回想②〜白草四葉の場合その1〜捌
「わたしの好きな映画の中で、王女さまが、コーンにのったジェラートを食べるシーンがあるんだ! クロは、知ってる? 『ローマの休日』……」
わたしの回答に、彼は「あぁ!」と、うなずき、
「『ローマの休日』って、たしか白黒画面の映画だよな? シロ、渋い趣味してるな」
と、マンゴージェラートをプラスティックのスプーンですくいながら答えた。
映画のストーリーが王道のロマンチックコメディだけに、『渋い趣味』という表現が当たっているとは思えなかったけど、モノクロ映画だけに、そう言われるのも仕方ないか……と感じつつ、わたしは、
「白黒映画だけど、とっても面白いよ! 王女役のヘプバーンと、新聞記者役のグレゴリー・ペックが素敵なの! クロも観てみて!」
と、返答する。
クロは、「そっか〜。シロが、そう言うなら観てみるかな〜」と、言ったあと、こんなことを聞いてきた。
「他に、好きな映画とかないか? アニメでも良いけど……」
「う〜ん、アニメなら、ちょっと古いけど『マクロスF』かなぁ? CS放送で夕方に観ることが多いから、最近放送してるのは、あんまり詳しくないんだ……」
そう答えると、「おぉ!!」と、声をあげたクロは、興奮したように、熱く語りかけてきた。
「『マクフロ』か! オレも、好きだぞ! 面白いもんな! ……いや、ストーリーは、良くわかんないところもあるけど……映像がメチャクチャ格好いいもんな!」
彼の熱っぽい語りに、わたしも、「うん! カッコイイよね!!」と、大きくうなずいて、
「ところで、クロは、シェリルとランカなら、どっちが好き?」
と、たずねてみた。
それは、わたしにとっては、重要な質問だった。特に、彼の回答内容によっては、このあとの自分のテンションが劇的に変化する可能性もあったのだが――――――。
クロは、アッサリと断言した。
「そりゃ、やっぱりシェリルだろう? シェリルの方が、断然カッコイイじゃん!」
「だよね!!」
クロの回答に、わたしは、前のめりで食い気味に返事をする。
「テレビ版の『射手座☆午後九時 Don’t be late』も、劇場版の『ユニバーサル・バニー』も、とってもカッコイイもの! クロ、なかなかわかってるじゃない」
クロは、彼以上に、熱量の濃くなってしまったわたしの言葉に、「そうだな……」と、優しく微笑んでくれた。
そして、
「あ〜、カラオケで思いっきり歌ってみたいけど……大人がいないと、カラオケボックスにはいけないしな〜」
と、こぼすわたしに、彼は苦笑しながら、再び「そうだな〜」と、同意したあと、こんな提案をしてきた。
「シロ、歌を歌うのが好きなのか? なら、ウチに来てみるか? 父ちゃんと母ちゃんがカラオケ好きだから、ウチには、防音設備付きのカラオケルームがあるんだ!」
「そうなの!?」
クロの魅力的な提案に、大きな声で反応したものの、「あっ!」と、彼の家庭の事情を思い出して、すぐに、声のボリュームを絞って、
「でも、良いの……? お母さん、お家にいないんでしょう?」
おずおずとたずねる。
すると、クロは、
「大丈夫! 友だちを家に呼ぶのは、禁止されてないから!」
と、断言するが……。
わたしが気にしてるのは、「お母さんに無断で勝手にカラオケを使っても良いのか?」ということだったのだけど――――――。
それでも、
「それに、父ちゃんも、せっかく用意したカラオケルームをあまり使えなかったから、部屋を使ってもらえるのは、嬉しいと思うんだ……」
というクロの一言に、背中を押された気がして、返答する。
「それじゃ……行かせてもらって良い?」
「おう!」
と、即答した彼は、食べ終わったジェラートのカップを持って立ち上がった。
「ちょっと待ってよ! わたし、まだ食べ終わってない……」
せっかちなクロに対して、抗議の声をあげながら、わたしは、溶けかけのジェラートを急いで口元に運ぶ。
それでも、もともと、食事をするスピードが早くないことと、ジェラートの冷たさもあって、食べる気持ちに、消費が追いつかなかった。
その現状にイラ立ちを覚えつつ、何気なく、
「ねぇ、なかなか食べ終わりそうにないから、クロも食べない?」
と、聞いてみた。
わたしのジェラートに目を向けていたクロは、「えっ!?」と、声をあげて驚くと、
「い、いや……女子の食べたのとか食べれねぇよ……」
と、顔を真っ赤にしてうつむく。
言葉だけをとると、とても失礼な言い方だが、照れながら視線を反らした彼の仕草が、とても可愛らしく、わたしは、少しだけクロをからかってみたくなった。
「あれ? クロは、どうして赤くなってるの? ジェラートを食べたのに、まだ、身体が熱いの? わたしのジェラート、遠慮なく食べてイイよ!?」
普段は、あまり男子と話すことのないわたしが、出会って二日しか経っていないクロに対して、ここまで親しく話すことができているのは、自分でも意外だったけれど――――――。
孤独で退屈になると想像していた春休みに、こうして、仲良く話せる相手ができたことに、わたしは、大きな喜びを感じていた。
そんなわたしの想いをよそに、クロは、さらに顔を紅潮させ、
「もう! 早く食べろよ……!!」
大きな声で言ったあと、顔を背けてしまった。
その時に気づいたのは、クロが、
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