第11章〜よつば様は告らせたい〜③
「――――――というわけで、少なくとも、校内においては、『竜司の告白は、次の学内企画のためのフェイクだった』と信じている生徒も多いと思う。いままで、計画を完璧に遂行してきた白草さんには、申し訳ないけどね」
土曜日の夕方から開始された広報部の活動の一部始終を語り終えたボクに、パイプ椅子に浅く腰掛けたままの白草さんは、開口一番こんなことを口にした。
「あの、ステージで司会で元気に話してた吹奏楽部の先輩って、生徒会長だったの?」
「そっか……白草さんが転校してきて、会長さんが全校生徒の前で生徒代表として挨拶をする機会はなかったから、知らないのも無理ないよね? 寿生徒会長は、ウチの部長でもある花金副会長と同じく、ああいうイベントごとが大好きなんだよ」
ボクは、現生徒会の主要人物二人について説明する。
右手前に座る同級生は、
「なるほど……それで、その二人が、土曜日の件について、黒田クンに事情聴取をしたんだ……そこから、黄瀬クンたちの暗躍もあって……だから、今日は、何度もオープン・スクールのことを聞かれたのね……」
澄ましたままの表情は変わらないものの、内心、明らかに不服そうであることは、他人の表情を読むのがあまり得意でないボクにも伝わってきた。
しかし、彼女の不満げなようすを察しながら、
「本当はこんな手段は取りたくなかったけど……ボクたち広報部も、学内での今後の活動のためにも、守らなきゃいけない立場ってモノがあるからね……白草さんと竜司に出し抜かれたボクらに取れるアフター・ケアの手段だったとして理解してほしい」
そう語ると、白草さんは、穏やかな表情で、静かに答えた。
「そうね……黒田クン以外のヒトたちを巻き込んだことは、わたしも反省してる。この学校、良いヒトが多いもんね」
そして、さらに、
「それに、学校の外では、『ホーネッツ1号さんが、ヨツバチャンに告白した』って既成事実は変わらない訳だしね……」
と、いたずらっぽく微笑みながら、スマホを取り出し、動画サイトを表示させる。
そこには、白草さんの《ミンスタグラム》公式アカウントから《YourTube》に転載された映像が再生されていた。
『ある高校生YourTuberの告白』
と題されたその動画は、アップロードから二日を待たずして、一◯◯万回再生を突破するほどのバズりぶりを見せている。
ホーネッツ1号こと黒田竜司が、オープン・スクールの場で、カリスマ女子高生の白草四葉に、一世一代の愛の告白をする、という内容は、彼女のフォロワーを中心にSNSで拡散され、日曜日の夜には、《トゥイッター》のトレンドワードに上がるほどの盛況ぶりだった。
白草さんに示された動画をあらためて確認しながら、ボクは、言葉を返す。
「《ミンスタ》のフォロワー数一◯◯万人のヨツバちゃんなら、これくらいの再生回数は余裕だよね……」
苦笑しつつ、そう言ったあと、
「おかげで、ボクたちのアカウントの動画も、昨日から再生回数が飛躍的に伸びてるよ。広報部やクラスメートとしては、色々と言いたいこともあるけど、《竜馬ちゃんねる》のメンバーとしては、白草さんに感謝してる。ありがとう」
と、素直に感謝の言葉を口にしておく。
ストレートにぶつけた言葉に、気分がほぐれたのだろうか、彼女は、笑顔で返答する。
「黄瀬クンにそう言ってもらえると、気が楽になるな。これからも、わたしのアカウントとのコラボを考えてくれる?」
「いや……今後は、コラボする内容について、吟味に吟味を重ねた上で、慎重に検討させてもらうよ」
ボクは、もう、これ以上のトラブルに巻き込まれるのはこりごりだと、さらに苦笑の度合いを深めて応じた。
さらに、ボクは、親友の心情を思いながら、微苦笑を浮かべながら、つぶやく。
「春休み前に紅野さんへの告白に失敗した竜司は、動画の再生回数から校内では『三千回フラレたオトコ』って呼ばれてたけど――――――これで、『ホーネッツ1号=一◯◯万回フラレたオトコ』になったワケだ……」
その一言に、彼女はプッと吹き出して、
「黒田クンには、アフター・ケアが必要かも知れないし、明日からは、もう少し優しくしてあげないとね……」
と言いながら、穏やかな笑みを浮かべた。
そんな転入生のようすをうかがいながら、ボクは、最後の確認事項について切り出した。
「もう一つ、文芸部の天竹さんとボク自身が、確認したいことがあるんだけど――――――いいかな?」
ボクの問いかけに、「なに? どんなこと?」と素直に返答する白草さん。
そんな彼女に、ボクは二時間ドラマの探偵役が、証拠品を突きつけるような格好で、A4サイズの紙の束を手渡した。
「これは、今回の一連のサプライズ企画の計画者の心理について、クラスメートの天竹さんが推察した結果だけど……彼女は、話すのが苦手らしいので、文章にしてもらったんだ。白草さん読んでもらえる?」
文字がビッシリと印刷されたその紙束には、過去の日付とともに、一人の少女の心情が綴られていた。
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