ぼくらはみんなリソースだ

いいしろみ

ぼくらはみんな生きている

○宇宙船『ノア』・コールドスリープ室

   無機質な白い部屋の中にコールドスリープ用のポッドが並んでいる。

   そのうちの一基がプシュウ、と音を立てて蓋が開ける。

   中に寝ていた制服姿のアスマ・ユウキ(17)がゆっくりと目を開ける。

ユウキ「ここは……みんなは!?」

   隣のポッドが作動し、蓋が開く。

   中には同じく制服姿のイクミ・アヤセ(17)が寝ている。

ユウキ「アヤセ!大丈夫か!?」

アヤセ「ユウキくん……?あれ、私たち学校にいて……」  

ユウキ「君も何があったか覚えてないのか」

アヤセ「うん……もしかして、クラスのみんなも……?」

   アヤセが隣のポッドを覗き込む。

アヤセ「マユ!」

   中にはクラスメイトの女子が眠っている。

ユウキ「集団誘拐か……?」

カエルの声「誘拐とは人聞きが悪いですね」

ユウキ「誰だ!?」

   ユウキの前にホログラムでカエルのマスコットような映像が現れる。

アヤセ「はじめまして、カエルです。この船の管理を任されているAIの一つです」

   ユーモラスな見た目に反して、慇懃な態度で一礼するカエル。

アヤセ「管理って……それじゃマユも、他のみんなも起こしてもらえる?」

カエル「その権限は私にはありません」

ユウキ「じゃあ誰に?」

カエル「お答えする権限も、私にはありません」

ユウキ「話にならないな……じゃあ、ここは何なんだ?船とか言ってたけど」

カエル「宇宙船『ノア』の第3コールドスリープルームです」

アヤセ「コールドスリープ……私たち、どれくらい寝ていたの」

カエル「お答えする……」

ユウキ「権限がないんだな、わかったよ」

カエル「助かります」

ユウキ「じゃあ、俺とアヤセは何のために起こされたんだ?俺たち自身のことだ、質問する権利はあるだろ?」

カエル「いい質問です」

アヤセ「よかったね、悠輝くん。褒められて」

ユウキ「…のんきだなぁ」

カエル「あなた方ふたりを含む、地球上の若者のみなさんにはこの船に避難していただきました」

アヤセ「避難って……地球に何があったの?」

カエル「近い将来に地球が崩壊するレベルの危機が予測されています。人類はみなさんに生き残りのチャンスを託して送り出したのです」

アヤセ「そんな……それじゃお父さんとお母さんは……」

カエル「きっとあなたの無事を祈ってますよ」

ユウキ「…それで、俺たちは何をすればいいんだ」

カエル「みなさんには生き残っていただかなくてはなりません。しかし、一つ問題が起こっています」

ユウキ「問題?」

カエル「はい、現在ノアは……」

   突然、轟音が響き、船内が大きく揺れる。

アヤセ「な、何?」

カエル「宇宙生命体の襲来です。対処しなくてはいけません」

ユウキ「対処って……え、俺たちが?」

カエル「はい、アスマ・ユウキさん、イクミ・アヤセさん。あなたたち二人には戦闘員として、対応にあたっていただきます」

アヤセ「戦闘……そんなの、できないよ」

カエル「大丈夫です。心配ありません」

ユウキ「お前AIなんだろ、無人機で戦ったりできないのかよ」

カエル「私自身は非戦闘用AIです。また、宇宙生命体の対処はとある事情で同じく生命体であるみなさんにしかできません」

ユウキ「なんだよ事情って」

カエル「お答え……」

ユウキ「もういい」

カエル「助かります」


○宇宙船『ノア』・通路

   ユウキとアヤセが、カエルに先導されて歩いている。

アヤセ「…マユと新しいカフェ行こうって話してたんだけどなぁ」

ユウキ「二人、仲良かったよな」

アヤセ「うん。すっごい頼れる親友」

ユウキ「頭いいし、運動もできるし」

アヤセ「それだけじゃないよ、優しいの。色々相談にものってくれて」

ユウキ「へぇ、どんな?」

アヤセ「……」

ユウキ「あ、ごめん。プライバシー」

アヤセ「ううん、そうじゃないけど……えっと」

カエル「記憶の欠如が起こっていますか?」

ユウキ「もしかして、コールドスリープの副作用か?」

カエル「イクミ・アヤセの記憶データ解析……シライシ・マユへの相談内容に関するログが見つかりました」

アヤセ「ちょ、ちょっと」

カエル「うち、アスマ・ユウキに関する相談が8件……」

アヤセ「ストップーーー!」

   アヤセ、カエルに飛びかかるがホログラフをすり抜ける。

カエル「中止しました」

ユウキ「俺に関する相談……」

アヤセ「…そうだよ。相談してたの」

ユウキ「…うん」

アヤセ「私が、ユウキを……その」

カエル「到着しました」

   アヤセ、顔を赤くして口を結ぶ。

   ユウキ、決まりが悪そうに頭をかく。


○宇宙船『ノア』・格納庫

   巨大な人形ロボットや戦闘機が並んでいる。

   それらを見上げながらユウキとアヤセ、カエルが歩いている。

アヤセ「私たちがこれに乗るの?」

ユウキ「戦闘機も人型ロボットは学校のシミュレーターでしか使ったことがないな」

アヤセ「私、成績3だった……」

ユウキ「でも、やるしかないんだよな」

アヤセ「うん。私たちが戦わないと、マユたちが……」

ユウキ「責任重大だな」

   ユウキとアヤセ、決意を固めたようにうなずきあう。

ユウキ「それに……さっきアヤセが何か言おうとしただろ」

アヤセ「うん」

ユウキ「…俺も言いたいことがある」

アヤセ「え……」

ユウキ「これが終わったら言うよ」

アヤセ「頑張らないとね」

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