ふふっ、私も大好きだよ〜!」

「……」


 ふわふわと笑ってファンサをする唯菜に、俺は少し面白くない気持ちになった。


 しかしすぐに、そんな情けない自分に苦笑する。


 ここ数年唯菜の配信を見ていなかったのはファンサを見たくなかったからだと、たった今気づいた。


――本当に、情けない。





「配信終わったよ。ごめんねお兄ちゃん、待っててくれなくても良かったのに」


 私は配信を切り、隣に座るお兄ちゃんに向き直った。


「……いや、いいよ。コメント読んでるVTuberが隣にいるって状況も新鮮だったし」

「まあファンには絶対見られちゃいけない、VTuberの『中の人』の実態だからねぇ」


 そりゃレアな体験が出来た。

 そう言ってお兄ちゃんは微笑む。


 今は並んでゲーミングチェアに座っているけど、お兄ちゃんの顔が見るにはやっぱり少し上を向かなければならない。


「……背、伸びたね」

「急だな……」

「初めて会った時は同じくらいだったなー、と思って」

「ああ、確かに。でも俺が伸びたというよりは唯菜がほぼ伸びなかったんだろ」

「ちょっと、それは言わないお約束でしょー?!」


 私は頬を膨らませて、お兄ちゃんの足の間に座る。

 その衝撃でゲーミングチェアが小さく軋んだ。


「おい、五万の椅子が……っ!」

「私は羽根のように軽いので大丈夫ですぅ〜」


 背中にお兄ちゃんの体温を感じる。

 お兄ちゃんはブツブツ言いながらも私を押しのけたりはしなかった。


 兄妹のじゃれ合いだと思って、基本的になんでも許してくれる。

 だから私も自然にお兄ちゃんに絡んだりくっついたり出来るようになった。


……多分、そうしていれば逆に気付かれない。

 絶対に気づかれちゃいけないことには。


「――なんか、お兄ちゃんの椅子に座ったらエイムもイケる気がしてきた」

「……気のせいだな」

「うぇー、エイムの神様お助けくださいぃ……」

「神に縋る前に練習しろ」

「練習かぁ……お兄ちゃんが付き合ってくれたら頑張れる気がするんだけどなー?」

「……はいはい。言ったからには付き合うよ」


 お兄ちゃんは少し呆れた顔をしながらも了承してくれた。


「やったぁ! お兄ちゃん大好き!」


……毎日言っておけばだって気づかないでしょ?

 自然に言えるように、配信でたくさん練習したんだから。


 お兄ちゃんが何の反応も示さないのは少し寂しくも感じたけど、それでもバレてない安心が勝つ。


――でも今回、お兄ちゃんは何故か無言になった。


「……お兄ちゃん?」


 

 返事の代わりに、後ろからぎゅっと抱きしめられる。


「……っ!?」


 私からくっついたことは何度もある。

 でもお兄ちゃんから触れられたことは一度もなかった。


 

「それは……リスナーに言ってるのと、同じか?」

「へ? あ、ちがっ……」

「……」


 どういう、意味。

 答えなんて分かっていながら、心の中でそう問わずにはいられなかった。


 小さく呼吸をし、早鐘を打つ胸をどうにか抑え込む。


「――あ、あのね」

「……うん」

「活動を始めてまだ三年目だけど、界隈で私の名前を知らない人はほぼいなくなったんだ」

「……すごいな」

「トークが上手になったね、ってマネージャーにも褒めてもらえた」

「唯菜の努力の成果だよ」

「登録者数は事務所で二番目になったんだ」

「さすがは俺のいも――」

「――だからね」


 私はお兄ちゃんの言葉を遮って、精一杯に微笑んだ。



 

「私は正真正銘のプロになったよ。今なら隠し通せる。――どんなことでも」


 

 


 

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