第三十二話 莫大なお金の行方
周囲の空気を読める優れた人物が一人いた。
「『平氏でなければ人ではない』
一族の者たちが、そんな馬鹿げたことを申していただと?
何たる愚か!
我ら平氏が周りからどう思われているのか、それすらも分からないのか?
無能にもほどがあるぞ!」
こう嘆いたという。
「銭[お金]は……
我ら一族に絶大な権力と有り余る富を
実力を磨いて世のため人のために尽くすどころか、
もはや人ではないほどに腐り果てた平氏一族こそが、人ではないのだ!」
「我らは大きな過ちを犯した。
銭[お金]に依存し過ぎる余り、人としてあるべき姿を失ったのだからな!
我ら平氏はいずれ……
それ
ああ、全てはこの呪われた銭のせいなのか!」
日々大きくなる心痛と比例し、重盛の身体は病魔に
結果として父の清盛よりも先に死んだ。
これでもう、空気を読める人間は誰もいない。
一方……
平氏への嫉妬と憎悪をひたすら
『
明智光秀が言った通りであった。
「銭[お金]の普及は……
日ノ本で最大の内戦を引き起こすという災いを招いたのだ」
と。
◇
光秀と徳川家康の会話は続く。
「幸いなことに、源氏には3人もの『英雄』がいた。
関東の武士たちの人望を集めた
その
義経公は
「『
平氏一族は、こう嘆き悲しんだとか」
「重盛公の父である
平氏一族において絶対的な権力者[独裁者のこと]であったと聞く。
だからこそ『決断』が早く、誰よりも早く『改革』できた」
「
絶対的な権力者の存在なくして、ここまで『徹底的』にはできますまい」
「うむ。
その一方で……
平氏一族そのものは、清盛公に命じられたことをただこなすだけの存在と化した。
「絶対的な権力者が率いる組織は改革こそ早いものの……
『腐る』のもまた早いということですか」
「絶対的な権力者の持つ実力によって、組織そのものの運命が決まること。
これは強みでもあり弱みでもある。
重盛公が平氏一族を率いていれば、平氏は滅ぶどころか数百年続く繁栄を手に入れたかもしれない」
「光秀殿。
それがしは、
今までの話を聞いて……
一つ『妙』なことがあります」
「妙なこと?」
「『源氏との最終決戦である
平氏一族は、
こう書かれています」
「うむ」
「しかし……
肝心なモノの行方が、何も書かれていません」
「家康殿。
肝心なモノの
「光秀殿は、それをお分かりのはず。
意地が悪いですぞ?」
「……」
「平氏一族が持っているはずの、莫大な『銭[お金]』の行方のことです」
「そこに気付かれるとは見事だ。
家康殿」
「……」
「我が明智家の祖先である
ある『言い伝え』が残されていた」
「どのような?」
「土岐家は源氏一族として、
壇ノ浦の戦いにも参加し、敗北を悟った平氏一族が次々に海へと身を投げていくのを目の当たりにしたのだ。
一方で水軍を率いていた
同時に、信頼する部下にこう命じていたという。
『平氏の船には、あるモノが大量に積まれている。
おぬしたちで探し出せ。
ただし、何を探しているかを兵どもに決して悟られてはならん』
と」
「あるモノとは……
平氏一族が持っているはずの、莫大な銭[お金]?」
「うむ」
「兵たちに決して悟られてはならなかったのは……
莫大な銭[お金]があることを知られたら、たちまち略奪が起こるからだと?」
「そういうことだ」
「それで、見付かったのです?」
「平氏の船を隅々まで探したようだが……
見付かることはなかったらしい」
「平氏が三種の
「海の中も探したが、見付かることはなかったらしい」
「
『義経公は、必死に
こう書かれていましたが?」
「あくまで表向きの話よ。
義経公にとって、神器などどうでも良いに決まっている」
「義経公が
「当然であろう。
神器などを取り返して、命を懸けて戦った兵たちが『喜ぶ』か?」
「
神器よりも銭[お金]だということですか」
「義経公ほどの天才でなくても、誰にだって分かる道理であろう?」
「……」
◇
「光秀殿。
平氏一族が持っているはずの莫大な銭[お金]が……
船にもなく、海の中にもないとすれば、一体どこへ行ったと?
まさか
「そうだ、家康殿。
莫大な銭[お金]は忽然と消え失せたらしい」
「そんなことなど、有り得ません!
「壇ノ浦の戦いの後……
義経公は、
もちろん人ではなく莫大な銭[お金]の
「平氏一族の残党狩りの目的が、銭[お金]を探すためであったと!?」
「うむ。
あの義経公がどれだけ探しても、莫大な銭の行方は
『平氏に勝てば莫大な銭を我が物にできる!』
銭を得ることを目的に命を懸けて戦った兵たちの心は、急速に義経公から離れていったのだ」
「光秀殿!
『平氏を滅ぼした義経公は、やがて兄の頼朝公と対立した。
義経公は
京の都の人々は皆、大義名分を得た義経公が圧倒的に有利だと思っていた。
ところが!
最終的に義経公には誰も味方せず、圧倒的に不利となって京の都から逃亡した』
と」
「当然であろう。
こういう言葉があるではないか。
『銭[お金]の切れ目が、縁の切れ目』
だと。
銭のない義経公に忠誠を誓う者など、誰もおるまい」
「そんな馬鹿な!
光秀殿。
兵たちは、ただ銭[お金]欲しさで戦っていたと!?」
「家康殿。
これをよく覚えておかれると良い。
『人は……
誰に忠誠を誓うのか?
大名か?
幕府か?
はたまた、
いや違う!
人はいつの時代も、銭[お金]を支払う者に忠誠を誓うのだ』
と」
「……」
◇
光秀が
「四郎次郎殿。
おぬしが、なぜ……
それがしに銭[お金]の歴史を披露するよう求めたかが気になっていた」
「……」
「おぬしは恐らく……
平氏の持っていた莫大な銭[お金]の行方を『知っている』のではないか?」
「……」
「違うか?」
「光秀様。
お見事です。
それがしの完敗にございます」
「ま、まさか!
四郎次郎殿は知っておられるのか!?」
家康はまたも驚きの声を上げた。
「
「言葉?」
「木を隠すなら……
森の中に隠せ。
と」
【次話予告 第三十三話 戦いの黒幕たる武器商人、誕生の物語】
明智光秀はこう言います。
「答えは……
こうなる。
平氏が持っていた莫大な銭[お金]は、『商人』たちの手へと渡ったのだ」
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます