第8章〜やるときはやるんだ〜①

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クラブ紹介が終わったばかりで

悪いがオープンスクールの件に

ついて話したい。


編集スタジオに集合できるか?


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 竜司から、LANEのメッセージを受け取った壮馬は、すぐに返信を行う。


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もうスタジオにいるよ!


いつでも、どうそ!!


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 彼は、竜司が持ち込んでくるであろう話しを想定し、クロームブックを開いて、一週間前の土曜日にまとめた『白草四葉センセイの恋愛指南(仮)〜告白を成功に導くためのアドバイス〜』のテキストを読み返していた。


(オープン・スクールの件を提案してきたってことは、竜司の覚悟は決まって、白草さんからもお墨付きをもらったってコトか……)


 彼としては、相変わらず四葉と竜司の計画に乗り気でない部分があったのだが、


(二人が、そこまでヤル気になっているなら――――――)


と、無理に計画を止める気概までは持ち合わせていなかった。

 そこで、少しでも気持ちを前向きに保つため、あらためて、四葉の講義録を復習することにしたのだ。


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『白草四葉の恋愛指南(仮)〜告白を成功に導くためのアドバイス・実践編〜』


 Lesson1〜告白の失敗から巻き返す方法〜


 最初に取るべき行動は、告白した相手との関係の再構築。

→竜司の場合、彼女の気持ちを考えずに、急に告白したこと、それから、出来れば動画の件について、キッチリと謝罪して、『これからも、クラスメートとして、委員の仕事を一緒に行う共同作業者として、変わらずに接してもらいたい』と告げること。


 Lesson2〜相手との心理的距離を縮める方法〜


 第二段階では、少しずつ相手との心理的距離を近づけていく。

→相手と二人きりになった時、もしくは、別れたあとにLANEなどで、『アナタと一緒にいる時間が楽しい』ということを言葉にしてアピールする。これは、男女ともに有効な方法。「自分が必要とされている」と認識することで、言われた側は自己肯定感が増すし、伝えてくれた相手に対する好感度が上がる。


 Lesson3〜相手との距離を縮める実践的会話術〜


 会話の中で、相手を褒めることと、相手の発言を肯定すること。

→言われると嬉しい言葉は、その人物が、他人を褒める時によく言っている言葉。相手のことを良く観察して、どんな言葉で周りのヒトを誉めているかを把握するのも重要。

 告白したい相手の女子が、『あのコ、カワイイ!肌が綺麗!』と周りの女の子を褒めていたら、容姿を褒めると良い。男子を相手にする場合も、そのヒトが勉強が出来るタイプのヒトを評価しているのか、スポーツが得意なヒトを評価しているのかで、誉めるポイントは変える。

 ただし、男子から女子に対する言葉なら、『かわいいッ!』の一言で十分!

男性は、女子の求める『かわいいッ!!』って言葉に鈍感過ぎる。誤解を恐れずに言えば、この言葉を言われて嬉しくならない女子はいない。女子は、好きなヒトにとって、一番カワイイ存在になりたい。

『オレにとっては、キミがいちばんカワイイよ……』そう言われるだけで、人生がハッピーになる!好意を寄せる相手に『カワイイ!』って、言ってもらえるだけで、もっと可愛くなれる気がする。

《可愛い》という言葉は、女子にとって《哲学》。ナニが可愛いって、見た目じゃない!存在が可愛いっていうこと。なんて言うか、全体から滲み出てくるもの……。それが、《恋》とか《愛》っていうモノの本質ではないか?

(なお、女子から男子に対しては、誉め言葉の『さ・し・す・せ・そ』などがある)

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 Lesson3の後半部分は、有効なアドバイスなのか、それとも、白草四葉の個人的な見解なのか判断がつかないため、講義録に残すか否かの最終的な決定は彼女に仰ぐことにする。

 しかし、壮馬には、それ以上に気になっていることがあった。

 自称・カリスマ講師は、講義の最後に、


「他にも、確実に相手との仲を深めるアプローチ方法として、パーソナルスペースを詰めて行く方法や、お礼をしたりされたりする機会ごとに、お出かけや食事に誘うなんて方法もあるけど、この辺りは、もう必要なさそうだから……」


と言っていた。

 壮馬としては、もっと突っ込んで、白草四葉の恋愛指南(仮)を聞いてみたいと思っていたし、具体的なテクニックに言及する部分は、彼女のフォロワーを中心にバズる要素があるのではないか?

 なにより、あらためて確認すると、講義内容としては、やや尻切れトンボの感が否めない。


(配信するコンテンツとしては、もう少し内容を充実させた方が良いと思うけど……)


 そう考えながらも、この企画は、あくまで黒田竜司と紅野アザミの関係性ありきの話しなので、竜司の再告白までの間に、これ以上、二人の関係を進展させる必要はない、と白草四葉が判断したのであれば、今回の講義はココまで、となっても致し方ないのか――――――と、壮馬は自分自身を納得させようとする。


(まあ、『竜司の告白が成功したら、新しい生徒を募る』ってこともアリかもだし、白草さんなら、それくらい考えてるか……)


 自分の心の内側に残る違和感を抑え込みつつ、壮馬は、同級生たちの到着を待つことにした。

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