裏参道の鬼 その4
素空と栄雪は
小山はよく見ると5間(9m)の間をおいて石積みが施され、ところどころに四角い境界を示す仕切り石が置かれていた。石積みが結界だと言うことを初めて知った素空は、以前に来た時には全く気付かなかったことを不思議に思った。
栄雪に結界の存在を説明しながら、素空はその結界が随分昔に張り巡らされたことに気付いた。グルッと回って観音寺のすぐ傍の石段の
栄雪が石を集めて素空の傍らに立った時、気味の悪い声が、
素空が答えて言った。「栄雪様、この辺りは盗賊や、罪のない人々のやり場のない思いが籠った魂の墓場なのです。この中の霊は、
栄雪はこれから何をするのか、その方法を訊こうとしたが、素空は今夜のうちに
栄雪は、すべて素空の意のままに動き、素空が動きやすいように仕えることが自分の使命であり、それが僧としての修行だと決めていた。
素空は改めて経を唱えながら、結界の綻びを
「古い結界はさぞかし力の強いお方が張り巡らしたのでしょう。私の力では結界同士を結ぶことができませんでした」素空の言葉に、栄雪が勇気付けるために言った。「どの道にも達人、あるいは玄人なる人がいるものです。素空様であればすぐに同じお力を得ることでしょう」
素空は結界の作り主を想像していた。野盗の襲来が治まった頃だろうから、それほど昔のことではないと思った。素空はぼんやりと30年ほど前にこの地に遣って来て、この周辺に強固な結界を張った行者のことを思っていた。そして、栄雪の言葉の通り、結界を張り、鬼と戦う行者が実在するのだと実感した。
素空と栄雪は結界の修復が終わると、脇の石段を上って志賀観音寺の境内に入った。門の両側の
「栄雪様、薬師堂の仁王像をご覧になっても驚かなかったのに、今更ではありませんか?観音寺の仁王像は、玄空大師と私が手入れした本物だから、息遣いや目の動きで生きている証をお示しなのですよ」
栄雪は照れくさそうに弁解した。「何も構えておりませんでしたので…
2人は笑いながら境内を進み、本堂まで遣って来た。
3人は
栄雪が裏山の結界の話をすると、一貫は仁王像の手直しがすんだ日に賄いのおウスが闇に包まれた話をした。
素空が
「その通りです。何でも子供の頃に同じようなことがあったそうで、それ以来1度もなかったそうなのですが、何で今頃になってそのようなことになったのか、皆目分からないと仰せでした。おウス様は翌日、昼頃まで床に就き、その後はいつもと変わらないほどお元気になられたそうです」一貫はそう言うと、素空が何か知っているかのように覗き見た。
素空は結界の
一貫は驚いた。こともあろうに寺のすぐ脇の小山に、悪鬼悪霊が居付いていたとは思いも掛けないことだった。
一貫が言った。「この地にあった寺が、野盗に2度も焼かれたため30年の時を経て同じこの地に建てられたと聴いています。この辺りで多くの血が流され、裏山には夥しい人の
素空が言った。「残念ですが、現世を彷徨う霊を
すると傍らで聴いていた栄雪が興味深いことを尋ねた。「素空様、結界の中の霊はどのような者達でしょうか?そして、結界の中で語り合うことはできないのでしょうか?」
素空は、栄雪の言葉にハッとして深く思いを巡らした。
そして、しっかりとした口調で語り始めた。「栄雪様、よくぞおっしゃって頂きました。おかげさまで地伏妖の手に掛かる前に、
志賀観音寺にある3本の桜には無数の蕾が大きく膨らみ、桜祭りを今か今かと待っているようだった。
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