第13話 神隠し
母親は、何度か鼻をすすりながらぽつぽつと話し始めた。
「私の父と父の弟――叔父は、あの日些細な喧嘩をしたみたいなんです。それぞれ別行動したって。父は祭りに来ていた友人とたまたま出会って、そのまま遊んだそうです。でも、家に帰っても叔父はいなかった」
彼女の父はそのことをとても後悔したらしい。以来、家族は絶対祭りに行かなかったそうだ。それは娘である彼女も例外ではない。
「……でも、十年以上前の話だし、本当に神隠しかどうかもわからないし、うちの子だけ遊びに行けないのは可哀想だなって。私も、子供の頃そう思っていたから……」
それが本当に神隠しなのかどうかは僕にはわからないが、少なくとも、一人の少年が消えているのは事実のようだ。ここまで不安になる気持ちもわかる気がした。
「先生、どうかされたんですか」
トイレから戻った内村が、驚きながら現れる。僕は軽く事情を説明した。
「ですから、今から探しに行きませんか」
「いいんですか……?」
母親は、子供と一緒にいた時とは随分印象が変わり、弱々しい声たずねてきた。内村は、当然だという表情を浮かべて母親に話しかける。
「もちろんです。まだ少ししか経ってないんです、探せば見つかりますよ」
「あっ……ありがとうございます!」
母親は泣きながら頭を下げた。
あのあと、内村と僕、母親はそれぞれ手分けをして探し始めた。境内は広くないものの、やはり人が多いため苦戦を強いられ、結局僕と内村は少年を見つけられず合流した。
「くそ、少年はどこにいるんだ……」
「いないとなると、林の中とかでしょうか?」
内村が社の奥にある林を指さす。正直、林には流石に行っていないのではないか?と思った。というのも、社側はまだ整備されているものの、その奥は人の手が入っていない様子だ。少年が例え林に入ったとしても、奥まで行かないのではないかと思い、捜索は頭に入れていなかった。
「念のため探しますか。もしかしたら、怪我をして動けないのかもしれないから」
僕と内村は林を探索することにした。
林は夏場ということもあり、草木が多い茂っている。10歳ぐらいの子供がすっぽり隠れるような場所はないが、万が一ということもあるので、念入りに探す。
「タツヒコ君ー!お母さんが探してるよー!」
しかし10分を過ぎても、僕と内村の呼びかけに応える声はない。ここにもいないのか、と諦めかけたその時。
ドン、ドン、ドン、と太鼓の音が響いた。
「太鼓ですかね、盆踊りが始まったんでしょうか?」
しかし、それはおかしなことだった。この祭りは僕の知る限り今まで一度も盆踊りなど開催されたことはない。
何か嫌な予感がした。
「内村さん、戻りましょう。一度母親と合流しないと」
僕は戸惑う内村を連れ、半ば強引に境内へ戻ることにした。
木々をかき分け、視界が開ける。
「あ、あれ……?先生、ここって……」
目の前に広がったのは、確かに先程僕達がいた神社だ。
しかし、それ以外がおかしい。
先ほどまであった屋台や人々の、何もかもが違っていた。
全員浴衣姿でお面をつけ、太鼓の周りで踊っている。
「内村さん……僕達、厄介なことになったみたいですね」
凡才作家と帯刀青年〜悪霊を添えて〜 笹倉亮 @samanoginngamiyaki
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