愛の色を重ねて

「おはよ」


 最近、君は体調を崩すようになってきて。君と話せないことも多くなった。君から連絡が届かないことも多くなった。会えない日も多くなって。僕の生活は色あせてきた。髪は寝癖が付いたままで、髭は適当に手入れして。顔を適当に洗って。適当に通学路を歩く。

 視界に映る色が、薄くなっている気がして。空の色は白かったっけ。道路は白かったっけ。車は白かったっけ。君がいないだけで、世界は白くなるものなのか?


「おはよ」


 待ち合わせ場所に、君はいない。僕の声は、空に昇る。声を追って青空を見上げて思う。

 空は青かったはずだ。道路は灰色だったり黒かったはず。車はもっとカラフルだったはず。世界はこんなにも白かっただろうか。君がいた時は、鮮やかな色が世界を彩っていた。まるで、線だけのキャンバスの様で。モノクロテレビの様で。僕の世界から君という色が抜け落ちてしまって。


 空の雲は、動いているか?

 車は、動いているか?

 世界は今、動いているのか?


 君に会う前は、もちろん一人でいた。世界には色があった。なのに、君がいないだけで。つまらない。楽しくない。君の声も、手の感触も。思い出せない。僕の隣に、本当に君はいたんだろうか。僕の愛した君は本当にいたんだろうか。君を本当に、愛していたのか。


「大丈夫?」


 君からの返信は帰ってこない。でも履歴だけは残っている。そこに君がいた証拠があって。君が幻ではないことを証明してる。世界に色が少しだけ戻ってきた気がして。空は薄い青だった。道は薄い灰色だった。車は薄い赤だった。でも君がいた時に見た景色とは同じじゃなくて。早く君に会いたい、君がいない世界はこんなにも白い。白い世界は寂しい。君がいないと寂しい。それを実感した。君がいた時には理解できなかった感覚。失って初めて気が付いた感覚。いつも君が側にいた、いつもが新鮮だった。いつもが楽しかった。世界は色づいていて、綺麗で。


「頑張るよ」


 分かれ道に君はいない。君がいなくても、頑張れる。頑張るよ。一人の時から頑張ってたんだ。一人でいるくらい慣れてる。だけど可能なら、そばには君がいてほしい。僕の隣には君がいてほしい。僕の隣にいていいのは君だけだ。他の誰かじゃなくて、君がいい。だから、早く隣に帰ってきてほしい。

 あぁ、君は寂しくないだろうか。君はどんな気持ちだろうか。寂しいと思ってくれると嬉しいけど。君はどう思ってくれているんだろうか。会いたいと思ってくれてるんだろうか。


「好きだよ」


 言葉だけを残して、分かれ道を進む。振り返っても、君はいない。君の背中は見えない。君は視界の中にいない。


 腕時計の秒針は『    』と音を立てて、歯車は時間を世界に記録することは無かった。


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