第11章〜よつば様は告らせたい〜①

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土曜日のオープンスクールの

サプライズ企画、ホントは、


《出来レース》


だったらしいよ


広報部の友達が、企画書と台本

を見せてもらったって言ってる


#芦宮高校オープンスクール


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 5月9日(月)

 

 サプライズ企画が衝撃的な結末で幕を閉じた、翌週の月曜日――――――。

 

 放課後、ひと月前に転入してきて、早速、学園の話題の中心になっている人物に今回の経緯を確認するため、黄瀬壮馬は、小会議室で待機していた。

 

 会議室のカギを開け、窓を開いて室内の換気を行った彼は、待ち人が来るまで、この二日間のことをあらためて回想する。

 

 それは、オープン・スクールの終了した直後の夕方のことだった――――――。


黄瀬壮馬きせそうまの見解〜


 オープン・スクールも無事(?)に終了した翌々日の月曜日の放課後、生徒会室では、自身の独断によって、多くの生徒に参加してもらったパレード後に白草さんに告白し、華々しく玉砕するという失態を招いた竜司に対して、生徒会とボクたち広報部合同による事情聴取が開催された。


 情報の漏洩を防ぐため、メンバーは少人数に絞られ、広報部からは、聴取対象者である竜司とボクに加え、責任者である花金鳳花部長。そして、生徒会からは、会長職に就いている、この人が参加していた。


「それで、黒田くんと黄瀬くんの話しをまとめると……今回のサプライズ企画は、白草さん・黒田くん・黄瀬くんの三人が計画していたモノだったけど――――――いざ、告白という段階になって、黒田くんは、ウチの可愛い後輩ではなく、なぜか、白草さんを相手に告白して、見事にフラレた……と、こういうワケね?」


 吹奏楽部でも副部長を務める寿美奈子会長は、冷ややかな視線で、竜司を見つめる。

 推しのVtuberの中の人や歌い手さんに、恋人が発覚した際のファンのように青ざめた表情をした親友は、生徒会長の質問に、チカラなく答える。


「はい……そうです……」


 魂の抜けたような後輩男子のようすに、上級生の二名は、ため息をつきながら互いに顔を見合わせたあと、


「私としては、大勢の生徒を巻き込んだこともそうだけど、何より、我が部の次期エースの気持ちを弄んだことが許せないな……黒田くん、ウチの後輩とは、随分と仲が良かったみたいだけど――――――?」


 さっきよりも、さらに冷たさを増した視線に、竜司は身を小さくしながら、蚊の鳴くような、という表現がピッタリの小さな声で、寿会長に答えた。


「申し訳ありません……」


 そのあまりに哀れな姿に同情したのか、今度は、生徒会副会長が、広報部の代表として、口を開く。


「生徒会副会長の立場としては、黒田くんを簡単に許すことはできないけど……いまは、本気で落ち込んでるみたいだし……これまで広報部の責任者として彼を見てきた中で、彼には、紅野さんに対する贖罪の気持ちがあるということは理解しているつもりよ」


 生徒会長による追及から、竜司をかばいつつ、鳳花部長は、彼に向かって語りかける。


「だから、貴方なりに責任の取り方を考えなさい」


 そう言って、生徒会と部活動のニつの重要な役職も兼ねる彼女は、優しく後輩を諭した。

 そんな二人のようすを見ながら、寿生徒会長が、ボクの方に話しを振ってきた。


「ところで、黄瀬くんは、今回の件について、どう考えてるの?」


「はい! まずは、他の大勢のクラブのメンバーを巻き込む計画に、賛同したことを申し訳なく思っています。もちろん、友人の彼には、紅野さんの気持ちを第一に考えてあげて欲しかった、と思っています……ただ、その上で、ボクに考えがあるのですが――――――」


 会長の問いかけに、そう答えたあと、ボクは、竜司の告白の結果が判明した直後から、考え始めていたアイデアについて語らせてもらった。


 ボクの考えに耳を傾け、サプライズ計画を行った時に作成した企画書に手を加えた資料に目を通すと、寿会長と花金副会長は、納得してくれたのだろうか、お互いを見合ってうなずき合う。


「なるほど……これなら、全校生徒の不満を抑えつつ、ウチの可愛い後輩ちゃんも、あまり傷つかずに済むかもね」


「はい、紅野さんのケアが、どこまでできるかはわかりませんが……この情報が、上手く生徒の間で伝われば、少なくとも、全校生徒からの不平や鬱憤は解消されるんじゃないかと思います」


 寿会長からの同意を得られたことに安堵しながらボクが返答する。


 すると、ボクたちの会話を聞いていた生徒会副会長兼広報部の部長は、こんなことを口にした。


「広報部としても、この方針に異論は無いわ。今後の私たちの活動が、全校生徒に支持されるかどうかに関わる大切な内容だから……ただ、黒田くん。校内的に、あなたの白草さんへの告白は、なかったことになってしまうけど、それでも、問題はない?」


 そんな風に、冷静に問いただす鳳花部長の言葉に、ボクは割って入る。


「僭越ながら、言葉を挟みますが……ボクは、この方法で竜司にも責任を取ってもらいたい、と考えています。竜司、この一ヶ月間、白草さんと一緒なって紅野さんを振り回したことに対して、少しでも罪悪感や贖罪の気持ちがあるなら、ボクの考えたアイデアに協力してほしい」


 部長の言葉を受けて、説得に掛かると、親友は、大きく首を縦に振って、沈みがちな声ながらも、ハッキリと、口にした。


「わかった……みんなにも迷惑を掛けてしまったし、なにより、紅野に対する罪滅ぼしになるなら……」


 竜司の一言を確認すると、ボクたち三人は顔を見合わせてうなずき合う。

 そして、


「黄瀬くん、すぐに、このプロジェクトの実行に取り掛かって! 部員には、私からもLANEのメッセージを送っておきます」


という鳳花部長の言葉に、ボクが「わかりました!」と応じると、寿会長は、ニヤニヤ笑いながら、隣の席の副会長に顔を向ける。


「それじゃあ、我が校広報部の世論誘導のお手並みを拝見させてもらいますか?」


「世論誘導なんて、人聞きの悪い……これは、SNS時代の情報操作……いえ、新しい世論形成の方法よ」


 生徒会長の言葉を受けた、副会長兼広報部の部長は、平然と、その皮肉を受け流した。

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