番外編 大陸戦争史(ジークはどうやって英雄になったのか)

「大陸戦争史」より引用。


 王国歴322年に発生した大陸戦争は、人類史上最大最悪の戦争と言われる。

 それは活動を停滞させていた魔王軍が突如、西大陸に侵攻したことからはじまった。

 大陸東部と北部から同時に侵攻が開始され、またたくまにマッシリア王国の防衛線が崩壊。

 王国は全領土の40パーセントを開戦1か月で失った。


 制圧された領土内では魔物たちの略奪や虐殺が横行。特に有名なサン・ミールの虐殺では、数時間で3万人の犠牲者が発生したとされる。これらの犠牲は戦災孤児が多数作り出し、王国内の生産能力に大きな傷を残すことになった。


 開戦当初の大敗で、マッシリア王国軍の正規軍には大きな被害が発生。民兵の導入や冒険者ギルドへの協力が依頼され、軍の立て直しが図られた。


 王国は、諸外国にも協力を求めたが、劣勢な状況と魔王軍の強さを見て、「自国の防衛に専念する方針」を固めて援軍は拒否され、マッシリア王国は孤立無援の状態となった。


 この絶望的な状態の時に出現したのが、英雄”ジークフリート”である。

 すでにA級冒険者として活躍していた彼は、危機に陥った王国に即座に加わった。


 客将として、副騎士団長(中将級)待遇として迎え入れられた彼は、多くの作戦に参加し、同時に個人の武力で数多くの武功をたてていった。


 ジークフリートは、直属部隊を率いてアリオリの戦いで東部戦線初めての勝利を王国にもたらすと、翌年の王都最終防衛ラインであるセバル攻防戦では2万対5万の劣勢な戦力かつ民兵と冒険者中心の即席部隊を指揮する絶望的な状況ながらも味方を鼓舞し戦線を支えた。


 セバル攻防戦では、王国軍の司令部に敵の攻撃が直撃し、騎士団長含む軍部首脳が壊滅。ジークフリートが指揮を引き継ぐことになり、その絶望に沈む中、彼は奇策に打って出た。


 乾坤一擲の大博打。セバルの夜襲と呼ばれる奇襲作戦は、魔王軍第四師団長クーヌ将軍をジークフリートが討ち取ったことで敵の指揮系統が完全に崩壊し、マッシリア王国及び義勇軍は王都最終防衛線を死守する結果となった。


 この際、ジークフリートは戦場で数千クラスの魔物を討ち取った上に敵の大将を撃破したという伝説を残す。

 

 以下、戦場でジークフリートとともに戦った戦友たちの証言を引用する。


 ※


「副騎士団長は鬼のように強かった」

「ひとりで戦争をしていた」

「あれはもはや人間ではない、何かだ」

「鬼神という言葉がふさわしい人間を俺はあの人以外知らない」


 ※


 おびただしい犠牲者を出しながらも王都防衛に成功したマッシリア王国軍。この戦績で勝機が見え始めたことで諸外国からの援助や援軍も増加していった。また、先に述べたように、軍首脳が壊滅した影響もあり、軍の再編が急務となっていた。


 この再編にはやはり世界的な英雄となっていたジークフリートを中心に行われることとなり、王国の軍事部門トップである騎士団長に就任した。同時にS級冒険者に昇格したことで、彼は武人として最高位に到達した。


 ジークフリートは、騎士団長に就任後も精力的に職務を遂行し、交通の要衝であったバジリスクを323年の夏に再奪還し、東部戦線の反転攻勢を象徴づけた。バジリスク攻防戦で見せた彼の戦略は、連続攻撃と魔術師や竜騎兵など航空戦力による後方かく乱を組み合わせたものであり、後にジークフリートとマッシリア王国軍と敵対した「シェーラ=ギルドの変」でも似た作戦が採用されて逆に王国軍を打ち破った。


 バジリスク再奪還によって魔王軍の攻勢は限界を迎え、徐々に情勢が人類側に傾いていくと、諸外国も本格的な軍事援助を開始。援軍として到達した他国の軍とともにマッシリア王国は決戦を挑むことになる。


 それが有名な324年の”マッシリア平原の戦い”である。国名の由来の場所でマッシリア・諸外国連合軍が魔王軍主力と激突。両陣営合わせて15万の兵力が激突した一大決戦となった。


 数に優る魔王軍が終始、優勢となって戦局を進めていたが、ジークフリートと彼を慕う冒険者とマッシリア王国の若手将校たちは決死の覚悟で敵陣の中央部分を突破し、本陣に至ると、魔王軍16幹部のひとりである大悪魔モエイと激突。

 

 強力な火炎魔力を扱う大悪魔との決闘は、マッシリア王国だけではなく人類の命運をかけた戦いと解釈されており、激戦の中、ついに大悪魔を討伐した。人類による魔王軍幹部の討伐は数百年ぶりの快挙であり、この勝利をもって魔王軍は大陸から駆逐された。


 この戦闘で、ジークフリートと共に決死軍となって敵陣中央に突撃した1500名のうち生存者は71名だったとされる。ジークフリート含む生存者の大部分は、マッシリア王国軍に残り、軍の再興に活躍。「ジークフリート=マフィア」と呼ばれる派閥を結成し、長く王国軍の主流派として活躍した。


 ジークフリートが政変で下野し、その他の派閥の幹部も地方に左遷されたが、結束力は維持し続けていたとされ、「シェーラ=ギルドの変」でも反国王派として王国から離反しギルド側に加わったとされる。


 この時代のマッシリア王国は、大陸戦争から新王制誕生まで常にジークフリートを中心として動いており、後の歴史家はジークフリート時代と呼んでいる。

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老兵は死なず、ただギルドの受付になるのみ~長年勤めた王国をリストラされた老英雄は、ギルドの受付に転職して無双する~ D@ComicWalker漫画賞受賞 @daidai305

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