第3章〜白草四葉センセイの超恋愛学演習・基礎〜③
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投稿された文章には、完璧な角度から自撮りされた白草四葉本人と、洋菓子店のロゴがバッチリと印象付けられる構図の画像が添えられていた。
自宅からの移動中に更新されたであろうミンスタの投稿を確認し、「あ〜」と声を発した壮馬の苦笑の度合いは、一層、濃くなる。
「スゴいね……白草さんとコラボするだけで、ボクたち《竜馬ちゃんねる》のカラーが、一気にパステル調のピンク色に染まって行く感じだ……こういうの古いネットスラングで、なんて言うんだっけ? 文字通り『スイーツ(笑)』?」
「昔のネット用語のことは知らんが、自分たちの身近な人間が、白草のミンスタをフォローしていないことを祈るばかりだ……」
「え〜!? わたしとしては、ぜひ、黒田クンの家族にも見てほしいんだけどな〜」
転入生は澄ました表情で、冗談とも本気ともつかないようなことを口にする。
「白草、正気か? ナニが悲しくて、家族にSNSの投稿を見られなきゃならないんだよ。特に、あの母親にはな……」
苦虫を噛み潰したような竜司の発言に、楽しげな笑みを見せたあと四葉は、
「さて、それじゃあ、今日の本題に入りましょうか?」
と、話題とともに、表情を切り替えた。
恋愛アドバイザーとして、講師然とした表情に切り替わった転入生の様子に、準備が整ったことを察した壮馬が、クロームブックを取り出した。
「昨日と同じように、今後のために、記録を取らせてもらうよ」
そう語るクラスメートに、うなずきながら、白草四葉は、「では……」と、一言発してコホンと可愛く咳払いをしたあと宣言する。
「それじゃ、まずは、黒田クンが最初に取るべき行動について話していこっか?」
※
超恋愛学の講義が始まることを予告した白草は、小道具として、わざわざ赤いフレームの伊達メガネを取り出して装着した。
昭和時代の特撮変身ヒーローではないが、彼女なりのスイッチの切り替えのつもりなのだろうか?
まるで、予備校の講師のような存在感を醸し出しはじめた白草四葉は、こんな言葉で講義を開始した。
「まず最初に、一度フラレた異性に再告白する時の大事なポイントを三つ挙げておくね」
彼女の言葉に、オレはうなずき、かたわらでは、壮馬がカタカタとクロームブックのキーボードをタイプし始める。
「一つ目は、今までと変わらない態度で相手と接すること」
「ニつ目は、しつこく連絡したり、フラレた理由を聞いたりしないこと」
「三つ目は、すぐに再告白せず、成功するための機会をジックリと待つこと」
オレたち二人のようすを確認しながら、白草は、彼女が考える三つのポイントをゆっくりと語った。
「それを守れば、絶対確実……とまでは言えないかも知れないが、告白に成功する確率が高くなる、と考えてイイのか?」
確認するように、彼女にたずねると、超恋愛学の講師は、ニッコリと微笑み、
「ええ、そう考えてくれて問題ない」
と、断言したあと、
「――――――と、言っても、黒田クンの場合、それ以前にクリアしなきゃいけないことがあるけどね」
そう言って、クスクスと笑った。
この講義が始まる前までなら、オレは、彼女のそんな態度に憮然としたところだろうが、いかにもデキる講師役という雰囲気と、なぜか説得力を感じさせる彼女の言動に素直に応じる。
「また、一年のときみたいに、紅野と話せるようになれるかな……」
オレ自身が、もっとも不安に感じていることを口にすると、白草は澄ました表情で返答する。
「そのために、紅野サンと同じクラス委員になってもらうようお膳立てしたんだから、そこはがんばってもらわないとね!」
「もしかして、新学期初日から、オレを地獄の底に蹴落とすような、あの所業は、この企画のためだったのか……?」
そう問い返すと、彼女はしたり顔のまま、
「なんだっけ? 『獅子はカワイイ我が子を千尋の谷(?)に突き落とす』っていうでしょ?」
と、自身の行動が、計画に沿ったものだと断言した。
その言動の計画性もさることながら、彼女の教育方針がスパルタ式であることが予想され、今後の講義と実践に対する緊張感が増す。
ゴクリ――――――。
緊張と不安から、思わず固唾を飲み込むと、こちらの張り詰めた感情が伝わったのか、白草は穏やかな表情をつくり、これまでになく優しい口調で、諭すように語った。
「心配しなくても、大丈夫……黒田クンの話しだと、紅野サンは、『変わらずに話してくれると嬉しい』ってメモを残してくれてたんだよね? なら、黒田クンは、彼女に嫌われているわけじゃないと思うよ」
「そ、そうなのか……?」
今後の展開に大いなる希望を持つことができそうな言葉に、すがるように問い返すと、彼女は、柔らかな表情のままうなずいて、
「今回みたいなケースの場合、黒田クンが、最初にするべきことは、紅野サンとの関係を再構築することだから、しっかりしてね」
そう言ってから、オレの二の腕にポンポンと二度触れた。
長袖の衣服ごしにも関わらず、彼女に触れられた箇所に熱を感じながら、
「でも……具体的にどうすれば良いんだ?」
講師役の転入生に、再びたずねる。
すると、白草は、「ん〜、そうだな〜」と、左手を顎のあたりにあて、考える仕草をしながら、
「まずは、春休み前に、彼女の気持ちを考えずに、急に告白したこと、それから、出来れば動画の件についても、キッチリと謝罪しないとね」
と、笑顔を見せる。
異論をはさむ余地のない言葉に、
「あぁ、たしかに、そうだな……」
素直にうなずくと、彼女は、こちらの柔順な態度に納得したように首を縦に振って、
「そして、最後に『これからも、クラスメートとして、委員の仕事を一緒に行う共同作業者として、変わらずに接してもらいたい』と告げること。まずは、ここまでを目標にしましょう」
と言って、最初の講義を締めくくった。
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