ユーメリナの判断

「というわけで、リナでもジオでもない挑戦者として、ルミナと一緒に出場したいんだ」


 ユーメリナに丁寧に説明する。

 ジオ族に、ルミナという女の子がいること。

 ルミナはリナリナとも仲が良いこと。

 右手の指先から炎を出せるルミナは、ガラス細工に必要なバーナーの炎を作り出すことができる。

 そして、日本から持ってきたバーナーはガスの残量が少なく、魔王カップの最中にガスが切れてしまう可能性があること。


「ふーん……。まあ、バーナーのガスが切れたら、タクミはガラス細工ができなくなっちゃうことは分かったわ。これは深刻な問題ね」


 俺はほっとする。

 ユーメリナは納得してくれた。バーナーのガスが無くなりそうで、それは深刻な問題であることについて。それならば彼女にも辿り着いてもらえるだろう。考えられる解決策は、一つしかないことに。

 するとユーメリナは、ニヤリと口角を上げた。


「要は……好きになっちゃったんだよね? そのルミナって娘が」

「な、な、な、なにを言っているんでございましょう!?」


 なんでいきなりそんな話になるんだ?

 彼女は俺の話を聞いていなかったのか? そういう話をしていたわけじゃないのに。

 予想外の返しをされて、敬語も変になってしまったじゃないか。


「だってそうじゃない。その娘と二人で一つの物を作りたい。そういうことでしょ?」

「い、言い方が……」

「違うの? そのルミナって娘と一緒にガラス細工を作りたいのよね?」

「へえ、そうだったの? ボクは気づかなかったなぁ」

 リナリナまで!?

 だから何回も説明してるじゃないか、ルミナの炎がないと俺はガラス細工ができないんだって。

 それに他にもちゃんと理由があるんだ。

「違うんです。ルミナの炎を使うと、すごくガラスが加工しやすくなるんです。なぜだかは分からないんだけど……」


 ルミナの独特なバーナーの炎。青白き光に赤い筋が混じる独特な色合いだった。

 そしてあの時、明らかにガラスの振る舞いが違っていた。ガラスパイプに息を吹き込んだ俺は、変形していくガラスを意のままに操ることができた。それは、あの特殊な炎の影響だったんじゃないかと思っている。

 しかし俺の説明を聞いて、ユーメリナはくっくっくっと笑い始めた。


「その理由をお姉さんが教えてあげよっか?」

 何だか嫌な予感がする。

「それはね、タクミの気持ちがノッてるから。その娘の炎のおかげじゃないんだよ。そういうのを何て言うのか知ってる? 恋って言うの。覚えておきなさい」

 そして大きな声で呟きながら、ユーメリナは工房を出て行ってしまった。

「あーあ、結局私が出ることになるのね。パパやみんなを説得するのも面倒臭いなぁ。でもいっか、このソーダ石灰ガラスがあれば、私も勝てそうな気がするもんね。この借りは絶対返してくれるよね、絶対、絶対、絶対だよね……」


 俺はユーメリナを呼び止めて、誤解を解きたい衝動に狩られる。

 が、理由はどうであれ、彼女は認めてくれた。俺が挑戦者として出場することを。さらに村長も説得してくれるという。そのことが俺をその場に踏みとどまらせる。

 翌日、ユーメリナは村長をはじめ村の人々を説得してくれた。結局魔王カップには、俺は挑戦者として、リナの代表にはユーメリナが出場することとなった。

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ガラスの丘リナ つとむュー @tsutomyu

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