第2章〜白草四葉センセイの超恋愛学概論〜③
そして――――――。
「そ・れ・と・も……一度、断られたくらいで、あきらめちゃう?」
白草は、挑発的な笑みをたたえ、小首をかしげながら、こちらを見つめてきた。
その蠱惑的な表情に、動揺し、言葉に詰まる……。
すると、彼女の言葉を漏らすまいと、ここまで熱心にクロームブックの画面とキーボードに向かっていた壮馬が、
「ここまで白草さんが話してくれたことをまとめてみたんだけど……」
と、ノートパソコンの画面をオレと白草に向けて提示させた。
壮馬の示した十四インチのディスプレイには、恋愛指南者として、白草四葉が語った言葉が、端的にまとめられている。
『白草四葉の恋愛指南(仮)〜告白を成功に導くためのアドバイス〜』
①自分が相手に『好意を抱いている』ということを匂わせておくべし
→急に告白された女子は、『ぬいぐるみから、ペニスが生えたようなショック』を受ける
→効果的な好意の伝え方は、本編(動画など)で伝授する。
②恋人や好意を抱いている存在の有無、もしくは恋愛に関心があるかを調査しておくべし
→相手の恋人の有無や好みのタイプ、恋愛観を知っておくこと(彼を知り己を知れば百戦して殆うからず)
→する側とされる側の双方の間に恋愛観の隔たりがある場合の告白は、成功し難い
※なお、小学生の竜司は、女子の告白を無下に断る模様
③告白は、二人の関係性の確認作業であって、一発逆転や急速接近を狙うモノではない
→告白前の準備段階と告白するタイミングが重要(具体的なアドバイスは本編で)
→一度、告白を断られても、チャンスはある
・フッてから異性として見るようになった
・相手が好みの容姿に変化した
・告白のあとでも、変わらない優しさに惹かれた
・他のヒトと付き合い始めたのを知って、気になるようになった ...etc
ノートPCの画面を確認した白草は、声を弾ませて、壮馬の仕事ぶりを称賛する。
「スゴい‼ 良くまとまってる! ありがとう、黄瀬クン!」
「白草さんの話しを聞かせてもらいながら、自分なりに付け加えた部分もあるんだけど……問題、ないかな?」
優秀な書記の問い掛けに、「うん!」と、大きくうなずき、満足したように、悦に入った表情を浮かべている。
「特に、小学生男子の立場になった黒田クンが、告白を受け入れないということを再認識できる点が秀逸ね!」
自分たちの仕事に、手応えを感じている白草と壮馬に対して、
「いや、それは例え話であって、今回の件と、なんの関係もないだろ……」
と、小声で冷静なツッコミを入れるが、二人の耳には届いていないようだ。
仕方なく、オレは、他の箇所に目を移して、質問する。
「ところで、『
オレの発した問いかけに、一言ため息をついた壮馬は語る。
「それは、『
「あぁ、曹操が内容をまとめてたって言うアレか!?」
「そうそう! ――――――って、これはダジャレじゃないからね! この部分は、自分で付け足した言葉だけど、上手く要約できているんじゃないか、と自分でも思ってるんだ!」
自身の記述した内容に自負を滲ませた記録係に、アドバイザーが反応する。
「これって、有名な言葉だよね! 確かに、恋愛にも当てはめやすいフレーズかも……ただ、相手のこと以上に、自分自身のことを理解するほうが難しかったりするんだけどね、実際は……」
白草は、そう言って苦笑した。
そして、
「壮馬がまとめてくれた内容に、問題はないってことでイイのか?」
と言うオレの問いに、
「そうね! これで、問題ないと思う」
と応じた彼女は、
「それと、さっき、ぬいぐるみにたとえて語ったことについてだけど……フランスの女優カトリーヌ・ドヌーヴが代表しているように、女性の側からも、『不器用な口説き文句を性犯罪と同一視すべきではない』って意見も出ているから、あまり気にしすぎないようにね」
と、フォローを入れてくれた。
その一言に、思わず表情が和む。
こちらの顔色を確認したのか、白草は続けて、
「ここまで、一気に話しをさせてもらったんだけど……《竜馬ちゃんねる》のお二人から、他に質問はないですか?」
あらたまった口調で、質疑応答の時間に入ることを告げる。
彼女の問い掛けには、またも、壮馬が「はい!」と手を上げて、真っ先に反応した。
「白草さんの講義を聞かせてもらって思ってたんだけど……この話しって、何年か前から話題になっている『恋愛工学』とは違うモノなの?」
「う〜ん……『恋愛工学』かぁ〜」
と、恋愛アドバイザーはつぶやきながら、思案するように応じる。
「わたしが、自分のフォロワーさんたちに披露しようと考えているモノとは、ちょっと違うかな? ところで、黄瀬クンは、『恋愛工学』について、どこまで知ってるの?」
「いや、そういう言葉を聞いたことがあるってだけで……『恋愛を理論化しているモノなのかな』って、認識しているから、白草さんの話してくれたことと、なにか関係あるかもって思ったんだよね」
壮馬の答えに、白草は「そっかそっか……」と、うなずきながら、持論を展開した。
「たしかに、わたしも恋愛に関するアレコレをある程度、理論化したものを提供しようと思っているんだけど……たとえば、最初に黒田クンにダメ出しをした部分なんかは、『恋愛工学』でも、悪手とされる《好きな異性のことばかり考えて下手に出たり、思いを綴った気持ち悪い長文のLANEなどを送って嫌われてしまう》いわゆる『非モテコミット』と指摘できるかもね。でも、同じように、『恋愛工学』で否定的に評価される『フレンドシップ戦略』は、わたしが、これから黒田クンに伝授していこうと考えているモノに近いから……」
彼女の発言に、突如、名前を出された竜司は、「んっ!?」と、かすかに反応を示した。
しかし、彼のリアクションをよそに、恋愛アドバイザーは、語り続ける。
「そもそも、『恋愛工学』って、《相手を一人に絞らずに不特定多数の女性にモテよう》という点に特化して理論化されている側面があるんだけど……今回、黒田クンの目標は、特定の相手に絞られてるでしょ? だから、わたしが、提供しようとしているモノと『恋愛工学』は、真逆と言ってイイかも……」
「ほぅ……そうなのか……」
思わず発したつぶやきに、今度は反応した白草から、
「うん! 黒田クンが、わたしのフォロワーを敵に回して、『オレは、不特定多数の女子にモテたい!!』と、方針を転換するなら別だけどね……」
という答えが返ってきた。
しかし、彼女の澄ました笑みからは、
(まさか、そんな不埒なコトは言い出さないでしょうね!?)
という無言の圧力が感じられる。
暗黒微笑と言っても良い、その表情に気圧され、オレは、
「お、おう……アドバイスは、現状の方針で頼む」
と、答えるのが精一杯だ。
すると、恋愛アドバイザーは、
「そう……? 賢明な判断ね」
と、満足したような表情で、こちらの回答を受け入れた。
苦笑する壮馬と、いまだ落ち着きを取り戻せないオレの表情をうかがいながら、白草は、再び二人に問いかける。
「他に質問は……?」
すると、「もう一つイイかな?」と、壮馬が再び軽く手をあげた。
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