問、そこに愛はありますか~あなたなら愛せますか?~
幽美 有明
愛しい人
「おはよう」
「おはよ」
スマホの画面が映す、君からの挨拶。それを見ただけで、嬉しくなる。ただの文字列が、まるで君が目の前にいるように。声として脳内で再生される。電話をしているわけではないのに、君の声が響く。何度も君の声を聞いたから、文字を見ただけで君の声が蘇ってくる。なんて君には言わないけれど。恥ずかしいから。
「またいつものところで待ち合わせ?」
「うん、一緒に学校行こうよ。手をつないで」
「わかった、遅れないでよ?」
「わかってるよ」
今日も待ち合わせをして一緒に学校にいく。通いなれた通学路も、君と一緒なら楽しくなる。どうでもいい日常も、君がいれば大切な日になる。平日は記念日になり、休日は最高の日になる。君の前では言わないけれど。
制服を着て、髪型を整える。誰に見られるわけでもないから、そう思っていたけれど。君と言う愛しい人ができたから、気にするようになった。どんな髪型が好きだろう。制服は着崩れをしていた方がいいのかな、それとも乱れがない方がいいんだろうか。肌はやっぱり綺麗な方がいいかな。洗顔の種類は何がいいのだろう。そうだ、髭を剃っておかなきゃ。でも髭のザラザラする感触も好きって言っていたし。君を好きになる前より、今は多くの時間を洗面台の前で過ごすようになった。君のおかげでとも言えるし、君のせいでとも言えるし。不思議だよね。
「おはよ、今日も可愛いね」
「褒めたって、何にも出ないよ」
なんてことはない様子に装っていても、君は内心で喜んでいるのを知っている。気持ちを隠してるのを知っている。恥ずかしいからと隠しているっていうのも。なんだか僕らは似ていると思って嬉しくなってついつい笑うと。
「何がおかしいんさ?」
君は笑われた仕返しに、僕の傍に近寄ってくるからドキドキする。目の前に君がいるだけで、嬉しくて。好きって感情が大きくなって。手に触れてみたり、髪を撫でてみたり。抱きしめたり、キスをしたくなる。君ならいいよって言ってくれそうだけれど、我慢しないといけないから。それでも君の目を見つめるくらいは許してほしい。君を瞳の中に閉じ込めさせてほしい。
「君が好きだなって」
「うちもお前さんが好きさ」
互いの気持ちを確かめ合って、手をつなぐ。柔らかい手の感触が、好きだ。もっちりとした肌が、硬い僕の手を包み込んで。絡めた指は離れることがないように、力がこもる。
「今日も頑張らなきゃ」
「うちもやよ」
「頑張って」
「お前さんもな」
互いが互いを鼓舞しあって歩き出す。僕たちの学校は別々で、昼間の間は一緒に居られない。それに、僕たちにとって学校は戦場だ。学校に勉強しに行くんじゃない。戦いに行く。目に見えない戦争。言葉の戦争。見えない凶器を手にして、明日を生きるために戦う。僕たちは歪で、弱いから。
「じゃあ、また帰りに」
「また帰りにな、お前さん」
君の後姿を何度も見た。明日また君を見られるようにって、願いながら。
腕時計の秒針は『カチカチ』と音を立てて、歯車が時間を世界に刻んだ。
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