第2章〜白草四葉センセイの超恋愛学概論〜④
小さくうなずいた自称・恋愛アドバイザーは、「どうぞ」と、柔らかな表情に戻って、質問者に発言をうながす。
背中を押された壮馬は、
「実は、こっちの方が、気に掛かっているんだ……」
と、切り出した。
「今回の企画の成功は、竜司の奮闘ぶりに掛かっていると思うんだけど……ボクらより、遥かにフォロワーも多くて、注目度が高い《クローバー・フィールド》のヨツバちゃんの新企画の対象が、竜司でイイの? 長い付き合いの友人を悪く言うつもりはないけど、黒田竜司にヨツバちゃんのフォロワーを満足させられるほどの魅力があるのかな、と思って……白草さんなら、もっと、女子にニーズのありそうな、『スパダリ男子』の知り合いが居るんじゃないかって、思うんだけど、その辺りはどうなの?」
親友の言葉にうなずきながら、オレも同様の疑問を彼女にぶつける。
「先に言われちまった上に、自分で言うのもナンだが……この企画の実行者は、ホントにオレで良いのか?」
オレたち二人が呈した疑問に対し、白草四葉は自分を落ち着かせるように、「フゥ〜」と息を整え、笑みを浮かべながら、語りだした。
「たしかに、モデル事務所に所属しているような男の子に声を掛ける方法もあったし、その方が、今のフォロワーさんたちにはウケが良いかも知れないけど……それじゃ、わたしが開拓しようとしている同年代の男の子には、ササらないと思うんだよね〜。二人は、映画を観るのが好きみたいけど、モデル系男子が《壁ドン》するような量産型キラキラ映画を観に行きたいと思うタイプ?」
彼女の質問に、オレたちは二人そろって、ハリウッド映画の俳優よろしく、大げさに両手を広げて、首を横に振りながら、声を揃えた。
「「まったく思わないね!!」」
その回答に「我が意を得たり!」と、苦笑しながら、白草は説明を続ける。
「そうだよね……ああいうタイプの映画は、主に女の子がメイン・ターゲットだと思うから! わたしは、自分のフォロワーの幅を広げるために、今回の企画では、同世代の男子にも注目してもらいたい、って考えてるの。同じ年代の男の子にも興味を持ってもらうためには、キラキラ映画で主役を張るような、『王子様的スパダリ男子』じゃなくて、
最後は、思わせぶりに、クスクスと笑った。
彼女の解説に、「そういうことか……」と、自嘲気味に笑うしかない。
「ハイハイ、どうせ、オレは『壁ドン』が似合うようなイケメンじゃないですよ!?」
わざとらしく唇をとがらすと、白草は、そんなこちらの様子を楽しげに見つめながら、
「拗ねない、拗ねない」
と、声を掛け、「それに……」と、言葉を続けた。
「さっき、黄瀬クンから質問のあった『恋愛工学』では、『グッピー理論』っていう《ブサメンもしくはフツメンが、イケメンに勝つ》っていう男子の興味を引きそうな説が強調されているんだけど……わたしの提供するモノでも、《普通の男の子が、頑張って告白に成功する》ってカタチを取りたいんだ。これなら、今のわたしのフォロワーの女の子たちにも受け入れやすい内容だと思うし、男の子にも興味を持ってもらえるんじゃないか、って考えてるの」
まるで、回答を用意していたかのように、スラスラと自説の補強を行った恋愛アドバイザーに対して、聞き手であるオレたち二人は、素直に「フムフム」とうなずく。
「わたしが、伝えたいことは……そうだな〜、『恋愛工学』なんて堅苦しくて難しそうなタイトルじゃなくて、もっと、同世代にとって身近な『恋愛予備校』とか『恋愛塾』って、感じかな? 志望校の入学試験対策と同じように、《恋愛》という分野だって、親しくなりたい異性に対する『傾向と対策』が必要でしょ?」
続けて分かりやすい事例を出して自説を強調する白草四葉。
「これから、わたしのことは、マドンナ講師と呼んでくれてもイイから! 二人がお好みなら、メガネも用意させてもらうしね! 黒田クンは、赤と黒、どっちのフレームが好き?」
そう言って、妖しく微笑む自称・恋愛アドバイザーに対し、オレは、醒めた口調で返答する。
「あいにく、オレは、メガネフェチじゃね〜よ」
そして、白草は最後に本音を垣間見せるように、
「あとは……わたしは引っ越してきたばかりで動画編集用の機材が揃っていないから……今回の《竜馬チャンネル》の二人とのコラボを機会に、この編集スタジオの機材を使わせてもらえると、嬉しいな」
と、可愛らしくおねだりするポーズを見せた。
「ハア……白草……今回の企画提案の本音はそこか……?」
ため息をつきながら、彼女に問うと、
「エヘヘ……バレたか……」
と、まったく悪びれもせずに自白する。
それは、自分自身の魅力を確信し、オレたちが協力を拒否する可能性など微塵も考えていない人間が見せる表情だった。
「ったく……調子のイイやつだ……」
苦笑しながら、つぶやくと、壮馬は白草四葉の計画性に感服したのか、
「は〜。そこまで考えてたんだね〜」
と声をもらし、
「そういうことなら、今回はガンバってよ、竜司! リアリティ・ショー的な企画への参加は、リスクも多いけど、ボクが出演するワケじゃないし、楽しみながら見せてもらうよ」
と、発破をかけてくる。
「おまえも本音が漏れてるぞ……壮馬は、いつも一言、多いんだよ!」
オレはあきれ顔でツッコミを入れながらも、ふと壁掛時計に目を向ける。
白草四葉は、春休みが始まって以来、失恋モードから抜け出せず、『恋愛クールダウン』の期間に入っていたオレを、わずかな時間で、再び告白に挑むモチベーションに燃える『恋愛モード』に変えてしまった。
彼女は、オレたち二人にとって、この《編集スタジオ》に迎える初めての来客だったが、会話が盛り上がったためか、気が付くと、三人がこのマンションの一室に入ってから、二時間以上が経っていた。
時計の針は、午後三時三分のあたりを指している。
恋愛アドバイザーを自称する、この『新しい先生』が持論を披露し始めてから、一ニ三分が経過していた。
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