トラック転移したんだが、歳をとるなんて聞いてない

藤浪保

トラック転移したんだが、歳をとるなんて聞いてない!

 気がついたら俺は真っ白な世界にいて、目の前に天使がいた。


「あなたはトラックにひかれて死にました。ですが魔王を倒す勇者として生き返ることが出来ます。どうしますか」

「勇者になります!」

「では異世界に飛ばします。年齢を肉体的に最も適している二十二歳に設定します。モンスターを倒して経験値を得ればレベルが上がるので、魔王を倒すまで頑張って下さい」


 * * * * *


「ここは……」


 目を開けると、青い空が広がっていた。


 起き上がれば草原にいることを知る。


 服装はRPG世界の村人のような格好だ。


「そっか、俺は異世界に飛ばされたんだっけ」


 手を握ったり開いたりしてみる。なんとなく手が大きくなったような?


 そういや、二十二歳にするって言ってたっけ。


 自分の体をぺたぺたと触ってみると、筋肉がついていることがわかった。なんと腹筋が割れている。グッジョブ天使!


「それで、俺はこれからどうしたらいんだ?」


 とりあえずやることと言ったらこれだろう。


「ステータス・オープン」


 目の前にゲームのウィンドウのようなものが開いた。


「何々、経験値ゼロ、レベルは一か。年齢は二十二歳、職業は勇者。装備は木の棒。所持金千ゴールド。ふむふむ」


 HPやMPなどのパラメータは高いのか低いのかよくわからない。スキルの欄は空っぽだ。


 木の棒は横に落ちていた。ポケットのなかには金貨が一枚。これが千ゴールドなんだろう。


「さて、じゃあまずどうするかな」


 立ち上がって遠くを見てみると、城壁が見えた。街があるのだろう。ならばそこを目指すのみ。


 手元にあった装備品の木の棒を持って歩いていると、途中でスライムを見つけた。


 棒で何度か殴るとスライムは消えた。


「ステータス・オープン」


 経験値の欄が四に増えていた。スライム一匹当たり経験値は四ということか。


 スライムがいたところには銅貨が一枚落ちていた。拾うと所持金が一ゴールド増えた。銅貨なのに単位がゴールドとはこれいかに。


 それから街に着くまでにさらに四匹倒すことができた。


 ステータスを開いて戦果を確認する。


「あれ? 経験値が十九しかない。同じスライムでも個体によって経験値が違うのか」


 俺は城門を抜けて街に入った。


 目指すは冒険者ギルド。


 たぶんあるだろうと睨んでいたそこは、すぐに見つかった。


 冒険者登録をし、スライム退治のクエストを受ける。クエストの進行度合いはギルドカードに記録されるらしい。超便利だ。


 その後夕方までスライムを倒して初めてのクエストをクリアし、経験値は合計で九十八になった。レベルはまだ上がらない。


 夜は宿屋に泊まった。


 * * * * *


 次の日。


 目が覚めて見慣れない場所にいることに少し混乱し、異世界に飛ばされたことを思い出す。


 確認のためにステータスを表示させる。


「験値が七十しかない……」


 昨日は確かに九十八だったはずだ。百までいけばレベルがアップするかもしれないと期待したのだから絶対だ。


 俺は首をひねりながら、冒険者ギルドに向かった。


 レベルが上がるまではスライムを倒すクエストを続けるつもりだ。



 * * * * *


 数日して、俺は経験値が時間経過と共に経験値が減っていくことを知った。


 確認のためにわざとモンスターを倒さない日を設けたところ、上がったレベルが経験値の減少と共に下がった。


 モンスターを倒し続けなければいけないようだ。


 * * * * *


 レベルが上がり上位のクエストがこなせるようになった頃、俺は次の街へと出発した。


 旅に出てわかったのだが、魔王討伐の旅は思っていた以上に過酷だった。


 とにかく魔王城が遠い。


 まっすぐ行っても二十年はかかる。


 途中で色んな所を攻略していくとなると、三十年か四十年はかかると思われた。


 萎えそうになったが、行くしかない。それが約束なのだ。


 そうしてこの世界に来て一年が経った時――。


「んあ!?」


 日課の起床直後のステータス確認において、俺は驚愕の声を上げた。


 経験値がごっそりと減っていたのだ。


 なんで!?


 ステータス画面を何度見ても、その結果は変わらない。レベルに至っては二つも減っていた。


 各種パラメータも軒並み減っていて、増えたのは年齢だけだった。



 * * * * *



 数年後、俺は知る。


 歳を取るとともに、経験値の減少速度が増すことに。


 それはこの世界では常識だった。


 老化なのだ。


 最盛期である二十二歳でスタートした俺は、後は衰えていくばかり。


 しかも俺は勇者としてレベルアップが早い代わりに、レベルダウンも早いのだった。


 まだモンスターを倒していれば収支はプラスにはなっているが、いずれ追いつかなくなるだろう。


 毎日の増加分を減少分が上回るのが先か、魔王を討伐するのが先か。


 それは俺にもわからない。

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トラック転移したんだが、歳をとるなんて聞いてない 藤浪保 @fujinami-tamotsu

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