君は何処か
「おはよ」
「はよ」
いつものように君からスマホに連絡が届く。だけどなんだか元気がない。そう思った。もちろんスマホの画面に映った文字だけで見るとそう思えるだけで。本当か分からないけど。僕は心配になる、君は大丈夫だろうか。早く会いたい。
最低限の身だしなみを整えて、家を出る。駆け足で待ち合わせ場所に向かう。君はいつ来るのだろうかと、心配でそわそわしながら待つのは辛い。学校で何かがあったのかはわかっている。だって戦場だから。僕だって傷つくことはある。
もし精神的なものなら、君といれば癒される。だから僕は戦える。君がいるから戦える。君もそうだと、僕は知っているから。君のために何ができるだろうかと悩む。
一緒にいればいいんだろうか、それとも話せばいいのか。君は何をしたら喜んでくれるんだろうか。そうやって考えていると、君はやってきた。
「おはよ」
「ん……」
やっぱり君はおかしかった。目の前に君がいるのに、君は僕のことを見ていないようで。僕は君と話しているはずなのに、君は僕と話していないようで。僕は怖くなった。
「大丈夫?」
「ん……」
目線が地面に奪われていて、君は大丈夫じゃなかった。僕は君に触れていいのかもわからなくて。それでも僕は君に触れた。
「あれ、おはよ」
僕が目の前にいることに驚いて、いつものように笑った君の笑顔は虚しくて。太陽のような君の笑顔が、光を失って。自分の心すらも、偽りの言葉で押さえつけて。動かない体を、無意識の糸で操って。君の身体は目の前にいるのに。君の心がここではない、別の場所にいるようで。僕は悲しかった。
「ねぇ、大丈夫。学校で何かあったの?」
「何もないよ。何もない」
何もない、なんて嘘で。君は何かを僕に隠していて。君が僕に隠し事するのが悲しくて。でも、僕も君に隠し事をすることがあるし。君は僕に大事な何かを隠している。それがわかるのに僕は何もできやしない。君が話してくれるように、誘導だってできない。僕は弱い。
「話せないこと、なの?」
「ごめん。でも大丈夫だから。うちを信じてほしいんさ」
「信じる、信じるよ。だって好きだから。好きだから信じるよ」
「ありがと」
君の瞳は、僕を映していなくて。君の声は地面に吸い込まれて。君の心は、霞に消えていきそうで。僕の好きは、風に流されて。
僕は君が好きだ。好きだから、君に何かがあると心配だ。だけど僕は、心配しかできなくて。心配が募るだけで、解消はされない。
今ここで、無理やりにでも君を抱きしめたら。君の心は前を向くだろうか、それとも下を向いたままだろうか。君が昔、僕にしてくれたように。僕も君を助けたい。悩みを聞いて、励まして。支えて、抱きしめて。君に笑ってほしい
なのに僕は今、君に触れることすらもできないでいる。君の大丈夫って言葉を信じて、君の望む言葉をいって。僕には君と同じことができない。僕には、君のような勇気がない。だから結局、僕は君を変えられない。君を助けられない。僕は、弱い。
「頑張って。愛してる」
「愛してる、うちも」
分かれ道で、君を見送る。その背中に、死神が見えた気がして。目をこすると、変わらない君がいた。明日も君に会いたい。ずっと君と一緒にいたい。ずっと君を愛するよ。
腕時計の秒針は『カチッカチッ』と音を立てて、歯車が時間を世界に残した。
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