第6章〜わたし以外との恋愛喜劇はゆるさないんだからね!〜⑤

 昼食を食べ終わり、『カワイイ女の子のアプローチを見せつけて、彼女に意識させよう作戦』の概要を話し終えたあと、壮馬がクロームブックにまとめたドキュメントに目を通した白草は、作戦名の前段に《世界一》の文言を付け加え、満足したようにうなずいて、断言した。


「ここまでで、紅野サンが嫉妬したり、『黒田クンって、女子に人気があるんだ……』と思わせることが出来ていれば、シナリオはほぼ完璧! あとは、告白するタイミングを考えるだけね!!」


 彼女の所業を無言で見つめていた壮馬の表情からは、


(『世界一カワイイ』って、フレーズは、あの声優さんに捧げられるべきモノで、ボクとしては、はなはだ納得いかないんだけど……)


という感情が読み取れた。

 親友の心情を察して、オレは、深くため息をつきつつ、白草に気になっていることをたずねる。


「そこまで出来たら、もう、告白の準備に入っても良いのか?」


 こちらの問い掛けに、カリスマ講師は、


「あっ、その前に……もし、この作戦が上手くいって、紅野サンが、わたしに嫉妬しているようだったら、ちゃんとフォローはしてあげてね! 彼女が、『あんなにカワイイ子が、そばにいたら、私なんてお呼びじゃないよね……』って、いじけちゃうと、せっかく黒田クンが告白しても遠慮しちゃうかも知れないし……」


と、真面目な顔で答える。


(ナニを言ってやがる……)


 頭を抱えながら、友人の表情を確認すると、あきれ果てたという感じで、


(よく、真顔で、そんなことが言えるね。もはや、尊敬に値する領域だよ……)


と、感じているのを察することができた。

 オレたち二人の無言のツッコミをよそに、


「そんな時は、彼女を追いかけて、『ボクにとっては、キミが一番さ、ハニー!』ってことをキチンと伝えること」


 セリフの部分をあえて有名歌劇団の男役のような口調で語った講師役が説明を続けると、こちらの世界に戻ってきた壮馬がすぐに反応し、声をあげる。


「今のセリフは、ドキッときたよ! あのゲームのフジキセキの声で言って欲しかった!」


「あっ、それわかるわ!」


オレが親友の言葉に同意すると、盛り上がるオレたち二人に対して、今度は白草が、


「なに、ワケのわからないこと言ってんの?」


と、醒めた視線をこちらに送ってくる。


「と・も・か・く! さっきも言ったみたいに、女子には、相手に自分だけを愛してほしいという願望がある一方で、他の女子に言い寄られている相手に魅力を感じる――――――って側面があるから、この作戦が、より効果的になるように、機会を活かしてね」


と、解説を締めくくった。


 相変わらず自己評価高めの不穏当な発言はあったものの、おおむね理路整然と説明された講義内容に「フムフム」と、うなずき、オレは納得したことをしめす。

 教え子が、自身の伝えることを効率よく理解するようになった、と感じたのか満足気な表情をみせた自称・カリスマ講師は、さらに付け加える。


「他にも、確実に相手との仲を深めるアプローチ方法として、パーソナルスペースを詰めて行く方法や、お礼をしたりされたりする機会ごとに、お出かけや食事に誘うなんて方法もあるけど、この辺りは、もう必要なさそうだから……今回の黒田クンとは、また別の機会に特集してみようかな?」


「そうなのか?」


 これ以上、教えることはない、というお墨付きを得たと感じたオレは、質問を重ねた。


「うん! 他にも女子から男子に対する有効な方法として、だれも見ていないところで、こっそりボディタッチをしてみるとかもあるんだけど……男性が女性に試みたら、最悪の場合、社会的に死にかねないから、素人にはオススメできない」


 白草は、質問を受け、別の側面からの回答を提示し、ニコリと微笑む。


「なんだか、週末に放送してるバラエティ番組みたいになってきたね……あの番組、ボクは、あんまり見たことないけど……」


 彼女の講義録をドキュメントにまとめながら、苦笑しつつ、言葉を挟む壮馬。


「あ〜、あの三十分枠の番組な! 白草センセイの講義全体から、が漂っていると感じたのは間違ってなかったみたいだ……」


 うなずきながら同意する竜司に、「フフ……」と笑ったあと、四葉は、すました顔でつぶやく。


「あさとくて何が悪いって言うの? 、『純情ぶってるだけで成就するほど、恋愛は甘くない!』ってことを伝えたいだけなんだけどな、わたしは……」


「白草さんにターゲットにされたヒトは大変だね……ボクたちみたいに免疫のない男子だったら、あっと言う間に高熱に浮かされて死んじゃうよ」


 肩をすくめ、冗談めかして言う壮馬の一言に、彼女は、三度「フフフ……」と、不敵に微笑むのだった。

 そして、気持ちを切り替えるように、「パンッ」と手のひらを合わせ、提案する。


「じゃあ、いよいよ、最後にして最大のイベント『告白の実行』について、考えない?」


 白草の発案に、オレはすぐに反応し、頭を下げた。


「白草センセイに頼りきりになって申し訳ないが……なにか、絶対に成功する、とまでは言わないが、成功の確率があがる『告白の方法』があれば、教えてほしい」


 殊勝な態度で頼みこんだためか、講師役は苦笑しながら、これまでの講義内容を総括する。


「そこまでしなくても……それに、昨日から言ってるみたいに、『告白』っていうのは、ある意味、『二人の関係性の確認作業』だからね! ここまで話したことが、キチンと出来ているなら、告白の成功の確率は格段に上がっているハズ!」


 そして、さらに彼女は、言葉を続けて、オレと壮馬の顔を交互に見ながら、たずねてきた。


「ただ、『成功の確率を上げる』こととは関係ないかもしれないけど……わたしから提案したいことがあるんだ! 広報部の二人に聞きたいんだけど、一学期のなるべく早い段階で、映像記録を残しそうな大掛かりな学校行事はない?」

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