第1章〜学園一の美少女転校生が、休み時間の度に非モテのオレに話しかけて来る件w〜⑤

「二人とも、動画の中だけでじゃなくて、学校でもホントに仲が良いんだね?」


と、彼女は、さわやかな笑顔で語りかけてくる。


「今度は、何の用だ……白草四葉!?」


 不信感を隠さず返答するオレに、白草は、臆する様子もなく、可愛らしい仕草で不貞腐れた表情を見せる。


「少しでも早くクラスに馴染もうと努力する転入生相手に、そんな顔しないでよ黒田クン…!? クラス委員なのにさ……」


 その様子に、表情を変えないまま、


「誰のせいで、こんな事になったと思ってるんだ!?」


と、今度は不機嫌さを隠すことなく返答すると、白草は、心外だという風に反論する。


「え〜!? これが、黒田クンのためになる方法だと思ったんだけどな〜」


「ハァ!? オレのため……? いったい、どういうことだ!?」


 想定外の返答に、疑問を口にしたオレに、彼女は、意外な提案をしてきた。


「そのことも含めて、ちょっと、話したいことがあるんだけど……今日は、午前中で学校も終わるよね? 黒田クン、黄瀬クン、二人とも放課後に時間はある?」


「え!? ボクにも用があるの?」


 予想外の誘いに、今度は、壮馬が聞き返すと、


「うん! 転入生の白草四葉としても、《クローバー・フィールド》のヨツバとしても、二人とは、色々と話したいことがあるから……」


 白草四葉は、そこまで言ったあと、「ダメ、かな……?」と、憂いを帯びた表情で二人にたずねた。

 彼女の仕草に、一時間前の初回訪問時と同じく、オレたちは顔を見合わせる。


「クラスに馴染みたいなら、紅野や天草に頼んだ方が良いんじゃないのか? それに、白草と話したがってるヤツらなら、自分の席の近くに集まってるじゃないか?」


 オレは、そんな逆提案をしつつ、人目を引くに十分な転入生とコミュニケーションを図ろうと彼女の席の周辺に集まっている連中を指差す。

 しかし、一瞬、表情を曇らせた白草は、


「わたしは、、って言ってるんだけど?」


 こめかみの辺りに、目には見えない青筋をたたえ、笑みを作り直して訴える。


「まあ、そこまで言われちゃ、クラス委員として断るわけにはいかねぇか……」


 軽くため息をつきつつ答えるオレに、


「そこは、『男子としては……』と言っておいた方が良いんじゃない? まぁ、今日は、ボクたちの部活も休みだって部長が言ってたし大丈夫だよね、竜司?」


 友人と転入生のやり取りを観察していた壮馬が、苦笑しながら語る。

 こうして、動画サイトで《竜馬ちゃんねる》を運営するオレたちは、新学期初日の放課後に、同世代のインフルエンサーでもある転入生と午後の時間をともにすることになった。

 そして、なかば強引に午後の予定を埋められ、心のモヤが晴れないオレに向かって、白草は、笑みを浮かべながら、トンデモナイことを言い放った。


「でも、残念だな〜。もし、午後も授業があれば、教室で一緒にお昼を食べる時に、失恋のキズが癒えない黒田クンに、『あ〜ん』して、お弁当を食べさせてあげたのに……」


 透き通るような彼女の声は、教室内を、シン――――――と静まり返らせるには十分な破壊力を持っていた。

 白草の声に、教室内のクラスメートどもは、


(フラレたばかりの黒田竜司に、あの白草さんが!?)


ザワ……ザワ……と、にわかに色めき立ち、男子は血走った目で、女子たちは、興味深そうな視線をこちらに向けてくる。


 クラス内に不穏な空気が流れかける中、オレは、ため息をつきながら冷静にツッコミを入れる。


「白草……なんの冗談かはワカランし、転校する前の学校がどうだったかは知らないが……ウチの学校の昼食時は、教室内じゃ『黙食』がキホンだぞ?」


「そっか〜、残念。でも、わたしと一緒に、お昼を食べたくなったら、いつでも言ってね!」


という一言を残し、さっきの休み時間と同じように、白草は教室前方の自分の席へと戻っていった。

 しかし、今度は、自席の周りで待ち構えていた野中摩耶のなかまや石川奈々子いしかわななこと言ったクラスの女子たちと何やら談笑したあと、三人でこちらを振り向き、クスクスと笑い合っている。


(やめろ……非モテ男子は、女子のそういう態度に一番傷つくんだぞ……)


 オレは、内心で毒づきながら彼女たちから視線を反らせた。



 竜司と四葉のやり取りを見守っていた黄瀬壮馬は、


「なんだか、今年は新学期初日から色々なことが起こるね……じゃ、昼からの予定も決まったし、ボクはちょっと席を外すよ?」


と言って席を立ち、廊下に向かった。

 休み時間の間に、用を足しておこうと考えたのだが、教室から出ようとしたとき、彼を呼び止める生徒がいた。


「黄瀬くん、ちょっと良いですか?」


 その声に振り向くと、二人のクラスメートが立っていた。

 壮馬に掛けられた声の主は、天竹葵あまたけあおい

 ロングヘアーを三つ編みに束ね、メガネ姿が印象的な文芸部に所属する彼女は、壮馬と竜司の昨年度までのクラスメートにして、今年もクラス委員の仕事を引き受けた紅野アザミの一番の親友だ。

 そして、葵の傍らには、そのクラス委員が並んでいた。


「天竹さん……と、紅野さん? ボクに何か用?」


壮馬の返事に、


「はい」


と、小さな声ながらも、ハッキリとした口調で応える葵の隣で、アザミも、無言でゆっくりとうなずく。

 さらに、葵は、自席に戻って談笑を続けている四葉の方をチラリと一瞥したあと、


「廊下で話せますか?」


と、うながした。


「ああ、いいよ」


 壮馬がうなずくと、教室からは死角となる場所まで移動し、小柄な女子は、友人を横に見ながら、おもむろに切り出した。


「ノアが、『白草さんのことで、気になることがある』と言うんです」


 天竹葵は、親友である紅野アザミのことを小学生時代からのあだ名で、ノアと呼ぶ。


「気になること……?」


 疑問形で応じた壮馬の怪訝な表情を見ながら、アザミは、慎重な口調で語り始めた。


「私の気のせいかも知れないんだけど……一時間目のホームルームの時から、後ろの席の白草さんの視線が気になって……さっきの委員を決めるときも、なるべく意識しないでおこうと思ってたんだ……でも、何故か、その後も彼女にずっと見られているような気がして……私、なにか、白草さんの気に障ることをしちゃったのかな?」


 女子は、男子とは比較にならないくらい自分自身に向けられる視線に敏感であると言うが……白草四葉と初対面と言って良い壮馬には、彼女が、紅野アザミを気に掛ける理由について、皆目検討がつかない。


「う〜ん……天竹さんまで、ボクのところに来たってことは、『気のせいなんじゃない……?』なんて、気軽に言えるような感じでもなさそうだね?」


 壮馬は思案顔で彼女たちの懸念に同意すると、


「何か、ボクに出来ることはある?」


と、さわやかな笑顔で、優しく問い返す。

 すると、アザミは、ホッとしたような表情を見せ、葵も満足そうに落ち着いた顔色を取り戻して、要望を語る。


「もし、白草さんと話す機会があったら、それとなく、彼女が、本当にノアのことを気にしているのか? 気にしているのなら、その理由を探ってもらえませんか?」


「えらく、直接的で難易度の高そうなミッションだね……正直、成功するという確約はできないけど……」


 女子二名の高難度の要求に、苦笑しつつも、壮馬は快く応じる。


「まあ、ボクも少し興味のわく話しではあるし……ちょうど、今日はお昼から、竜司と白草さんと一緒に居ることになりそうだから、やれるだけのことは、やってみるよ」


 自分には、まったくメリットの無い話ではあるが、彼自身も、春休みにアップロードした例の動画によって、紅野アザミを間接的に巻き込んでしまったことに、後悔と罪悪感を覚えていた。


(これで、罪滅ぼしになるわけじゃないけど……)


そう自分に言い聞かせた壮馬は、


「そうだ! 交換条件という訳じゃないけど、ちょっと、この休み時間中に用を済ませておきたいから、もし、次の時間が始まっても、ボクが教室に戻ってなかったら、ユリちゃん先生に、上手く話しておいてくれない?」


と、クラス委員の女子に要望を出す。


「あっ、ゴメンね! 急いでいる時に、時間を取らせちゃって……」


謝罪の言葉を口にするアザミに、


「大丈夫だよ! じゃ、もしもの時は、ヨロシク!」


とだけ言い残して、壮馬は去って行った。


「黄瀬くんに相談して良かったね、ノア」


 葵が、つぶやくように言うと、アザミは、「うん……」と、はにかむようにうなずいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る