第1章〜学園一の美少女転校生が、休み時間の度に非モテのオレに話しかけて来る件w〜⑥
四時間目が終わり、その後のショート・ホーム・ルームが終了した放課後――――――。
オレと壮馬が、帰り支度をしていると、白草四葉が三度、自分たちの元に訪ねてきた。
「おつかれさま、黒田クン、黄瀬クン! 二人とも、すぐに帰れる感じ?」
「あぁ、今日は、特に用事もないからな」
転入生の問いに、オレが答えると、冗談めかした口調で壮馬が絡んでくる。
「新学期初日から、職員室への呼び出しが無くて良かったね」
「オレが呼び出しを喰らう時は、おまえもセットだろう?」
相変わらず口の悪い友人にツッコミを入れると、
「ホント、二人は仲が良いんだね……」
白草は、苦笑をたたえながら、午前中と同じような感想を口にする。
そして、
「ところで、お昼は、どうしよっか?」
と、同じく午前中からの懸案事項を提示してきた。
彼女の問い掛けには壮馬が応じて、
「そのことなんだけどさ……ボクたちに、声を掛けてもらった感謝も込めて、竜司と二人で、ささやかながら、歓迎会をさせてもらおうかと考えているんだ! 白草さんは、何か食べたいモノとか、行きたいお店はある?」
そう提案すると、彼女は、飛び上がらんばかりに喜んで、
「ホントに!? ありがとう!!」
と、大きな反応をしめす。
しかし、その後、一転して、
「でも、お店での外食は、まだ避けた方が良いかも? こっちのお店は、まだ、あんまり詳しくないし……それより、二人に
と言って、オレたちが想定していなかったことを口にした。
※
「へぇ〜、なかなかオシャレな建物じゃない」
下校の途中、国道沿いの老舗のベーカリー・ショップと全国展開しているアイスクリームのチェーン店、さらに、コンビニでドリンク類の買い出しを行ったあと、我らが根城が入居する七階建てのマンションを見上げ、興味深そうに感想を述べるのは、白草四葉。
「ここが、竜司の今の住まいと竜馬チャンネルの編集室兼スタジオが入居しているマンション。ちなみに、一階のショップは、竜司のお母さんのお店だよ」
壮馬が、したり顔で解説するので、クギを刺しておく。
「壮馬〜、余計なことは言わなくて良いゾ〜」
「へ〜、このショップが黒田クンのお母さんが経営しているお店なんだ……」
壮馬が言及したインテリア・ショップに興味を持ちつつある転入生の興味をそらすべく、
「白草も、行こうぜ……」
と、声を掛ける。
放課後直後に白草四葉が希望した、『達っての願い』とは、
「《竜馬ちゃんねる》の撮影および編集を行っている部屋があれば、見せてほしい」
というモノだった。
彼女が、なぜ、そこまで自分たちに興味を持ってくれるのかについては、大いに気になるところではあるが――――――。
それは、昼食に買って来た絶品のパンをかじりながら聞かせてもらうことにしよう。
エレベーターで四階まで移動し、三室が連なるドアの真ん中の部屋の前で立ち止まった壮馬が鍵を取り出し、ドアを解錠する。
玄関ドアを開けると南向きのバルコニーに面した大きな窓から、明るい日差しが射し込んでいた。
白い壁に掛けられたアナログ時計の針は、ちょうど午後一時を指している。
「白草さん、ようこそ《竜馬ちゃんねる》の編集スタジオへ!」
ドアを開け放ったままで、壮馬が、うやうやしく、白草に入室を薦める。
「編集スタジオって言っても、ただのワンルーム・マンションだけどな……まあ、せっかく来てくれたんだ! 遠慮なく上がってくれ、白草」
壮馬に続いてオレが入室をうながすと、彼女は、「おじゃましま〜す」と、一声添えて、室内に足を踏み入れた。
玄関で脱いだ靴を揃え、短い廊下を抜けると、ほぼ正方形の形で、十畳一間のフローリングが拡がっている。
居間の真ん中には、七十センチ四方の小さなテーブルと、座椅子代わりのクッションを二つ置いている。
さらに見渡すと、金属製のL字型デスクにはデジタルカメラやデスクトップPCなど、動画撮影・編集用の機材が整理して置かれ、その隣のテレビ台には、四十インチのデジタルテレビが鎮座している。そして、窓側以外の三方向の白い壁には、オレと壮馬が二人でチョイスした映画のポスターを貼っていた。
『フェリスはある朝突然に』
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
『クローバーフィールド/HAKAISHA』
『トレイン・スポッティング』
『グランド・イリュージョン』
『燃えよドラゴン』
『仁義なき戦い』
『太陽を盗んだ男』
….etc。
「あ〜、何て言うか、いかにも『男の子!』って、感じのチョイスだね〜」
ポスターを見ながら感想を漏らす白草。
芸能関係者を両親に持つ彼女らしく、国内外を問わない数々の映画のポスターを興味深げに眺めていた白草だが、その中に見慣れないモノが存在したようだ。
それは、他のポスターとは異なり、横長に引き伸ばされたもので、左側には地球を写した衛星写真の上に英文が書かれており、右側には、海外と思われる場所の田舎道の早朝の風景の上に、
Stay hungry.Stay foolish.
という一文がタイプされている。
「これは、なんのポスター?」
彼女の問いに、親友と視線を交わしながら答える。
「それは、『WHOLE EARTH CATAROG』ってタイトルの雑誌の最終号の表紙と裏表紙だ。この雑誌は、スチュアート・ブランドという編集者によって創刊されたんだけど、ボクたちが見慣れたこの地球の衛星写真が自由に見られるのも、ブランドたちが、NASAに対して地球の写真を公開する請求運動を起こしたことがきっかけなんだ」
オレが、返答すると、壮馬が続けて口を開いた。
「この雑誌の最終号の発売記念イベントで、売上金の2万ドルをユニークな使い方を発表した参加者に譲る、という企画があったらしいんだけど、その中から、ひとりの参加者が『紙幣なんて燃やしてしまおう』とユニークな提案をして、彼に2万ドルが与えられた。ただ、彼は提案どおりに紙幣を燃やさず、その資金を使って4年後に、コンピュータの愛好家たちが、情報やアイディアを無償で交換するためのクラブを立ち上げたんだ」
流暢に語る親友の言葉に、オレは重要なポイントを付け加える。
「そのコンピューター・クラブに参加していたのが、スティーブ・ジョブズなんだよな?」
確認するように発言した一言に、壮馬はうなずいて、さらに情報を付け足す。
「ジョブスは、ここでコンピュータに関する知識を深めて、同じくクラブの会員だったエンジニアのスティーブ・ウォズニアックとともに創業したのが、ボクたちの生活に欠かせないPCやスマホを開発したアップル社なんだ。ポスターの右側に書かれている『Stay hungry.Stay foolish』という言葉は、有名なスピーチの一例として、白草さんも英語の授業なんかで聞いたことがあるんじゃないかな? もっとも、この言葉をどう和訳して解釈するかは、プロの翻訳家の間でも意見が別れるそうだけど……」
嬉々として解説する友人の口調に笑みを浮かべながら、
「女子が相手でも、こういう時は饒舌だな」
そう語ると、その視線に皮肉が込められている、と感じたのか、親友は
「む〜。なんだよ……」
と、面白くなさそうに声をあげる。
だが、感心したように
「そうなんだ……難しいことは良くわからないけど……今のパソコンやスマホは、そういう考え方の影響を受けてるんだね。地球の衛星写真が、スマホの開発につながってるなんて知らなかった」
と、つぶやく白草の一言に気を良くしたのか、
「でしょう!? SNSを使いこなしてるヨツバちゃんなら、このバタフライ・エフェクトの素晴らしさを、わかってくれると思ってたよ!」
と、反応し、すぐに機嫌を直した。
その様子を眺めていたオレは、親友をフォローしてくれた白草に感謝しつつ、
「立ち話しを続けるのもなんだし……広い部屋じゃないが、できる限りゆっくりして行ってくれ。オレは、アイスを冷凍庫に入れてくるわ」
と、声を掛ける。
そして、国道沿いのショップで購入したアイスクリームの入ったビニール袋を持ち、編集スタジオの玄関を出て、自室となる隣の部屋へと移動した。
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