第5話 雨上りに裂く白

 寝ている間に降ったのだろうか。


 空は変わらず青いのに、アスファルトが黒く濡れていた。そこに陽の光が反射して、視界に刺さるように白く眩しい。

 僕はたまらず、そっと日陰に隠れた。目が醒めるみたいに視界が晴れて、冷たい空気にホッとする。

「えー?いい天気なのに――」

 笑ってこちらを振り返ったお姉さんは、ハッと急に何かを思い出したように言葉を飲み込んで、少し寂しそうな顔をした。

 そして、抑えつけるみたいに、僕の頭にバケットハットを載せた。

「……ほら、貸してあげる」

 ふわっと優しい香りがする、よれよれに型崩れした黒い帽子。

「ふふふ、やっぱりぴったりじゃん!似合ってるぅ」

 帽子にはまだほんのり彼女の熱が残っていた。それが僕にじんわり移って、耳までブワァっと朱くなる。何だか恥ずかしくって、隠れるようにぎゅーっと被った。


「……キミともっと話をしたくて、あたしは来たんだよ」

 嬉しそうに帽子の形を整えていた彼女がそう小さく呟いた、気がした。その少し寂しそうな小さな声を、側を駆け抜けるランニングの足音が落ち葉とともに掻き消してしまったから。


「え?」

 聞き返そうと顔をあげたとき、彼女は自分の髪をゴムでまとめていた。僕よりも頭ひとつほど背の高い彼女の頭のとっぺんで、ひとつに束ねられた深い栗色の髪。柔らかな日射しに煌めくそれは少し濡れてるみたいに見えた。僕の目にはそう見えた。

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