第11章〜よつば様は告らせたい〜⑤
その年の秋、私が出演した、全国ネットのテレビ局主催の歌番組が放送された。
半年以上前の春休みに、ローカル局の子供向け歌番組に出場した時のパフォーマンスがテレビ業界関係者の目に止まったらしく、ゴールデン・ウィークが明けた頃から、母親のもとに、私の歌番組出演のオファーが届くようになっていたのだ。
春先までワイドショーや週刊誌のカメラに追われていた母は、娘である私を世間の目に触れさせまいと、全国ネットの歌番組への出演を拒んでいたのだが……。
夏休みが過ぎて、自分たちの周囲にメディアが群がらなくなったことを機会に、懇意にしているテレビ局のプロデューサーから頼まれた、ということもあって、私に歌番組出演の許可が降りた。
『U-18歌うま選手権 王座決定戦 四時間SP』
と、名付けれたこの番組は、高校生以下の出演者が、四名づつ四つのブロックに別れた合計十六名で、歌の王座を争うというものだった。
私は、その番組収録に春休みの時と同じく、セリーヌ・ディオンの楽曲で出場し、決勝進出という結果を残すことができた。
放送当時は、番組内で最年少の出場者ということが注目を集めたのか、この頃から、自分のSNSには、同世代のフォロワーが数多く付くようになった。
番組内では気持ちよく歌うことができたものの、結果を決める機械式の採点システムに疑問を持つようになった私は、その後、カラオケバトル番組の出演を控えるようになり、代わりに、活動の場を自分自身で自由に発信できるSNSにシフトすることにした。
《トゥイッター》や《ミンスタグラム》に、日々の出来事を綴りつつ、《チックタック》で『歌ってみた』のショート動画を公開し、竜司に行ったようなボーカル・レッスンの解説動画を《YourTube》で提供すると、フォロワーの数は、日に日に増えていった。
もっとも、映画やテレビ、舞台などで活躍し、完全にテレビ世代である母親や周囲の大人には、自分の活動の意味が、なかなか理解してもらえなかったのだが――――――。
それでも、テキストや動画で行うSNSの投稿に対して、
「カワイイ!!」
と書き込んでくれるフォロワーのコメントの数々が、思春期の自己肯定感を高めることに、大きく貢献してくれた。
小学校を卒業する頃、六桁に達しようとていたフォロワーの数から、私はネットメディアなどで、『同世代のカリスマ』と呼ばれるようになっていた。
そのことで、自分自身に対する自信を持つことはできたが――――――。
特別なことをしている意識はなく、自己表現のためだけに行っているSNSや動画のフォロワーには感謝をしているものの、自身のチカラで多くの賞賛の言葉を得ても、それでも、私には、心に引っかかっていることがあった。
小学五年生になる直前、私の心を奪っておきながら、
「ずっと、友達でいたい……」
という煮えきらない返事を返してきた男子から、直接的に好意を感じられるセリフを引き出すまで、私自身の気持ちのモヤが晴れることはないだろう。
『かぐや様は告らせたい』
東京に戻った、あの春の日以来、自身のバイブルとなったコミックのタイトルに誓って、中学生に上がる頃から、私は、黒田竜司への具体的な復讐プランを練り始めた。
幸いなことに、この頃から取材を受けたり、読者モデルの仕事をするようになっていたティーン誌には、恋愛のノウハウに関する記事も豊富で、自分の必要とする情報を数多く吸収することができた。
・雑誌の特集記事のモテ技集
・男女共通のフレンドシップ戦略
・男性向けの恋愛工学
それらの情報を元に、私は、ネット情報や各種の書籍に書かれた内容をもとに、自分なりの恋愛論(ひらたく言えばモテ技)を確立していく。
数年が経過し、そうして集めたノウハウに一定の手応えを感じ始めた頃、《YourTube》で同世代の男子が、ユア・チューバーの真似事をする動画をアップし続けているのに気がついた。
『竜馬ちゃんねる』というチャンネル名の彼らの動画には、『ホーネッツ1号』という名前で、見慣れた顔の少年が出演していた。
彼らの動画を確認すると、懐かしさを含めた複雑な感情があふれる。
記憶にある頃から数年が経過しているものの、映像の中の彼は、私が抱いていたイメージと変わらないままだった。
屈託のない笑顔で、『ホーネッツ2号』の壮馬クンと語り合う彼の動画に、コメントを残そうと考えたことは何度もあったが、その度に、
「まだ、その時ではない……」
と自重する。
それでも、予想したとおり、彼と友人は、恋愛の方面には縁がなかったようで、彼らの動画に色恋沙汰につながるような言動が見られなかったことには、どこかで安堵していた。
もっとも、小中学生の男子のノリをそのまま動画にしたような『竜馬ちゃんねる』の投稿内容と動画のクオリティに応じた再生数では、女子の陰がチラつくことなど有り得ず、私ほどの魅力的な存在に見向きもしなかったような男子なら、なおさら、その心配は無いと言えるのだが……。
そんな葛藤を続けていた高校一年生の初冬のある日、母から、こんなことを提案された。
「来年から、仕事の拠点を京都に移そうと思ってるの……その関係で、伯父さんたちが住んでる実家の近くにマンションを買おうと考えているけど、四葉も一緒に来る?」
母親の実家の近くと言えば、彼の住む場所とも近い。
その提案に、二つ返事で賛同した私は、高校二年生の春から、引っ越し先の高校に転校したいということを母に伝えた。
仮に、竜司と同じ学校に通えることになれば、これまで蓄積してきたノウハウを存分に活かすことができる。
「いまの私なら、《竜馬ちゃんねる》の動画のなかで、女子に縁がないことを散々匂わせている彼を落とすことなど、赤子の手をひねるようなモノだ……」
そんな想いを抱きながら、黒田竜司と再会してからの自分なりのプランを練りつつ、四月の引っ越しの機会を指折り数えながら待つ日々が続いた。
「彼は、今の私を見てどんな反応をするだろう」
「再会は、どんな風に演出にしようかな……?」
「竜馬ちゃんねるを見てるって言うと驚くかな」
そんなことを考えながら、毎晩ベッドに入る度に、竜司を自分に振り向かせるための計画を練りながら眠りに着くのが、私の楽しみの一つになっていた。
そう、春休みが始まるアノ日の動画を見るまでは――――――。
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