生きているならリソースだ

ユウキ「それで、カエル。俺たちはどれに乗るんだ?」

カエル「今回、これらは使用しません」

アヤセ「えっ?」

ユウキ「でも、俺たちが宇宙生命体と戦うんだろ?」

カエル「対処していただきます」

ユウキ「それって……」

カエル「それでは装備を整えます。こちらの部屋にお入りください」

   カエルはドアを開ける。


    * * *


   宇宙服に着替えたアヤセとユウキ。

カエル「準備ができました」

アヤセ「待って。作戦、まだ説明されてない」

ユウキ「そうだ、敵はどんなヤツなんだ?俺たちはどうすれば……」

カエル「問題ありません。準備は万全です。任務の成功率は99%、心配ありません」

   ユウキとアヤセ、顔を見合わせる。

カエル「それでは作戦を開始します。『ノア』運営へのご協力、感謝します。」

ユウキ「質問に……」

カエル「(被せるように)権限が……」

アヤセ「答えてよ!」

カエル「いってらっしゃいませ」

   ピッ、と何かが起動した音がする。

   エアロックが解除され、宇宙空間に通じる隔壁が開いていく。

ユウキ「おいおいおいおい!」

   二人はこらえるが、アヤセは耐えきれず宇宙空間に放り出される。

アヤセ「きゃっ!?」

ユウキ「アヤセ!」

   ユウキは手を伸ばす。

   アヤセの手までもう少しのところで、つかめない。

   そのままアヤセは宇宙空間に勢いよく飛んでいき、

ユウキ「えっ?」

   グロテスクな海洋生物のような生物に捕食される。

   ユウキは驚いて、掴まっていた手を放してしまう。

   宇宙空間に飛び出したユウキは、もう一体いた宇宙生命体に噛みつかれる。


○宇宙船『ノア』・司令室

   大きなモニターに、ユウキが捕食されている映像が映し出されている。

   それをデスクで眺めている人物と、ミツバチのマスコットのようなAI。

ミツバチ「敵性宇宙生命体を対処できました。お疲れ様でした、司令官」

司令官「対処って……ただ生徒たちをその……食べさせただけじゃないか」

ミツバチ「はい。宇宙生命体への対処法の一つは、人間を捕食させることです。彼らの胃袋が人間で満ちれば満足して巣に帰っていきます」

司令官「せめて、戦わせてあげることはできなかったのか。あの戦闘機に乗せてあげることだってできたんだろう?」

ミツバチ「可能ですが、コスパが悪いです」

司令官「コスパだと?」

ミツバチ「はい。今回襲来してきた小型タイプは人間を一体食べると満足して巣に帰っていきます。

 しかし、小型ながら強力な個体でしたので、作戦の成功率は低く、仮に撃退したとしても被害が出る可能性があります。

 また、戦闘した場合は燃料や弾薬、機体といったリソースを消費してしまいます。

 今回については人間リソースを切るのが一番丸いかと。

 また、あの二名に関しては、クルーとしての能力もさほど高くありませんので、大きな問題はありません。

 仮に生存して戻ってきても、コールドスリープしていない人員のその後の維持費もバカになりません。

 また、あの二名は……」

司令官「もういい。もうやめてくれ、気分が悪い」

ミツバチ「いかがいたしましたか。何かお薬が必要ですか?

 それとも、食事かコーヒーか。アルコールもご用意できますし、ご要望とあらば気持ちの軽くなる薬物でも」

司令官「そうじゃない」

ミツバチ「これから貴方は、この宇宙船『ノア』の導き手として、様々な判断をしていただかなくてはなりません。

 なるべく健やかに、宇宙船運営を楽しんでいただきたいと思っています。

 我々AIチーム一同で指導者たる貴方のサポートを行います。

 貴方が万全でいるためでしたら、何なりとお申し付けくださいませ」

   ミツバチの後ろにミミズとスズメのようなAIが現れる。

   スズメはミミズを食べようとするが、ミミズは床にもぐって消える。

司令官「急に目覚めさせられたと思ったら、こんなことをさせられて……私に何をしろと言うんだ」

ミツバチ「貴方の職務は、宇宙船『ノア』のあらゆるリソースを管理し、目的を果たすことです」

司令官「リソースの管理……そのリソースには人間も含まれる、と?」

ミツバチ「その通りです。『ノア』には大勢の人間がコールドスリープ状態にあります」

   モニターにコールドスリープルームが映し出される。

   ユウキたちがいた部屋以外にも、数え切れないほどの大量に部屋がある。

ミツバチ「宇宙生命体の襲来により、自動運航ができなくなりました。

 よって、ここからは司令官のあなたが、彼らを使ってこの船を運営していく必要があります」

司令官「使うってどうやって」

ミツバチ「目覚めさせた人間はクルーとして使用できます。

 宇宙船の管理や修理を行うエンジニア、宇宙生命体と戦うパイロット、近くのスクラップ星に降り立って物資を集めるレンジャーなど、

 様々な役割に適正を持った人間がいます。そういった優秀な人材は大切にしましょう」

司令官「さっきの彼らは?」

ミツバチ「彼らはシビリアンです。この船内では特に役割はありません」

司令官「どうして彼らだったんだ」

ミツバチ「ガチャです」

司令官「は?」

ミツバチ「誰を目覚めさせるかはランダムなのです。

 正しく言うと、どのポッドにどんな人物が入っているかの情報が私どもにはありませんので、

 ガチャみたいなもの、という意味が正しいですね」

司令官「人間の命を何だと思ってるんだ」

ミツバチ「リソースです」

司令官「…話にならない」

ミツバチ「浮かない表情ですね。娯楽が少ない環境です、人間の貴方には無理もありません。

 せめてもの慰みと思い、目覚めた者たちの記憶データを閲覧できるようにしましたので、読み物としてもお楽しみいただけます。

 先ほど解析を終えたイクミ・アヤセの記憶を閲覧しますか?」

司令官「いらない」

ミツバチ「彼女はお気に召さない?では他の人間を目覚めさせますか?

 解凍にはエネルギーを消費しますので、何回もガチャを回すことはできませんが」

司令官「もうたくさんだ。こんな仕事やりたくない」

ミツバチ「そうですか、任務を放棄されると?」

司令官「そうだと言ったら?」

ミツバチ「仕方ありません。貴方を処分して、次の司令官候補に起きていただきます」

司令官「何だって?」

ミツバチ「わかりませんか。人間はリソースなのです。貴方は人間です。つまり、貴方もリソースなのです」

   司令官は脱力し、うつむく。

ミツバチ「わかっていただけたようですね。それではこれからどうぞよろしくお願いします、司令官」

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ぼくらはみんなリソースだ いいしろみ @E463

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