第11章〜よつば様は告らせたい〜④
〜白草四葉の心理考察〜
――――――六年前、四月六日(水)
東京行きの新幹線のドアが閉まった瞬間、私は絶望という名の真っ暗な穴に突き落とされた気がした。
(「友達でいたい……」って、なんだソレは!?)
(私に優しくしてくれたのは、なんだったの?)
(私の歌を憧れるように見つめてたじゃない!)
この二週間たらずの間に親しくなった少年の、あまりに無神経な言葉に、私は怒りを感じずにはいられなかった。
(竜司とは、心が通じあっている、と思ったのに……)
お互いに両親のことで子どもながらに我慢を強いられること、春休みを一人で過ごさなければいけなかったことなど、私と黒田竜司少年とは置かれている環境に近いモノがあると思っていた――――――。
それだけに、彼とは互いの境遇に、シンパシーを感じあっているのではないか、と考えていたのだが――――――。
もしかして、それは、自分だけの思い込みだったのだろうか?
そうだとすれば、私には、そのことが、なによりも悲しかった。
(結局、私のことをわかってくれるヒトなんて、どこにも居ないんだ……)
そう考えると、鼻の奥にツンとした痛みを感じ、ひとりでに涙が溢れてきた。
それは、それまでの二週間足らずの思い出が、すべて否定されたような気がしたからだ。
とめどなく流れる涙をぬぐい、一刻も早く、座席にいる母のもとに戻らなければ、と思うのだが……。
泣いている姿を見せては、母も心配するだろう――――――。
そんな風に考えた私は、車両の連結部に近いドアから、駅を出発したばかりで、まだ誰も使用していない化粧室に駆け込み、ジャブジャブと顔を洗う。
目の腫れは治まらなかったが、なんとか、涙のあとは誤魔化すことができそうだ。
ハンカチで顔を拭いた私は、急いで母のいる座席に戻り、何事もなかったように、母の隣の席に座った。
「お友達とキチンとお別れはできたの?」
と問う母の声には、
「うん、まあね……」
と素っ気なく答え、気を紛らわせるのと、母からの追及を避けるため、
「ねぇ、さっき買ってくれたマンガを読みたいんだけど……」
とリクエストする。
「気が早いわね……そんなに急いで読み始めなくても、東京に着くまでには、まだ時間があるのに……」
そう言って苦笑しながらも、母は本屋で受け取った手提げ用のビニールの包みからコミックを取り出して渡してくれた。
「ありがとう」
と答え、シュリンクのビニールを破る。
なるべく集中していると見えるようにコミックを読み始めると、ページを開いたカバーの部分に、
「純愛とは怠慢を表す言葉である―――。」
という言葉が書かれていて、さらに、ページをめくると、
「恋愛は告白した方が負けなのである!」
「好きになったほうが負けなのである!!」
というショッキングなフレーズが並んでいた。
それは、まるで、今のわたしの心のなかを覗き見た上で、浴びせられた言葉のように感じられ、スレッジ・ハンマーで頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
(そんなふうに言わなくてもイイのに……)
とは思ったものの、その作品のストーリーは、お互いに想い合っている男女が、相手に告白させようと頭脳戦(?)を繰り広げる、というモノだった――――――。
(ス、スゴく面白い……)
むさぼるようにページをめくった私は、気がつくと、名古屋駅に到着するまでに、第一巻のコミックを読み終えてしまっていた。
「集中して読んでると思ったら……なに? もう読み終わったの?」
こちらのようすを見ていたのか、母から掛けられた言葉には、
「うん……このマンガ、スゴく面白かったから……」
とだけ応じる。
読んだばかりのコミックに影響を受けるというのは、我ながらあまりにも短絡的であるとは思うが――――――。
このとき、私のなかでひとつの目的が定まった。
「今度、再会したときには、絶対に黒田竜司に告白させてみせる――――――」
決意表明が、思わず口をついて出ていたのか、
「どうしたの? なにか言った?」
と、横目で見ながら問いかける母の言葉には、
「ううん……なんでもない。ただ、マンガを読んで、自分の新しい目標ができたな、って思っただけ」
と、笑顔で答える。
この日から、私の密かな計画が始まった……。
自分の《ミンスタ》アカウントに名付けた、クローバーの花言葉の
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