第3話 武蔵小山のロキ

――福禄寿大学


今から、ちょうど2時間前、格闘ゲームの授業中の出来事だ……。


だっだっ!やぁっ!ガシッ!ダダッダ!てや!


「……」


格闘ゲームの対戦を糸の様に細い目の中年男性が腕を組みながら、じぃーーっと、見つめている。


彼こそが、eスポーツ科の講師。


武蔵小山の小さなゲームコミュニティ出身で、2D格闘ゲームの数々の伝説を達成した武蔵小山のロキである!


通称『ムサコのロキ』とも呼ばれている。

もっと短く、『ムサロ』と呼ぶ者もいる……が略し過ぎて、意味不明である。


ちなみに彼は日本人だが、愛称に北欧神話の神の名を冠している。


北欧神話はゲームの設定等でよく登場するので、ゲーマーにとっては馴染み深いのである。主神であるオーディン様くらいならみんな知っている、これ、ゲーマーあるある。


またまたちなみに『武蔵小山のロキ』なのだが……暴れん坊で有名な実際のロキとは違い、普段は大人しく無口な大男だ。


おりゃあ!ガッ!ガガガ!分身拳!


格闘ゲーム『スーパー有象無象闘士V』の対戦は盛り上がってきた。


柔道の乱取りの要領で、勝者が連続で対戦を続ける。


読み合いには自信がある。相手の行動を先読みして、最適解で攻める。最近、勝率も少しずつだが、上がって来た。


上機嫌で部屋を出ようとしたときだった。


講師のムサコのロキが近づいて来て、

「……これ」

と、いきなりメモを手渡された。そのまま足速に去って行くムサコのロキ。


私は驚いて声をかけるタイミングを逃したわけだ。読み合いが得意だなんて、こりゃ言えないな……。


しかし、このメモ、小さく折りたたまれているぞ。まるで中学生がやる秘密のメモじゃないか……ちょっと気持ち悪いぞ、ムサコのロキ!


少し、ゾッとしながら、ゆっくり手紙を開く。


そこには……、

13:00に西棟の部屋まで来て欲しい。


と、書かれている。


あっ!?これはヤバいヤツだ!あいつ学生の私に手を出そうと!?うわっ!いやらしい!


不潔だわっ!(最近お気に入りのゲームのセリフ)


こんなの問題になるヤツじゃん!いろんなところに迷惑かかるだろ、あの野郎!


と、私はいろいろな意味で驚き、今にもブチ切れそうになったのが……、


あそこにも、こっちにも、あっちにも、


メモを持っている学生が……いる。


他の学生もムサコのロキからメモを渡されていたのだった。なら安心だ……。素直にメモの指示に従おうと思う。あぁ、そうか、おそらく次の大会のチーム編成についての話だろう。


と、その後、食堂でスマホゲーのログインボーナスを受け取ったり、新作アケコンの情報を探したりして時間を潰していた。ゲーマーは時間潰しが上手い、これもあるあるだ。


……さて、そろそろ時間だ。

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