Episode8:La Belle au Bois Brûlant
「どうぞ、召し上がれっす〜!」
目の前には綺羅びやかな食器に、ブロックに切った大きな牛肉を野菜と煮込んだ料理が盛り付けられている。思わずヨダレが垂れそうになるのを慌てて防ぐ。
「おお〜美味しそうじゃん」
城の案内が終わった後、スイリンと俺は居館にある王族や関係者専用食堂にやって来た。いつの間にか太陽は昇っていてお昼時になっている。約束通り、スイリンは俺にゲートルート料理を振る舞ってくれるらしい。
正直、前の世界のとはかけ離れたグロテスクな料理が出てくるかもしれないなどと内心不安だったが、実際出てきた料理を見てほっと胸を撫で下ろす。それに、安心すると急に食欲が湧き上がってきた。
「さ、どうぞどうぞ」
「では、遠慮なく……んっ、うまい!」
とろけるような肉とその旨味をたっぷり含んだ野菜の組み合わせが素晴らしい……。良かった。転生したのがこの世界で本当に良かった。
「スイリン、すごいな。これめっちゃうまいぞ」
「えへへ、ありがとうっす」
「スイリンは料理も担当してるのか?」
「いつもじゃないんすけど、お祝い事とか緊急時とかは手伝うっす」
すごい……。なんたる生活力。うちの妹に見習わせたいぐらいだよ。
「しかもっ、実はこの牛や野菜は、城内にある農地で育ててるんすよ。ほら、ここからでも見えるっす」
そう言って、スイリンはウキウキと飛び跳ねるように部屋の窓際まで行って外を指差す。
「ほら、そこに……って、あれ」
彼女の表情が突然曇った。
「えっ、ウソ。どういう、こと……?」
目を大きく見開いて口元に手を当てている。後ろ姿からかすかに震えているのが分かる。
「おい、大丈夫か」
俺は慌ててスイリンのもとへ駆け寄り一緒に窓の外を見る。確かにそこには農地が広がっている。しかし、そのほとんどが燃え盛る炎に包まれており、あたり一面に真っ白の煙がもくもくと立ち昇っている。火災だ。
「早くなんとかしないと。手遅れになるっ」
スイリンは弾丸のように部屋から飛び出していった。
「おい!待て」
俺も後に続いた。
「こんなこと初めて起こったっす。今まで何事もなかったのに!何かおかしいっす」
急いで階段を駆け下りて外に出る。すでに焦げ臭い臭いと煙が漂っており目にしみる。
「こっちっす」
「分かった!早く行こう」
数十メートルほど走るとますます熱風を受ける。畑の近くには人だかりができている。スイリンと俺は人混みをかき分けて最前列まで進み、事件の現場を確認した。
思わず足が竦む。目の前で広大な土壌に豊かに育った多種多様な野菜が燃え盛っている。近くで見ると迫力が違う。すぐに自分たちの力ではどうにもできないことを悟った。
「誰か、水の魔法を使える人はいませんかっ!」
そう言って振り向くやいなや、ローブを身に着けた男たち数人がやってくる。
「第3護衛団予備軍の消防隊だ。これより消火活動を行う」
彼らは弥次馬を下がらせると横一列に並び手で輪を描く。そして、中心のリーダー格の男が「放て!」と叫ぶとその輪から一斉に勢いよく水が吹き出した。噴射された水はまっすぐと炎のもとへ向かう。
「これでひとまず安心だと考えよう。後は畑の無事を祈るだけ――」
しかし、スイリンは俺の言葉を遮る。
「ちょっと待って、あれを見るっす」
スイリンが指を指した方向を見ると燃え盛る火と煙の中、奥の方で一本の矢が土に刺さっていた。そして小声で俺に耳打ちした。
「あれ、火矢っす」
「火矢?誰かがここに火を放ったってことか?」
「絶対そうっす。でもこのままだと矢ごと燃えて証拠が消える……早く取りに行かなくちゃ――」
「待て。落ち着け、危険すぎる。ここは俺が取りに行く。昼飯の礼だ。それに、考えがあるしな」
自分の頭を人差し指で突きながらそう言って俺は急いで駆け出した。幸い、消火活動が始まっているおかげで所々歩けるようにはなっているものの、灼熱の空気のせいで一瞬にして、全身から汗が吹出し、口の中に流れ込む度に強烈な痛みを感じた。威勢よく飛び出した自分を若干恨む。背後からスイリンや消防団の声が聞こえる気がするがかまっている暇はない。
ようやく矢が刺さっているところまでたどり着いた。振り返るも、煙が邪魔でスイリンや消防隊の姿はほとんど見えない。そっと矢の上端に手を当ててみると、その部分だけポロポロと崩れ落ちた。やっぱりな。火にさらされて劣化してる。もう手遅れだ。しかし、まだできることならある。矢の刺さっている方向から察するに、おそらく犯人は居館とは反対側から矢を放った。さらに、角度からしてあまり近くからではないだろう。と、するとその場所として第1の候補にあがるそうなのはあの小高くなった丘だ。500メートルほど離れている。
目をこらしてみると丘の頂上付近で小さな人影が動いた。
「!?見えた。あいつが犯人か」
急いで頭の中でスナイパーライフルの形状をイメージする。周囲で光の粒が浮き上がり手のひらの上で収束する。しかし、生成されたのは再びハンドガンのSA-Wだった。仕方がない。
相手はまだこちらに気づいていない。慎重にエイムを合わせる。
はじめの1発目。弾丸は目標よりも大分低い位置に飛んでいった。
次の2発目。高さはほとんど修正されたものの大きく右にずれた。犯人はさすがに異変に気づいたようでその場から離れようとする。
高ぶる気持ちをなんとか抑える。落ち着け、俺。
3発目。今度は、高さ、左右が修正された弾丸が完璧な軌跡を描いて犯人の肩に命中した。やったか。
だが、犯人は倒れることなくその場からすぐに姿を消し去ってしまった。
「おいっ!大丈夫か」
いつの間にかほとんど火は消されており、もくもくと立ち込める煙を手で払いながら消防隊やスイリンが駆け寄ってきた。
しかし、俺は無事であることを伝えるために笑顔を向けようとした時だった。彼らはふと立ち止まった。俺が不思議に思って見ていると彼らの顔にはしだいに驚いた表情が浮かび上がってきた。目が合わない。視線は俺を貫いて背後に向けられている。
俺も急いで振り向いて煙が晴れていく畑の方を見ると事情はすぐに分かった。
「嘘だろ……どうしてこんなところに」
なんと前方で俺のよく知っている少女が地面に膝立ちしたまま俯いて眠っていたのだ。さっき学堂で見たばかりの少女だ。
そう、アリス=レッド=ロザリュークが。
プロになるはずだった天才fpsプレイヤーが銃を手にして異世界転生!?世界でたった独りのガンナーとして名門貴族に迎え入れられる 鳴雷海影 @forlune2005apo
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