第3章〜白草四葉センセイの超恋愛学演習・基礎〜②
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clover_field 今日も、竜馬ちゃんねるのお二人の所にお邪魔します!
なんと、竜馬ちゃんねるとのコラボレーション企画を計画中です!
新企画の内容は、詳しいことが決まったらお伝えするね。
#新企画近日発表
#鋭意打ち合わせ実施中
#乞うご期待
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土曜日の朝、休日としては、やや早めの午前九時前に目を覚ました壮馬がスマホをチェックすると、画面の中央部に
clover_fieldさんが、写真1件をシェアしました。
という《ミンスタグラム》の通知が表示されていた。
すぐにスマホのロックを解除して、白草四葉の投稿を確認する。
「さすが、カリスマ・ミンスタグラマー……熱心だな〜」
苦笑しつつ、朝食の支度を始めながら、竜司にLANEのメッセージを送る。
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今日は、何時に行けばイイ?
追記:
白草さん、早速やる気だよ〜
https://www.minstagram.com/p/CZCke~~~~/?utm_medium=share_sheet
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近所のベーカリー・ショップで母親が購入してきた食パンを高級トースターにセットすると、相棒からの返信が届く。
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午前十時以降ならいつでも!
追記:
壮馬以上にSNS中毒の人間に
リアルで遭遇するとは!?
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メッセージの後には、茶色のクマが震えているスタンプが添えられていた。
友人の返信を既読スルーし、壮馬は、程よくトーストされた食パンに、甘みの少ないピーナッツバターを塗ってかじり付く。本当なら、カリカリに焼いたベーコンとバナナも載せたいところだったが、あいにく今日は、どちらも冷蔵庫内の在庫が切れているようだ。
繊細さを感じさせない見た目に反して、食の好みにはうるさい竜司なら、
「高級食パンに対して、なんたる冒涜……」
と、嘆くところであるが、アメリカのロックスターが愛したというこのホットサンドが壮馬の朝食の定番だった。
「朝食を軽く済ませた分、竜司のランチに期待しよう!」
そう決断した彼は、トーストを片手に持ちながら、テーブルに置いたスマホのLANEの画面を操作し、
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了解!
ランチは、ベーコンを使った
パスタが食べたい
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と、返信を送る。ほどなくして、送信相手からは、
「気が向いたらね」
という吹き出しの付いたアザラシのスタンプが返信されてきた。
友人との連絡を終えた壮馬は、あらためて、前日の出来事を振り返る。
自分と竜司の新たなクラスメートとなった転入生は、なぜか、自分たち(特に竜司)に異様な関心を示し、友人の恋愛アドバイザーとなることを申し出てきた。
また、その竜司の恋バナと直接的に関係する紅野アザミは、友人の天竹葵とともに、転入生の白草四葉に関する相談を自分に持ちかけてきた。
それぞれの点がバラバラに存在しながら、ひとつの線につなげることが出来ない現状に、モヤモヤとスッキリしないものを感じる。
しかし、自らの抱く違和感の正体をつかむことができないため、それ以上、深く考えることはせず、壮馬は、しばらくの間、キャラの濃い転校生の出方をうかがうことに決めた。
※
竜司に言われた通り、午前十時を十五分ほど過ぎた頃に自宅を出た壮馬が、自宅から自転車で五分ほどの場所にある《編集スタジオ》のドアノブに手を掛けると、すでにカギは開いていた。
「おはよ〜う! 竜司、もうこっちに来てたんだ?」
ドアを開けながら、声を掛けた壮馬に、
「おはよう、黄瀬クン! 今日もお邪魔してます」
返事を返したのは、白草四葉だった。
「お、おはよう白草さん……随分と早い到着だね……」
客人の予想外の早さの到着に気後れしながら応じる壮馬に、竜司が答える。
「オレも驚かされたよ……自分家の方のチャイムが鳴ったから、てっきり壮馬が来たのかと思ってドアを開けたら、白草が立ってたからな……『来ちゃった……』とか言うので、招き入れてたら――――――」
「とびっきりカワイイ女の子が、一人暮らしの部屋に突然訪ねてくる……男子にとって、理想のシチュエーションを提供できたでしょ?」
得意満面の笑顔で答える四葉に、
「「自分で言うな!!」」
男子二名は、声を揃えてツッコミを入れる。
ただ、壮馬には、ツッコミを入れる友人の声にいつものような張りとキレがないように感じられた。
さらに、その表情は、すんでのところで貞操の危機を回避した乙女のようだ。
しかし、そのことを友人に指摘する前に、転入生が不満を口にする。
「ひっど〜い!! そこは、独り身の冴えない男子に、夢のようなうるおいを与えてあげた四葉チャンに感謝して、感動の涙を流すトコロじゃないの?」
「誰が冴えない男子だ!? それに、昨日から言おうと思ってたが……白草、発言が上から目線に過ぎるゾ!」
「え〜!? 上から目線って、そんなつもりは無いのに……でも、わたしからあふれ出る魅力が、非モテの黒田クンに劣等感を与えてしまったのなら、謝らせてもらう。そんなつもりはなかったんだけど……ゴメンね」
てへぺろ、と小さく舌を出す四葉に、竜司は「ハァ……どこまでも口の減らね〜ヤツだな……」と、こめかみに人差し指をあてながら、
「まったく……手土産がなければ、あのあと、お引取りを願ってたところだ……」
と、口にする。
(あのあと、ってなんだよ……!?)
そんな疑問をいだきつつ、竜司の発した『手土産』という言葉に反応した壮馬は、クッションに座る四葉のかたわらに置かれた紙袋に気付いた。
「あっ! あの店の……竜司は、ここのフィナンシェが大好物なんだよ! さすが、白草さん! 竜司の好みのツボを押さえてるね」
高級ブランドとして、日本全国の百貨店に出店している洋菓子店のロゴに気付いた壮馬の言葉を耳にした四葉が、とりわけ嬉しそうに答える。
「うん! 昨日、スマホで調べたら、本店がこの近くにあるってわかったから……開店時間に合わせて来ることにしたの」
彼女の言葉に、想定外の時間帯に、自称『とびっきりのカワイイ女の子』の来訪を受けた竜司が応じた。
「オレ好みの手土産もいただいたことだし、朝から熱心に動いてくれることは、アドバイスをもらう身としては、非常にありがたいが……逐一、ミンスタに活動予告をアップする必要はないんじゃないか?」
「あ、ボクも投稿を見せてもらったよ! 『壮馬より熱心にSNSに取り組んでる』って竜司は感心してたもんね」
壮馬が苦笑しつつ、婉曲的な表現を使った壮馬に対し、同世代には珍しくソーシャルメディア全般に関心の薄い竜司は、キッパリと言い切った。
「オブラートに包まなくてイイぞ!? 今朝のLANEには、『壮馬以上にSNS中毒の人間にリアルで遭遇するとは!?』って返信したんだ」
同級生男子の無遠慮な発言に、予想通り気分を害したソーシャルメディアのカリスマは反論する。
「ちょっと! わたしが、ミンスタを更新するのは、白草四葉が発信する《カワイイ》を求めるフォロワーさんのため! だから、これは、中毒じゃなくて義務なの!!」
憤慨したように語る四葉に、竜司はため息をつきながら、
「白草がミンスタでフォロワーの期待に応えようとすることまで止めようとは思わんが……頼むから、近くに居る人間までプライベートがさらされているってことだけは頭に入れておいてくれ」
と、懇願し、シャツの胸ポケットからスマホを取り出して、十五分ほど前に更新されたミンスタグラムのclover_fieldのアカウントを表示させた。
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