第6章〜わたし以外との恋愛喜劇はゆるさないんだからね!〜⑥

 白草の質問には、壮馬が先に応じた。


「映像を残すとしたら、来週のクラブ紹介の次は、五月のオープン・スクールかな? 中学生を対象に、校内で部活や学校紹介をする大きなイベントだし、そのようすを動画で撮影したりするよ。実は、そこで、ちょっとした企画を考えてるんだ! だよね、竜司!?」


 そして、自身の発言について、こちらの方に向かって同意を求める。

 その言葉に、「あぁ……」と、うなずいたオレは、


「今年は数年ぶりに大規模なオープン・スクールが開催できるようになったらしいから、『学校をアピール出来るような派手なイベントを考えておいてくれない?』って、ウチの花金部長から依頼されてるんだ……そこで、ちょっと、やりたいと考えてることがあってな」


と、壮馬に視線を返す。


「うん! 竜司の小学生の頃からの夢を実行するんだよね!? なんだっけ? 《死ぬ前に一度全裸美女で満員の日本武道館でもみくちゃにされながら、『ジョニー・B・グッド』を歌ってみたかった――――――!!》だった?」


 こちらのフリに、親友はニヤリと笑って答え、白草は、ひときわ低い声で


「なにそれ、サイテ〜」


と、氷のように冷たい視線でオレを睨んできた。

 彼女の絶対零度の表情にあせりながら、


「ち、違うぞ白草! 大いなる誤解だ! 壮馬、余計なコトを言うんじゃねぇ! しかも、それは、古いマンガのセリフだろ!?」


必死の形相で反論すると、壮馬は笑いながら、


「最近、アマ◯ラで見たアニメにハマっちゃってさ〜。このセリフを日曜朝のキッズタイムに、ベ◯ータや初代のラ◯ンハルトの中のヒトが喋ってたんだから、平成初期のアニメは大らかだよね〜」


などと、とぼけたセリフを返してきた。

 悪友の悪質な冗談に、


「まったく、おまえは……」


と、苦々しくつぶやきながら、


「本当は、マーチングバンドを率いながら、パレード・カーに乗って……」


言葉を紡ぐと、続けて


「「『ツイスト・アンド・シャウト』を熱唱したいんだ〜!!」」


オレの発言に白草の声が重なった。


「でしょう?」


そう言って、澄ました表情で、薄く微笑む白草四葉。


「「えっ!?」」


((なんでわかったんだ?))


壮馬とともに、オレは驚きの表情を隠せなかった。

 そんなオレたちのようすをクスクスと笑いながら、彼女は、《編集スタジオ》の室内に貼られた一枚のポスターを指差す。

 その指し示す先には、映画『フェリスはある朝突然に』のポスターが貼られていた。


「この映画で、一番印象的なシーンだもんね! 特に、主演のマシュー・ブロデリックの魅力が――――――」


 続けて語ろうとする白草に、壮馬が興奮気味に反応した。


「スゴい! さすが、女優の娘さんだね〜。同じジョン・ヒューズ脚本&プロデューサーの『ホーム・アローン』のことはみんな知ってるけど、この映画を知ってるヒトは、ボクたちの世代じゃ、珍しいよ!」


 オレ自身もまた、同好の士に出会えた、という喜びを感じ、うなずく。


「そっかそっか……白草も『フェリス〜』の魅力をわかっていたか……」


 しかし――――――。


「うん! わたしの好きだった男の子が、オススメしてくれた映画だからね……」


と、思い出深そうに答える白草の言葉に、なぜか、心が痛む。


「そ、そうか……」


 相づちを打つと、オレの表情の変化を敏感に察知したのか、彼女は、


「あれ? 黒田クン、今のわたしの言葉で気になることでもあった? なにか、想うことがあるなら、遠慮なく言ってみ?」


ニヤニヤした表情で、こちらを問い詰めるように絡んでくる。


「べ、別に、気になることとか……そんなものね〜し……」


 彼女の視線をかわしつつ、不機嫌さを隠しながら答えるオレに、白草は


「わかりやすい反応……カワイイ……」


と、小さくつぶやいて、クスリと笑った。

 そんなオレと白草のようすをあきれたように見つめながらも、壮馬は、穏やかに、


「そろそろ本題に戻らない?」


そう声を掛けて、本来の議題に戻るように、うながしてきた。

 壮馬のひと声で、白草は、気持ちを切り替えたようで、パチン! と、両手のひらを合わせると、


「そうだった! 二人の話しを聞いて思い付いたんだけど……」


と言って、オレたち二人に耳打ちするように、語りかける――――――。

 彼女の提案を受け、


「面白そうじゃねぇか!」


オレは、即座に好意的な反応を返す。

 しかし、一方の壮馬は、冷静に疑問を口にする。


「うん、確かに、ウチの部長さんも太鼓判を押してくれそうな興味深いアイデアだけど……これまでの話しから、告白については、もっと堅実で落ち着いた方法を選ぶと思ってたよ。こういうのって、女子に引かれたりしないの?」


 そんな慎重な姿勢を崩さないクラスメートに、白草はさらに持論を展開した。


「たしかに、サプライズ的な演出は、リスクも大きいけど……大きなイベントで愛の告白をする演出は、成功した時の効果も大きいと思うんだよね〜。だよ!?」


 そんな風に語り、オレに意味深な視線を送ったあと、壮馬にも同意を求める。


「それに、黒田クンと黄瀬クンの《竜馬ちゃんねる》や、わたしの《クローバー・フィールド》で、注目してもらうには、この方法が、一番イイと思うんだけどな〜」


 彼女の言葉に、しばらく逡巡していたようすの壮馬だったが、やがて、

 

「わかった……」


賛同の意をしめしたあと、


「でも、白草さんのアイデアは、竜司の告白イベントに、ボクたちだけじゃなくて、紅野さんをはじめ、他の大勢のヒトたちを巻き込んでしまう……」


と、慎重な口ぶりで、白草とオレの意思を確認しながら、自身の見解を述べた。


「オープン・スクールまでに、竜司と紅野さんの関係性が、告白するまでに至っていなかったり、少しでもトラブルになりそうなことがあったら、すぐに、この計画の中止を提案させてもらう。それでも構わない?」


 あくまで沈着冷静なその意見に、オレは我に返ったように、自省する。


(たしかに、また、紅野を巻き込んで迷惑を掛けてしまうことにならないか……?)


 しかし、壮馬とオレの懸念を一笑に付すかのように、白草は、 


「黒田クンが、これまでのわたしの講義どおりに行動できれば、問題ないよ」


と、積極的姿勢を崩さない。

 彼女のその言葉に、背中を押されたような気がしたオレは、


「あぁ、わかった……」


そう言って、大きくうなずき、やや間を置いてから、慎重に講師役にたずねた。

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