第6章〜わたし以外との恋愛喜劇はゆるさないんだからね!〜④

「なるほど! さっき言ってた女子は、『他の女性に言い寄られている男性を本能的に選んでしまうという』って、ヤツか……」


 しかし、彼は、すぐに懸念材料に気づいたようで、


「ただ、『とびっきりカワイイ女の子』と言われても……壮馬、心当たりはあるか?」


カリスマ講師から出されたアイデアに対し、思案顔で友人に助けを求めた。


「う〜ん、ウチの部長さんなら、主旨を説明して頼み込めば応じてくれるかもだけど、交換条件を突きつけてきそうだし……あっ、佐倉さんは!? あのコ、たしかウチの高校に合格したんだよね?」


「お〜い!?」


「あ〜、モモカか! けど、昨日は入学式もあったのに、あいつは姿を見せなかったな……」


「もしも〜し!」


「そう言えばそうだね……佐倉さんなら、入学式が終わったら、真っ先にボクたちのところか、広報部の活動をのぞきに行きそうだけど……まぁ、金曜日は、ウチの部の活動自体がなかったけどね」


「たしかに、そうだな……」


 竜司と壮馬が雑談に花を咲かせていると、ドンとテーブルを叩く音がして、怒号が飛ぶ。


「ちょっと! こんなに魅力的な目の前の女子を無視して、ナニ、自分たちだけの世界に入ってるの!?」



「いや、『ナニ』と言われても、白草が言うところの『』の心当たりを確認しあっているだけなんだが……」


 わざとらしく、申し開きをする生徒に、


「この距離で、その存在が目に入らないとか、二人とも視力検査に行った方がイイんじゃない?」


 彼女の反論に、壮馬は「あ〜」と、苦笑いを浮かべ、竜司は「ハァ……」と深い溜め息をついた。

 白草四葉という転入生と知り合ってから、まだ三十時間も経過していない段階ではあるが、異性関係の問題で、なんにでもクビを突っ込みたがるこの同級生女子が絡むと、確実に面倒事が増えるであろうことは壮馬も理解していた。


 今回は第三者である黄瀬壮馬の立場からすれば、自身に火の粉が掛からないように注意した上で、友人については、無事を祈ってやることしかできない。


「オ〜ケ〜、白草! 百歩譲って、白草の容姿が優れているのは認めよう! けど、自分の色恋沙汰に白草が絡んでくるのは……もとい、白草を巻き込むのは、気が引けてな……」


「譲歩しなくても、《ミンスタ》を見てもらえばわかるように、わたしがカワイイって支持されているのは、客観的事実だけど!? でも、黒田クンが、そういう態度なら、わたしはもう必要ないかもね! あとは、自分のチカラで、紅野サンに告白でもナンでもして、また玉砕すれば?」


 竜司の煮えきらない態度に、キレ気味の四葉。

 そのようすを見て、壮馬は、


(どうすんの、竜司……)


と、親友に視線を送ったあと、小声でアドバイスする。


「ここは、故事にならって、三顧の礼を尽くすしかないよ」


 友人からの助言を受けて、竜司は講師役を務めていた同級生に気づかれないよう、もう一度、ため息をついてから呼吸を整えると、意を決して目の前の彼女に語りかけた。


「すまない、白草……『』の役を引き受けてくれないか?」


 そっぽを向いていた四葉は、彼の一言に、ピクリと肩を震わせたものの、


「どうして、わたしが……!? 知り合いの先輩や後輩の『』に頼めばイイんじゃない?」


と、取り付く島がない、という印象を与える。


「いや、オレには、まだ白草のチカラが必要なんだ! 頼む!!」


「ふ〜ん、どうしよっかな〜」


 次の竜司の一言には、もったいぶった口調で答える四葉。


「『』にして、一◯◯万人のフォロワーが認めた『』じゃないと、この役は演じることができない! 白草じゃないと、ダメなんだ……よろしく頼む!」


 そう言って、竜司は正座の姿勢から、床に擦り付けんばかりに頭を下げる。

 その最後の一言が効いたのか、発言の主をチラリと見た四葉は、


「そうか〜『』かぁ〜。そこまで言われたら仕方ないな〜」


((誰も、そこまでは言ってねぇよ!!))


 無言でツッコミを入れる二人をよそに、笑顔を取り戻した彼女は、快活に答える。


「イイよ! その大役、引き受けてあげる」


「そうか……助かる…………」


 疲労感をたたえた表情で竜司は応じる。


「わ〜、白草さんみたいな女子に言い寄られるなんて、竜司が羨ましいな〜」


 一方の壮馬は、話題作りのためだけに劇場用アニメの声優に起用されたタレントばりの棒読み演技で応じることにした。

 すっかり憔悴したようすの二人をよそに、四葉は、すっかり機嫌がなおったようで、


「じゃあ、具体的に、わたし達の親密さをアピールできる方法を考えないとね〜。黒田クンは、どんな風にアプローチをされたい?」


 などと、ノリノリで竜司にたずねる。


「あ〜、そこは、白草センセイにお任せする……これだけ色々と教えてくれてるんだから、オレより良いアイディアを思いつくだろ?」


 なかば投げやりな気持ちになりながらも、それと悟られないように穏便な回答を返した生徒に対して、自らの講義に対するモチベーションを再び高めたカリスマ講師は、こう言い放つ。


「もう、ホントにしょうがないな〜黒田くんは……仕方ないから、紅野サンが思わず嫉妬しちゃうような、とっておきのシチュエーションを考えてあげる! こんなサービス、滅多にしないんだからね!!」


「「それが言いたかっただけかよ!?」」


 令和の時代から見て、二世代ふたせだいは古いアニメのセリフに、男子二名のツッコミの声が重なった。

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