第三十話 徳川家康、先祖から受け継いだ信念
徳川家康と明智光秀の会話の続きである。
「『
光秀殿の
「……」
「しかし。
それがしには、『先祖から受け継いだ信念』があるのです」
「先祖から受け継いだ信念とは?」
「先祖が代々に
ご存知でしょう?」
「足利将軍家一門の三番手である
『三河武士』たちのことか」
「足利将軍家は元々、鎌倉幕府を開かれた
武士の
棟梁の座を巡って頼朝公と争うどころか、むしろ率先して支えました。
頼朝公の死後も棟梁の座を狙わず、一貫して
この姿勢は幕府の
「そのことならよく存じている。
この出来事こそ……
足利将軍家にとって、三河国が最も重要な国となったきっかけでござろう」
「その通りです。
足利家が三河国を賜ってからおよそ100年後。
当主となった
まずは一門の筆頭である
「足利家にとって最も『重要』な……
三河武士たちの協力を得るためか」
「大勢の三河武士たちへ向かって、尊氏公はこう
『この
台風や豪雨による洪水、これに
これらの
銭[お金]のない者は、飢え死にするしかなくなった。
人から奪ってでも食い物を得ようと、強盗や殺人が世にあふれた。
鎌倉幕府は……
この未曾有の危機への対処を誤り、各地で起こった暴動や反乱を抑えることさえできていない!
一方で純粋に民を
この事実に
日ノ本の支配を、国を一つにできない弱く愚かな鎌倉幕府から取り上げることを決断されたのじゃ!』
と」
「……」
「続いて、尊氏公はこう
『おぬしたち三河武士のことを……
わしは、血を分けた弟も同然だと思っている。
だからこそ、兄に力を貸して欲しい。
わしは
わしと共に朝廷の元で一つになって各地の暴動や反乱を
と」
「……」
「尊氏公の言葉に心を動かされた三河武士たちは、足利軍の主力として各地で
残念なことに……
最後は後醍醐天皇に対しても謀反を起こすことを
「家康殿。
三河武士たちが最初に抱いた信念は、確かに立派であったとそれがしも思う。
ところが、どうだ!
細川家が
『強大な武力』を持つようになった三河武士たちは、やがて腐り果てていった」
「……」
「
日ノ本の平和のために戦うどころか、己の都合で勝手気ままの戦いを始めたのだ!」
「……」
「今からおよそ100年前に起こった『
「光秀殿。
腐り果てたのは、一門の筆頭である斯波家と、二番手である畠山家とて同じことです。
そのような状況でも……
我が先祖の
「……」
「その松平一族も……
結局は、弱小勢力であったことが仇となってしまいましたが」
「『
「隣国の強大な大名から侵略を受けるようになったからです。
この両家に挟まれた松平一族は、多くの
最終的には今川家の家臣として扱われることを余儀なくされ、幕府の政治を支えることも、最初に抱いた信念を貫くこともできなくなったのです」
「それで。
家康殿は、こう結論付けられたのか。
『平和で安全な世は、強大な武力を持つ者にしか実現できない』
と」
「光秀殿。
桶狭間の戦いの後……
『織田家は、足利将軍家一門の筆頭である
ところが!
実力を磨くどころか、富や権力をいかに
腐り果てて
そこでわしは……
斯波家に代わって
一方の、おぬしは……
一刻も早く
と」
「……」
「それがしは、信長殿と交わした誓いを守ってきました。
信長殿と一つになって
「……」
「光秀殿。
それがしは……
信長殿を通じて室町幕府からこう命じられております。
『遠江国を、奪った奴から取り返せ』
と」
「……」
「お許し頂きたい。
信玄を怒らせ、あの無敵の武田軍を敵に回すことになったとしても。
それがしは……
『
「……」
「奪った奴から取り返した遠江国を……
「……」
家康の強い覚悟を見て、光秀はこれ以上何も言えなくなった。
◇
「そこまで強い覚悟で臨まれているのであれば、それがしが申すことはもうない。
家康殿」
「光秀殿……」
「先にお伝えした通り、織田家は裏で家康殿を最大限に支援させて頂く。
そのために一人の『武器商人』をお連れしている」
「武器商人?」
「
「茶屋とは……
あの
京の都でも勢いのある武器商人であるとか」
「ご存知であったか。
光秀の脇にいた男が席を立つ。
この男は、別名を明智
◇
部屋の外に控えていた男が、
歳は30ほどだろうか。
「天下に名だたる
この茶屋四郎次郎、これほどの喜びはありません」
「四郎次郎殿。
この浜松へ、よく参られた」
「失礼ながら……
「結論?」
「徳川家康様と武田信玄公との争いは……
あの室町幕府と、そして織田信長公をも巻き込んで泥沼化するでしょう」
「何っ!?
それはどういう意味ぞ?」
光秀と家康は、同時に声を上げた。
【次話予告 第三十一話 お金の普及、災いの連鎖の始まり】
明智光秀はこう言います。
「銭[お金]は、銭を普及させた平清盛自身も、その恩恵に浴した平氏一族をも幸せにすることはなかった。
大いなる『災いの連鎖』の始まりであった」
と。
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