第62話 耳にやさしい山形訛り&三味線
見晴らしのいい丘に立って四囲を眺めれば、東方の空には蔵王連峰から奥羽山脈、北西には遠く月山や葉山の稜線が穏やかな連なりを見せている。青々と広い扇状地を須川、馬見ヶ崎川、最上川が蛇行し、無数の支流が網の目のように放たれている。
「うわあ、爽快な景色でございますね。何だかこう、気持ちまで解放されたような」
馬上の知恵が快哉を叫ぶと、同じく馬上の欣之助も快活に応じてくれた。
「山形っちゃあ、すこだま夏は暑くて、ぎっぎど冬は寒いところだっす、はあ……と謙遜な左京衆に聞いておったが、なかなかどうしてよきところでござるなあ」(笑)
人馬とも長旅の疲れを取ろうと、早めに宿に入る。
軒先に「出羽御宿」の看板を掲げた中堅どころの旅籠で、鉄扇と霧笛は、いかにも気の好さそうな男衆に好物の人参をもらって、うれしそうな足取りで引かれて行く。鉄扇の体調もよさそうなので、知恵と欣之助は女中が運んでくれた足湯をつかった。
*
「よぐござたなっす。あがてけらっしゃい」
鄙びた山形訛りが疲れた耳朶にやさしい。
芋がらの煮物、
――ハアー たんと飲んでくりょ なにゃないとてもよ
ハアコイチャ わしが 気持ちが 酒肴……ハアー
「まあ、じんじんと胸に染み入る歌声。根っからもてなし好きな里と見えますねえ」
そんな知恵の旅情を、一合の地酒にほのかに頬を染めた欣之助がやんわり窘めた。
「まったく、よき旅ではござる。なれど、肥後守さまのご事績をたどるうちに、媛姫さまの毒殺嫌疑をかけられた於万ノ方さまの容疑をお晴らしするという、本来の目的を失念してはならぬ。明日からはひとつ、
頭上いっぱいに満天の星が降り注ぐ清らかな陸奥の旅籠で、知恵と欣之助、鉄扇と霧笛、人馬二組の愛がたっぷり育まれた仕儀は申すまでもなかろう。むにゃむにゃ。
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