第8章〜やるときはやるんだ〜③

「この企画が、黄瀬クンがまとめてくれた計画のとおりに進んだら、かなり話題を集めることができそうね? それで……どうかな? このサプライズ企画が成功した時の『合い言葉』みたいなモノを決めてみない?」


 彼女の申し出を、いぶかしく感じたオレに対して、好奇心旺盛な壮馬は、すぐに興味を示す。


「符牒……? 一種の暗号文みたいなモノと考えて良いのかな? ボクたち三人にだけ、理解できるキーワードと考えてもイイ?」


 自分の真意が伝わったことを確信したのか、シロは、壮馬の言葉を肯定した。


「そう! この企画は、わたしたち三人しか知らない計画だしね……計画成功の証として、なにか印象に残るワードを決めておくとイイかな、と思って……」


 彼女の説明を聞き、納得したオレも賛意をしめす。


「なるほど……上手くハマれば、そのキーワードを動画のタイトルに使えるかもな……」


 オレの言葉に、シロと壮馬が声を揃えた。


「「いいね!!」」


 そして、シロは再びたずねる。


「じゃあ、インパクトのある言葉にしないとね! なにか、良いアイデアはないかな?」


「う〜ん……。コレだ! って言うアイデアが出るまで、ちょっと保留させてくれない? 良いアイデアを思いついたら、すぐに連絡させてもらうから」


 壮馬が返答に合わせて、オレも同じ様にうなずく。


「わかった! わたしも、なにか浮かんだら、二人に伝えるね!」


 オレたちの返事にシロは、そう答えた。

 一方、オレは、イベント内において重要な位置を占める内容について、彼女に質問を投げ返す。


「ところで、もう、歌う曲目は決まってるのか?」


「うん! 昔からの歌い慣れているアヴリル・ラヴィーンの『Sk8er boi』と、セリーヌ・ディオンの『To Love You More』を歌わせてもらおうと思ってる!」


「おっ! 洋楽で攻めるのか!? いかにも、シロらしくてイイじゃないか!」


「でしょう!? どっちも、わたしの大好きな曲だしね!」


「そのセリーヌ・ディオンの曲って、白草さんが、テレビ局のカラオケ・バトルで歌ったことのある歌?」


「そう! まだ、局の《YourTube》公式チャンネルに映像が残ってると思うよ」


 シロの返答に、オレは、前のめりになりながら提案する。


「じゃ、せっかくだから、視てみようぜ!」


「え〜! ちょっとやめてよ〜。もう、恥ずかしいな〜」


 口ではそう言いながらも、まったく制止する素振りを見せない彼女のようすを横目に見ながら、壮馬は、


「それじゃ、再生させてもらうね、白草さん」


と、一応のことわりを入れた上で、クロームブックの動画アプリをタップする。


 そして、続けて、『To Love You More カラオケ』という検索ワードを入力すると、サムネイル画面には、白草四葉AI採点97.438点という文字とともに、高校生になった現在よりも、かなり髪の短いヘアスタイルの小学生の頃のシロが映し出された。


 画面を再びタップすると、「林アナのイチオシ」という文字とともに、テレビ局の女性アナウンサーが登場し、動画の主旨の説明を始める。


 アナウンサーの解説によると、この動画は、放送時のオン・エアーで放映しきれなかった部分も含めて公開し、彼女イチオシの出場者を紹介する、というものだった。その中でも、シロの出演している動画は、その第一弾であるらしい。


「この曲を聞くのは、久々だな〜」


 オレがつぶやいた一言に、壮馬は何かを感じるものがあったのか、不思議そうにオレを見つめてくる。


 一方のシロも、自身が映されている画面よりもオレたちの反応が気になるのか、こちらの表情を食い入るように見つめてきた。

 クロームブックのディスプレイでは、場面がスタジオに切り替わり、曲のイントロとともに、小学五年生の白草四葉が中央に立っている。


 バイオリンの音色が印象的な、静かな歌い出しから見事なスタートを決めた彼女は、感情表現豊かに曲を歌い始めた。


 もう、五年以上も前のことなのに、楽しげに歌い上げる彼女の迫力が、まるで、目の前のことのように画面越しに伝わってくる。


 特に、曲目後半の《タメ》を作る場面で、力強さを増した歌唱は、スタジオの空気を一変させるチカラを持っていたようで、シロと同じ十代の出演者たちも両手を振りながら、彼女のパフォーマンスを盛り上げていた。


 七分あまりの動画を再生し終えると、シロの歌声の魅力をあらためて目の当たりにしたオレと壮馬は、しばし放心状態になってしまった。


 そして、画面の中の彼女の姿に魅了されたようにディスプレイを見つめていたオレのようすを確認したのか、シロは、片手で口元を抑えて、少し上気した顔を、もう片方の手で仰いだ。


「だから、止めてって言ったのに〜。恥ずかしい〜」


「ボクは、この動画を視るのは二回目だけど、何回みても、スゴいね……」


 壮馬は、そんなことを口にしながら、動画の全画面表示を終了させ、コメント欄をタップする。

 一◯◯◯に近い数のコメントは、どれも彼女のパフォーマンスを賞賛するモノばかりだ。


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凄いね……。目の前で歌われたら、みんな感動するぞ! 心を打つ歌唱力ですね。


何か、採点を気にしないで単純に本当に心から楽しんで気持ちよく歌ってそう。

テクニックもすごいし、表情も感情移入してそうで凄い。

めちゃめちゃ可愛いし。

将来期待大!!!!


歌唱力はもちろんすごいけど表現力豊かすぎて天才的


めちゃくちゃ上手すぎて鳥肌もの

顔も可愛いし、絶対オファーくるよね

間違いなく大物になると思う!


すごすぎる。あまり期待せずに見たけど、度肝を抜かれた。


カラオケの域を超えてる。テレビに出るのに無難にいかずにこの選曲の難易度。それでこういう曲を選んで、圧巻のパフォーマンスはすごいです。優勝以上だと思った。


歌唱力も発音も素晴らしいけど、何より振る舞いに余裕があるし、時おり覗かせる笑顔が本当に魅力的。将来絶対美人になるし、大成すると思う。


自分と年齢が離れていないのに、こんなに歌える人がいるなんて……

ヨツバちゃんは、間違いなく、自分にとって最高の歌姫だべ!

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 テレビ局の公式チャンネルということで、ネガティブなコメントは即座に削除や非表示対象になるかも知れないが、それにしても、ここまで絶賛の嵐になることは、ちょっと珍しいんじゃないだろうか?


「ちょっと、照れるな〜。結局、この時も優勝できなかったからね〜」


 珍しく謙遜しながら語るシロだが、これまで数多く見られた自己肯定感マシマシな彼女の言動が、こうした数多くの賞賛の言葉に裏打ちされたものであることが、あらためて理解できた。

 いくつかのコメントを拾い読みした壮馬は、以前から感じていた疑問をぶつけてみた。


「歌に圧倒されたのは、ボクたちだけじゃないみたいだね……白草さん、余計なことを聞くようだけど、なんでウチの学校なんかに転校してきたの? 白草さんなら、海外の音楽学校に留学することも出来たんじゃない?」


 クラスメートの率直な質問に、四葉は、人差し指を口元にあてたポーズのまま、大きな瞳を数度まばたきさせたあと、


「う〜ん、その質問に関しては、今のところ、ノーコメントでお願いしま〜す。女子は、少しくらい謎が多い方が、魅力的でしょ? ね、 黒田クン」


と、いまだ放心状態にあるオレに、微笑みながら問い掛けてきた。

 その問い掛けに、彼は、曖昧に答える。


「おぉ、そうだな……」


 相変わらずのシロの言動に、「わかったよ……」と、なかばあきれつつ、壮馬は、オレたち二人に念を押してきた。


「まぁ、白草さんのステージでのパフォーマンスがあれば、十分過ぎるくらいの盛り上がりは期待できそうだし、この計画は、スタートってことで良いよね?」

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