第8章〜やるときはやるんだ〜②
LANEのメッセージを壮馬に送り、相棒が、すでに準備を整えてくれていることを確認したオレとシロは、《編集スタジオ》に向かった。
「お疲れさま、二人とも! 特に白草さん、クラブ紹介のパフォーマンス、凄かったよ! 部員勧誘のご協力ありがとう」
スタジオに到着すると、壮馬がクラブ紹介の際のシロの活躍をねぎらうように、声を掛けてくる。
「ありがとう! 少しでも、広報部のお役に立てたかな?」
シロは、壮馬に笑顔で応える。
「実際の効果は、部活見学が本格的に始まる来週になってみないとわからないけど……スゴく良いアピールになったとは思うよ! ウチの部は、とにかく人手が欲しいし、そのためには、知名度を上げないといけないから……」
彼女の満面の笑みに、壮馬が微苦笑で応じるのを見ながら、オレも自身の見解を述べる。
「広報を請け負うオレ達が、一番目立ってイイのか? って、疑問は残るけどな……」
「部員確保のため、《背に腹は代えられない》ってヤツだよ! 鳳花部長の人脈と、各クラブへのボクたちの貢献があれば、今回くらいは、大目に見てくれるハズだし……なにより、オープン・スクールで、誰より目立つことをしようとしている竜司にだけは言われたくないね!」
壮馬の冷静な反論に、バツの悪さを覚え、返答につまる。
「そ、それは、まあ……」
こちらの曖昧さを感じさせるであろう応答に、壮馬は、さらに発破をかけてきた。
「別にイイけど……本題について、シッカリと本腰を入れてくれればね……今回の企画は、竜司のパフォーマンスに掛かってるんだから!」
そんなオレと壮馬のようすをながめていたシロは、仲裁に入るように、
「まあまあ……」
と、言葉をかけたあと、あらためて、壮馬とオレに向き直ってたずねてきた。
「せっかく集まったんだし、本題に入ろう! わたしとしては、十分に準備は整ったと思うんだけど……二人はどうかな?」
彼女の問いかけに、壮馬は、オレとシロの表情をうかがいながら答える。
「ボクは、まあ……二人が計画を進めたい、って言うなら、止めないけど……」
その親友の一言に、さきほどより、さらに気まずさを覚えながら、いま、感じていることを口にする。
「そのことなんだが……やっぱりやらなきゃ、ダメ、かな……?」
煮えきらないオレの一言に、これまで乗り気のしないようすながらも、計画遂行の準備を進めてくれていた壮馬は、さすがにカチンと来たのか、珍しく声を荒げた。
「ちょっ! 竜司、今さら、なに言ってんのさ!? ここに来て、なに日和ってんの!?」
「いや、日和ってるとか、そういう訳ではないんだが……」
いまのオレは、知り合ったばかりだと思っていた転入生の白草四葉が、短い期間だったとは言え、かつて、ともに濃密な時間を過ごしたシロと呼んでいた少女だった、ということに、まだ頭の整理が追いついていなかった。
できれば、少し時間をもらって、紅野、そして、シロに対する自分自身の気持ちについて、あらためて向き合いたいのだが……。
その想いを目の前の二人に、どのように説明すれば良いのか、いまの自分には、落ち着いて判断できなかった。
そんな壮馬とオレの対照的な言動に対して、白草……いや、シロは、落ち着いた表情で優しい笑みをたたえながら、語りかけてきた。
「大丈夫! 自信を持って、クロ……! いま、クロは、色々な出来事が重なって、頭の仲が混乱してるんだよね? でも、自分が、これまで頑張ってきた成果を信じてほしいな……」
その口調は、あくまで穏やかなものだ。
「あのね……わたしのお母さんが好きなドラマの原作の小説に、こんなセリフがあるの……『なにごとでも、進むみちさえわかれば、こわいことなんてないのよ。こわい、と思うのは、自分のせいなのね』って――――――これまで、あなたが、がんばって来たことは、きっと相手に伝わるハズだから……あとは、勇気を出すだけ……」
彼女の言葉は、怒涛のような一週間の出来事に脳内処理が追いつかず、来たるべき一大イベントに対して、及び腰になってしまった自分の心に沁み入ってくるようで、思わず聞き入ってしまった。
彼女が話し終わるのを黙って聞いていたオレは、語られた内容を噛みしめるようにうなずき、
「――――――そうか……そうだな……」
と、静かに返答する。
ときに、厳しいダメ出しを行っていた先週のカリスマ講師ぶりとは異なり、温厚な語り口のその言葉は、確実にオレの背中を押してくれた。
「『ヨツバちゃん、マジ天使!』だね……色んなことを教えてもらったうえに、ここまで言ってもらったんだ……もう、あとには引けないよ、竜司」
壮馬も柔和な笑みを浮かべて、語りかけてくる。
親友の言葉に、オレは、「あぁ、たしかにな……」と、同意した。
ようやく前向きな気持ちになることができたオレの心情を察して安心したのか、壮馬は、今度はシロに向かってたずねる。
「白草さん、もう超恋愛学の講義は終わったみたいだけど、いま言ってくれたのは、とてもイイ言葉だと思うから、記録させてもらって良いかな?」
「えぇ! もちろん」
壮馬の要望を快諾した彼女は、
「それじゃ、黒田クンの決意も固まったところで、あらためて、当日の計画について、確認させてくれない?」
と、提案してきた。
オレとシロの会話を聞いている間に、この企画に対して前向きに取り組む気持ちが出てきたのか壮馬は、
「了解!」
即答し、クロームブックで使えるプレゼンテーション・アプリの『スライド』を開く。
スライドショーの一枚目には、オレたちの通う学び舎の校内図が表示されていた。
芦宮高校のオープン・スクールは、生徒会が企画・運営する規模の大きなモノだ。
校舎棟では、先進的な授業風景の写真展示が行われ、校内の各所では、各種のクラブが自分たちの活動内容を来校者にアピールする他、中庭には特設ステージが設けられ、寸劇や音楽の演奏などが行われる学園祭のノリに近い雰囲気がある。
シロの発案を元に、過去のオープン・スクールの内容などを参考にして、壮馬が立てた計画は、以下のようなものだった。
一.集客のため、中庭の特設ステージで白草四葉が歌を披露する。
ニ.正門から中庭に伸びる歩道をダンス部、体操部、吹奏楽部のマーチングバンドなどがパレードし、最後尾からコーラス部と黒田竜司が搭乗するフロート(大型のトロッコ)が移動する。
三.フロートが特設ステージまで移動したところで、パレードに参加したクラブの代表者にもステージに上がってもらい、フロートの壇上から黒田竜司が紅野アザミに告白する。
四.特設ステージ以降のイベントは、すべてネット配信用の動画を撮影する。
※なお、フロートの動力は人力のため、各種体育会系のクラブへの協力要請が必要である。
十ページほどにまとめられた資料には、シロとオレが使用する楽曲をはじめ、この企画に参加する人物や各クラブの動きと撮影用のカメラの位置が、時系列に合わせて、校内図にわかりやすく示され、相談や折衝が必要となるクラブや団体が記されていた。
作成者である壮馬自身は、企画そのものに乗り気でなかったにも関わらず、簡潔に要点だけをまとめたプレゼン資料の充実ぶりに、シロは目を丸くし、オレは友人に対して、素直に称賛の言葉を口にする。
「さすが、壮馬! 頼りになるぜ!」
「竜司に誉められても、嬉しくないよ……」
オレからの賞揚の言葉をスルーする壮馬に対し、こちらを見つめながら、クスクスと笑って話すシロ。
「ホント、仕事が出来て頼りになる男子って、イイよね! 将来性なら、やっぱり、黄瀬クンが上かな〜」
「誰と比べての話だよ……」
「さぁ、誰でしょう……?」
あえてオレから視線を外した彼女は、少しだけ口角をあげ、不敵な笑みを見せた。
相変わらず、オレに対して遠慮のないシロの言動を目にした、壮馬は、小声でオレにたずねてくる。
「な〜んか、二人とも、今まで以上に親密になってる気がするなぁ……確認しておくけど、ボクの、気のせいだよね……?」
そんな壮馬の所感と、オレの内心の焦燥をよそに、この日、終始、機嫌の良いシロは、こんな提案をしてきた。
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