第1章〜学園一の美少女転校生が、休み時間の度に非モテのオレに話しかけて来る件w〜④
十分間の短い休み時間を挟み、担任教師のゆりちゃん先生が、教室に戻ってきたところで、二時間目のホームルームが開始される。
「はい、それでは、前期のクラス委員長から決めていこうと思うけど、誰か立候補するヒトはいませんか〜?」
クラス担任の一言に、教室内には、ささやくような声が漏れ出した。
「誰か立候補するヤツいるの?」
「こんな時に手を挙げにくいでしょ?」
「誰でも良いから、引き受けてくれないかな〜」
などなど……。
そんな中、座席の近い生徒同士での会話が、クラスに蔓延しかかった時、教室の前方から、教室の前方に、手を挙げて発言の許可を求める生徒が現れた。
「先生、ちょっとイイですか?」
「はい? なんですか、白草さん?」
唐突に挙手をした転入生に、やや驚きながら、クラス担任は、白草に発言の機会を与える。
「え〜と、わたしは転入して来たばかりで、学校やクラスのことでわからないことが多いので、出来れば、新学期のクラス委員は、去年からの仕事に慣れているヒトになってもらって、その上で、わからないことを色々と教えてもらえたら嬉しいな、って考えています」
発言の機会を与えられた彼女は、淡々と自分の意見を述べている。
「幸いなことに、紅野サンからは、『去年のクラスではクラス委員をしてたから、わからないことがあったら、何でも聞いてね』って言ってもらえたし……休み時間には、黒田クンも、わたしの意見に賛同してもらえたので……どうでしょうか? 一年生の時に、紅野さんと、もう一人、一緒に委員を務めてくれていたヒトが居れば、クラス委員をしてもらうというのは……?」
控えめな様子ながらも、キッチリと自身の考えるところを主張した教え子に、担任教師は、理解を示しつつ、生徒たちに問いかけた。
「白草さんから、こんな提案がされましたが、皆さんどうですか?」
自身にクラス委員という役職が降りかかることがないと確信した者、委員の選定が長引かないことに安心した者から、
「異議な〜し!」
「白草さんの意見に賛成で〜す」
と、声があがる。
しかし、その流れを看過できない理由がオレにはあった。
転入生の鶴の一声で、委員選定の大勢が決しようとする状況に異を唱える。
「ちょっと待て! それは、今年もオレにクラス委員になれ、と言うことか!?」
春休み前の一件で、心の傷が修復されていないオレには、紅野アザミとともにクラス委員の役を担うことに対して、やはり心理的抵抗があった。
だが、オレの異議申し立ては、白草の無垢を装った言葉に、アッサリと発言力を失う。
「あれ〜? 黒田クン、休み時間に、わたしが、『クラス委員は、去年からの仕事に慣れているヒトが就いてくれるといいな!』って言った時に、賛成してくれたんじゃなかったっけ? それとも、紅野さんと一緒にクラス委員の仕事を出来ない、何か特別な理由があるのかな?」
「竜司! 仕事に慣れてるヤツがクラス委員になるのがイイと思うぞ〜」
「そうそう、クラス全員で、ヨツバちゃんのことも考えてあげようよ?」
これが、同調圧力というやつか……。
クラスの圧倒的多数による声に心を折られたオレは、
「うっ……わかったよ……」
と、うめくように声を絞り出して、チカラなく席に着く。
「おやおや……自己紹介をしてから、一時間足らずで、すでにクラスの民意を掌握しつつあるよ……ヨツバちゃんのコミュ
自身に累が及ばないのを良いことに、壮馬は他人事のように、転入生に対する評価を下している。
「お前も、クラスのヤツらも、自分に関係ないと思って、好き勝手に言いやがって……」
自身の目の前で、余裕の笑みを浮かべている友人に、恨み節を吐く。
そんな教室後方の様子を気に留めることなく、教卓の前の担任は、形ばかりの意思確認を行った。
「紅野さん、黒田くん、二人とも前期のクラス委員を引き受けてくれる?」
「はい……私で良ければ……」
最前列の紅野の一言に続き、オレも返答する。
「わかりました。やりますよ……」
オレたち二人の回答に、担任教師は安堵の笑みを浮かべていた。
「そう! ありがとう」
一部の生徒の不満をのぞき、難航することも予想されたクラス委員の選定が思いのほか、スムーズに進行したことに気を良くした彼女は続けて、オレたち二人の生徒に向かって声を掛ける。
「じゃあ、紅野さんと黒田くん、あとの司会進行はお願いね」
どうやら、生徒の自主性を尊重するという《錦の御旗》を得たと判断して、二名の新クラス委員に、この時間のホームルームの運営を丸投げ……もとい、委任することにした彼女は、監督役に徹することを決めたようだ。
教室の後方に移動した担任教師からのご指名に、しぶしぶ腰をあげたオレは、重たい足取りで教卓の方へと向かう。
あらためて、新年度もクラス委員を務めることになったパートナーに目を向けると、春休み前と変わらない姿が、そこにはあった。
束感のあるバングに、ほんのりとレイヤーが入ったナチュラルボブのヘアスタイルで、前髪から流れるサイドバングが内巻きにカールし、彼女の小さな顔が、よりコンパクトに見える。
さきに、教室の前方にたどり着き、クラスメートたち向き合っている紅野アザミに、一言、
「何か……こんなことになってゴメンな……」
と、謝罪する。
そんな彼の言葉を意外に感じたのか、アザミは少し驚いた表情を見せたあと、
「ううん……黒田くんのせいじゃないし! 今年もヨロシクね」
と、柔らかな笑顔で返した。
穏やかな口調に安心したオレは、その表情と言葉だけで、黒い雲に覆われていた感情が晴れていく。
我ながら、あまりに単純だとは思うが、紅野の優しい笑顔と性格は、オレの気持ちを癒やしてくれる。
(せっかくの機会だ……去年と同じように、前向きにこの役目に取り組まないと……)
そう考え直して、クラスメートに向き合う姿勢を取ることにした。
その瞬間、空席になっている紅野の後方に位置する白草四葉と視線が重なる。
オレと目が合うなり、四葉は、ニヤリと不敵とも言えるような笑みを見せたあと、
「がんばってね、黒田クン!」
と、声を掛けてきた。
その表情に、一瞬、背中が凍りつくような悪寒を覚えたのだが、転入生の笑顔は、次の瞬間には、ニコニコと朗らかなモノに変わっている。
(いや、ただの見間違いか……)
オレは、一瞬だけ感じた胸のざわつきを振り払い、隣に立つ紅野とともに、他の委員の選定を進めることにした。
ともに、この仕事に慣れていることもあり、二年A組の各委員は順調に決定する。
ホームルームを終えて、休み時間になると、前年度に続いて学内外への広報活動を担う、広報委員を務めることになった壮馬は、上機嫌で、
「委員会も決まったし、今年も楽しい学園生活が送れそうだね」
と、進行役の仕事を終えて席に戻ってきた竜司に同意を求める。
(コイツは、オレの気も知らずに……)
言葉に出さず、冷たい視線を送ると、
「大丈夫! 竜司の気持ちは、わかってるって! 紅野さんとクラス委員の仕事をするのが、気まずいんだよね!?」
いたずらっぽく笑いながら、小声で話しかける。
「わかってるなら、なおさら問題だわ!!」
手刀を切って、ツッコミを入れる竜司に、悪びれることなく笑顔を向ける壮馬。
そんなオレたちの元に、再び、転入生が訪問してきた。
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