第3話 ゆっくりと死んでいくのは

ぷるんぷるん

プディングが現れた。身体の色が緑に変わっている……抹茶かな?


「おめでとう、そしてこんにちわ、このゲームの企画者で開発者です」

「……!」


黒幕の登場!?


「私の名前は黒木淘汰」

そして、勝手に自己紹介を始めた……、


「君も気になっているだろう、なぜこんなことをしたのか」

「……まぁ、多少は」

「ノリが悪いな……しかたがない、話してやろう」

「ゲームは現実逃避か、無価値か?弟と口論になったんだ。悔しくて、実験することにしたわけだよ、弟がいる大学に手をまわして、手頃なプレイヤーを何人か閉じ込めた」


手頃なプレイヤーって、私のことか


「プレイヤーにも直接ダメージがあった方が、本気で楽しめると思ってね。VRとか、医療分野とかいろいろな研究を応用させてもらった」


あぁ、ダメだ、完全に狂っている。人が怪我するのはダメだろ、下手したら死ぬレベルの危険だ、あり得ない。

「ムカつく、だけどそんなこと、どうだっていい」

私はわなわなしながら続けた。

「こっちだって命掛けてんだ、脱出したら、金、ちゃんとくれよ」

「もちろん」


強気に振舞っていたけれど、内心、不安だった。さすがに怖いわ。

でも、ハッキリと分かったことがある、彼が話した動機は嘘だ。

本当の動機は、彼の停滞だ。


いよいよ最後のステージが始まった。

『宇宙の神秘と決着を付けろ』

「回転木馬は私の企画の原点さ。回る物が好きでね、換気扇とか回転寿司とか」

宇宙空間にそそり立つ巨人像、その周囲を木馬が回る。さらに彼が好きだと言った物の数々が巨大になって、組み合わさって回転している。

最終ステージにして、作り手の闇の深さが感じられる。


土星の輪の様に本体を守る回転寿司のレーン、皿に乗った寿司が次々と襲ってきた。

まずはレーンから皿をずらす、その後、すかさず寿司を無力化する。


横から何かがぶつかってきた。

光学迷彩窃盗団!?水ぶっかけてやる!

上空からはウスが落下してくる!eスポーツ選手に2度同じ手は通じない!


笑えるくらいの敵の数。切り札の『グングニル』も仕掛ける暇が無い。

なんだ、結局最後は根性か……


一瞬の間に黒木淘汰のことが浮かんでくる。

彼は数々の大ヒット作品の生みの親だ。

ゲームファンの間では有名な存在だが、作品の人気は落ちて来ていた。


ゲームの没アイデアがたちが合体し、生まれたのがこのゲーム、例えるならば、ファンタジーに出てくる合成モンスター、キマイラだ。キマイラのゲームだ。


プレイヤーを楽しませる工夫は、企画意図は……不明確。

黒木淘汰は、何をしたいのか、させたいのか分からなくなっているのだ。

センセーショナルではなく、ゆっくり、ゆっくり死んでいくのは彼の方だ。


どれくらい時間が経っただろうか、満身創痍の中、

最後の力で巨像の頭にアームを突き立てる、邪悪な考えを掴んでやる。

アームの位置は絶妙、巨像が崩壊していく、そして……

「最後は爆発かよ!!」

部屋は爆発した。私は爆風に吹き飛ばされ気を失う。


目が覚めた時には、アタッシュケースがそばに置かれていた。

中には現金が詰まっているはずなので、とりあえずベッドの下に隠した。

しかし、中身はゲームセンターのコインだった。確かにプディングは「円」とは言っていなかった。酷い話だ。まぁ、本当に大金を渡されていても没収されただろうし……。


警察からの聴取……

監禁されて、様々な要素が加えられたクレーンゲームをプレイさせられていたと説明したが、とても苦労した。

それでも私は、最後にコメントした、

彼は純粋に面白いゲームのことを考えてやっただけだと。


他のプレイヤーたちが保護された後、

しばらくして、K県のビルの地下に隠し部屋が見つかり、白骨化した遺体が出てきた。

ゲーム企画者として、アイデアが枯渇し、泥沼にハマった挙句、カラカラに干からびた

黒木淘汰だった。彼の弟、武蔵小山のロキは行方不明。


私は奇妙な状況にあった。思えば、ゲームを始めた時から、誰かのアドバイスが度々聞こえていた。部屋に仕掛けられた様々な装置、電気的な刺激、理由はハッキリしないが……

武蔵小杉のロキだ。彼は兄の計画にしぶしぶ協力していたが、途中で反対し、抵抗を示したが、結局は無力化され、最後は実験体にされていた。

空中を漂う『情報』となった彼は、直後に部屋に来た私の脳にたどり着いたのだとか。ゲームで生き残れたのも彼のアドバイスがあったからだ。


面白さもあるが、頭の中に他人がいる気持ち悪さもあって、複雑な心境だ。

多重人格者の様に性格が入れ替わることは無い、おそらく精神その物ではなく、欠片とか残りといったものだと思う。

まぁ、幸いなことにゲームという共通の趣味もある。まぁ……何とかやっていこうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

謎のキマイラのゲーム サーキュレーター @kyapikyapi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ