第1章〜学園一の美少女転校生が、休み時間の度に非モテのオレに話しかけて来る件w〜⑦

 親友が部屋を立ち去ったところで、壮馬は、クッションのある場所を四葉に薦めて、


「竜司は、この部屋の隣に、一人で住んでるんだよ。ここには、家電類が無いから、必要な時は、竜司の部屋のモノを使わせてもらってるんだ」


と、彼女に、自分たちのスタジオについて説明しつつ、気になっていたことを聞いてみることにした。

 彼女が、なぜ、そこまで自分たちに興味を持ってくれるのかについては、大いに気になるところではあるが――――――。

 それは、竜司が戻って来てからでも、確認できる。

 そこで、彼は、休み時間中にクラスの女子二名から依頼された件について、それとなく探りを入れてみることにした。


「転校初日で、こんな質問をするのもナンだけど……ウチのクラスには、馴染めそう? 仲良くなれそうなヒトは居た?」


 慎重に質問を切り出す壮馬に、四葉は、


「うん! みんな親切そうだし! 仲良くなれそうなヒトは……そうだな〜、まだクラス全員のことは良くわからないから……黄瀬クンと黒田クンが仲良くしてくれると嬉しいな」


 女子に感心を持たない壮馬を別として、一般的な高校生男子なら、それだけでオチてしまいそうな、極上の(営業)スマイルで応える。


「まぁ、ボクたちのことは置いといて……」


 壮馬は、苦笑しながら前置きをした後、本題に切り込んだ。


「休み時間は、石川さんや野中さんと話してたよね? あと……席の近い紅野さんや天竹さんは、どう? 二人とも、何か話せた?」


「あ〜、紅野さんには、ちょっと失礼なことを言っちゃったから、嫌われたかな〜? あと、天竹さんだっけ? あのは、紅野さんと仲が良いの?」


「二人が、どの程度の仲かは知らないけど、ボクが知る限りじゃ、紅野さんと天竹さんは、一緒に居ることが多いかな? 白草さんは、何か紅野さんを気にする理由があるの?」


「ん〜、『理由がない』と言うと、ウソになるかな?」


 彼女の発言に、壮馬は思わず身を乗り出しそうになるが、白草四葉は、余裕たっぷりの表情で、肩透かしを喰らわせる。


「でも、それは、黒田クンが戻って来てから、話しをさせて」


 ちょうど、その時、玄関のドアが開き、


「待たせたな〜」


と言いながら、竜司が戻って来た。



「おかえりなさい! ありがとう黒田クン」


 白草が、愛想よく応対してきたので、オレも明るい調子で返答する。


「おう! アイスを食べたくなったら、いつでも言ってくれ! 部屋に取りに行ってくるからな」


 正方形のローテーブルを挟んでクッションのある位置には壮馬と白草が座っており、オレは、彼女の隣に腰を下ろしながら、それとなく問いかける。


「ところで、白草……休み時間中に、石川や野中と話してたみたいだけど……もしかして、オレのことが話題に出てたのか?」


「うん、黒田クンの想っていたヒトが、どんな女子なのか気になったから、二人にも情報収集をしてたんだ〜」


 その一言に、オレは顔色を変える。

 さらに、この転入生は、ニマニマと笑いながら、


「まぁ、だいたいの目星は付いたけどね〜」


と、こちらに視線を向けてくる。

 彼女の言動に、「マジか……!?」と言葉を失うが、白草はオレの表情を愉快そうに眺めながら、


「まあ、このお話しは、楽しくお昼をたべながらにしない?」


と、提案してきた。

 

(そんな話しを楽しみながらできるわけないだろ!?)


 ツッコミを入れたくなるが、彼女の言うように、午後一時も過ぎて、そろそろ腹の虫が声を上げだしたので、その申し出に乗ることにする。


 そんなわけで、順番に手洗いを済ませたオレたちは、席に戻ると、テーブルに丁寧に包まれたパンと、コンビニで購入したドリンクを取り出した。


 白草は、カスクートとカマンベールチーズのパンに、グテという商品名の板チョコを挟んだフランスパンとミルクティー。

 壮馬は、クロワッサンサンドとキッシュに、ヴィエノワという少し甘めのウィーン風パンに生ハムを挟んだサンドとカフェオレ。

 そして、オレは、ソーセージクロワッサンと明太子フランス、サンライズと炭酸飲料をそれぞれの手元に置いた。


 各自の選んだパンとペットボトルが揃ったことを確認した壮馬が、「では!!」と、声を上げて、こちらに視線を送ってきた。

 長い付き合いの相方の合図を受け取ったオレは、ドリンクを片手に宣言する。


「ささやかながら、新しいクラスの転入生にして、クローバー・フィールドの白草四葉さんの歓迎会を始めたいと思います。カンパイ!」


 掛け声に合わせ、


「「カンパ〜イ!!」」


と、壮馬と白草も声を揃える。

 開会宣言を終えたオレは、ペットボトルのキャップを開封し、炭酸飲料を一口含んだ後、


「でも、良かったのか白草? 確かに、ここのパンは絶品だが、今の壮馬になら、もう少し豪華なランチをることもできたゾ?」


と、冗談めかした口調で、転入生にたずねた。


 実際のところ、春休みが始まるまで、オレたち《竜馬ちゃんねる》の動画は、多くの再生回数を稼ぎ出していたのだが、それは、主に壮馬が編集したスマホゲームの解説動画が視聴されてのものだった。


 オレと壮馬が、ともに一年近く前から始めた競走馬を擬人化したゲームは、冬の終わりに、サービス開始一周年を迎えていた。その時期に合わせた新機軸のシナリオは、これまでのキャラクター育成術とは異なる方法での育成が必要になったため、壮馬の作成した解説動画は、ネット・ユーザーに重宝されたようだ。


 その反動と学年末テストの影響、さらには、彼ら二人が所属するクラブ活動のの仕事が立て込み、壮馬は三月半ば以降、《竜馬ちゃんねる》の動画の編集と作成から、距離を置いていた。

 それでも、壮馬が、夜を徹して編集し、アップロードした数本の動画は、合計で一◯◯万回近い再生数を稼ぎ出し、大いにヤツの懐を潤したようだ――――――。


「タカるなんて、そんなこと初対面なのに、デキるわけないじゃない……でも、二人の編集スタジオを見てみたかったし、話したいこともあるからね!」


 彼女は朗らかに答える。

 その様子に、壮馬が気になっていることを重ねて質問する。


「そのことなんだけどさ……ボクたちに興味を持ってくれたことは嬉しいけど、男子二人が根城にしている部屋に、一人で来るのは不安じゃなかったの?」


「そのことなら、大丈夫! さっき、ベーカリーショップで撮影した後、《ミンスタ》に二人が歓迎会を開いてくれることを報告しておいたから! わたしにナニかあったら、一◯◯万人のフォロワーが、すぐに反応してくれると思うな」


 アッケラカンと返される白草の答えを耳にした壮馬は、すばやくスマホを取り出し、《ミンスタグラム》にアクセスして、『クローバー・フィールド』のアカウントを検索する。

 彼女の投稿は、すぐに見つかったようだ。


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clover_field 今日は新しい学校の転校初日!

放課後は、同じクラスになったYourTuber・竜馬ちゃんねるのホーネッツ1号サンと2号サンが、歓迎会を開いてくれることになりました!

ここのお店のパンも楽しみ。


#新学期転校初日

#竜馬ちゃんねる

#パンの名店

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 書き込みを確認した壮馬は、無言で自身のスマホをオレに手渡してきた。

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