第4話 飽きぬ金の午後

 六限目。体育後の世界史。気だるい空気の中、見知らぬ外国人の名前と遠い昔の西暦がぬるいせせらぎみたいに流れていく。僕はそれを子守唄に頬杖をついてうとうとしていた。


 カーテンがはためいて、乾いた風が鼻をくすぐる。砂埃の匂いの中に黄色いお日様の香りが少し、混じっている気がした。

 半分開いた窓から覗くのは、澄んだ青空の下の明るいグラウンド。砂が日射しを反射してるみたいに眩しくて、何だか金の海になってしまったみたい。その黄金の海面には、休講らしい他クラスの生徒たちがチラホラいて、座り込んで喋ったり、輪になってバレーボールを突きあったりしていた。


 ときたま、鈴が転がるみたいな軽い声が響く。白い繭に包まれたような柔らかな幸せなひととき。丸いボールがリズムよく上がるのをぼんやり見下ろしていると、急にポーンっと高く上がった。


 ――ねぇ、いつまで寝ているの。


 不意に分厚い霧を裂く、冷めた声。

 ボールは打ち上げられずにポツンと落ちた。いつの間にやら、外には誰もいない。

 そこは淡く輝く大雪原。とばりの降りた黒の世界で、ぼぅっと光る白い大地。昼間に集めた陽の欠片を放つようにゆっくり静かに光る。


 僕は月に来たのかもしれない。だって、ちっとも寒くないから。


 転がるボールを見つめてそんなことを考えていると、後ろに誰かの気配を感じた。背が高く、痩せた黒い影。


 振り向きかけたその瞬間、


「――いつまで寝てるつもりなの、少年?」

 お姉さんが笑いながら僕の顔を覗き込んでいた。……その後ろから射し込む木漏れ日が少し眩しい。寝ぼけ眼で身体を起こすと、それは近所の川の側だった。

「あーぁ。君にずっと膝枕をしていたから、足がちょっと痺れちゃったよ」

 僕はバッと耳まで熱くなり、ボヤけた頭がサッと冷めた。お姉さんは満足そうな笑みを浮かべると、『痺れた』っていうのが嘘みたいにさっと立ち上がって缶コーヒーをぐっと煽った。

「さて、お散歩の続きと行きましょうか」

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