モノクロ前線

太った鳩

第1話 だいばくはつ


「えっ」


 その出来事に、唖然としてしまった。ただ茫然と見つめ、口はポカンと空いている。

 それくらい僕にとって衝撃的な事だった――少なくとも、僕にとっては。

 すると、痺れを切らしたのか、驚きの対象は口を開いた。


「なに?」


 彼女――静波梢しずなみこずえ怪訝けげんな顔で言った。



 ◇



 体育終わりの六限目、既に何人か眠りに落ちている。いつもの事だが、少し今日は数が多い。隣の席のあいつももちろん夢の中だった。


「おい、葉月。そろそろ起きた方がいいぞ」

「う……うん?なぁに。もう授業終わった……?」


 彼――奥山葉月おくやまはづきが目を擦りながら言った。


「いや、まだ。」

「じゃーなぁんで起こすんだよー。荒川柊あらかわしゅうは真面目クンですか」

「うっさい」

「大体良いでしょ古文は。あのセンセ怒らないし」


 古文の先生は華奢きゃしゃな人で、今まで1度も声を荒らげたことはない。生徒からは優しい先生として位置づけられている。

 けれど、恐らく――いまから。


「いや、来るぞ」

「ん、何が?」


 次の瞬間、黒板に文字を書くコツンコツンという音が止まった。そして、彼女は振り返りゆっくりと深呼吸をした。

 その間のうち、生徒は息を飲んだ。


「寝るなーーーーーーーーーーー!!!」


 今まで聞いたことも無いボリュームだった。

 ハァハァと肩で息をする彼女。

 生徒はもれなく全員、その強烈な声で目を覚ましていた。

 すると、だんだんと息が落ち着いてきたところで、彼女は再度深呼吸をした。


「ごめん。先生疲れちゃったから、授業もう終わるね」


 そう言うと彼女はスタスタと教室を去っていった。

 教室一体に流れる沈黙。しかし、それはすぐに打ち破られた。


「おいおいおいおいおいおい。なんだよあれ、あんなでかい声だせるの!?」


 葉月が目を見開いて聞いてきた。てか、おいめっちゃ多いな。

 他の生徒も葉月も同様にびっくりしている様子だった。


「だから言ったろ。起きた方がいいって」

「いやなんでお前はそんな冷静なの?怖いって!」

「お前のがうるせーよ!」


 思わず本音が出てしまったが、どうやら本当に今起きたことが信じられないような、そんな表情。


「てか、マジでなんで分かった?」


 急にガチトーンで聞いてきたので言葉につまる。


「まあ、なんというか、勘だな」

「……あ?」


 葉月は納得がいかないようだった。

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