トゥギャザーフォーエバー。@柏木裕介

「クッ! 離れろぉッ!!」



 その言葉でぐいと華を引き剥がした!


 力強すぎだろ! くそっ! 体鍛えてきたのに! じゃない! 家に入らないと! 早く寝ないと! この悪夢が終わらない!



「逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ」



 なんか聞いたことのある中二のようなセリフを唱えながらようやくの思いで扉を開け玄関に飛び込む! が、背中にピタリとついてきた?!


 柔か?! いや違う! いい香り…! 違う! 違う違う! 怖い!! 怖いんだよッ!


 つーかこいつ、こんなに素早かったか?! 


 そういや素早かったな!!


 才能のある奴はこれだから!


 って鍵閉めるの早ぁ!? 一切見てないのに流れるように後手でチェーンまで!? 凄腕エージェントかよッ!?



「いっだぁっ!?」



 注目しながら靴を脱ごうとしてこけてしまった!


 誰もいない僕の家の廊下に、思ってるよりも大きな音が響いた! 下の階の人すみません!


 そして振り返れば華がいる!


 しかも玄関でコートをファサッと脱いで綺麗に畳んで現れた衣服というか拘束具から今にも解き放たれそうなそこには不吉にもトゥギャザーフォーエバーの文字が掠れて踊っていた!


 あん? なんか…見たことあるような…しかし、その文字があの頃追い求めていた理想的な曲線の上で歪曲して描かれてい──って違う!


 知らずにごくりと喉が鳴る! 違う!


 僕は何考えてんだ!



「何鍵してんだよ! 出てけよ!」


「違うのっ、違うの裕くん! 聞いてっ! 違うの!」


「そういうの言うんじゃねーよ!」



 古傷になんか刺さるだろ!



「さっき惨めって言ったよね? でもでもそれって、わたしを今も変わらず愛してくれてるから、だよね…?」


「そ! んなわけ…ない、だろッ…!」



 お前を忘れるために記憶の扉に蓋をして!


 風の強い日を選んで走ってきたんだ!


 そんなこと認められるわけがない!

 

 あん? だが…? お前が幸せじゃないことも認められない気持ちもあるし……? 当時の虜にされていた気持ちが溢れ出ようと心臓を叩いてくる…? 


 なんて嘘だろ?!


 どうなってんだよ!?


 僕は本当に…華をまだ…?


 つーかでもの使い方おかしいからな!



「あ、お、おい、待て華、何故に靴を脱いだ!? ほんと何なんだ! 上げるとは言ってないだろ!」


「実はわたし、華じゃないの」


「…何…?」


「ν華なの。伊達じゃないの、わたし。キュピ──ン」


「揶揄ってんだな!! その眼鏡ウェアラブルでも仕込んでんのか! そうか、あいつに言われたんだろ! 馬鹿にしてこいって──」


「──裕くん」


「ッッ?!」


「そんな話じゃないの」



 こっわ…何だこのプレッシャーは…!? ガタガタ震えてくるぞ…!? 殺し屋か? ふざけやがって、くそっ!



「じゃ、じゃあ何の話だよ!」



 というか何で睨むんだよ!


 なんで睨まれなきゃなんないんだよ!!


 すると華は眼鏡を外し、そっと微笑んだ。



「卵が先で、鶏も先なの、裕くん」


「ほんと何の話だッ?!」



 ちゃんと伝える努力しろやこらぁぁ!!


 デザイン舐めてんのかぁぁあああ!!



「ふふ。話を戻すとね、つまりね、傘立てなんてなくてもね、一本の線がアソコにあれば、人は傘の先っぽのような硬ぁいモノを当てがいたくなるものなの」


「なんでもっかい微妙に違うこと言った!?」


「そして恵みの雨は降り(意訳)やがて星に届いて(意訳)、十月十日後の、そうあの夏の日には満天夜空に月と虹が出るの(意訳)それはもう綺麗で素敵で約束された愛の架け橋(意訳)」


「聞けよ!」



 何だそのポエムは!


 あと何だその意訳塗れは!


 それにあの夏の話はすんじゃねーよ!


 すると華はマフラーを僕の首にかけてきた。


 いつの間に出したんだ…? というかどこにあった…? もしかしてこいつ一人だけレベルアップする件か!? ああ、トランクか…っていつの間に入れたんだ?!


 しかし、このマフラー…これは…どこかで…?



「…虹色…? …これは…」


「あの夜にあげ損なった──私の想い」



 華はそう言って、顔を逸らしてまるで苦虫を噛み潰したかのような顔をした。



「ッ…! お、お前ッ…! そんな顔したいのは僕だろッ!! それにお前の…お前のそんな顔は…!」



 見たく…ないんだよ…。


 それにそれは言うんじゃねぇよ! 言うんじゃ…ねぇよ…! こんなマフラーなんて……あの時と同じで! こんな金木犀の匂いに! 涙なんて溢してなんかやらねぇよって、なんか変な匂いしてないかコレ?!



「ふふ。例えばマウスはね、交配嗜好の違いを選別する際に体臭を手掛かりにしたりするものなの」


「たっ!? だから何の話してんだッ!?」



 身体がムズムズする!?


 なんかこれあかーん!!



「つまりこのマフラーはね、どの時空の裕くんにも会いにいけるという美味しい鍵なのっ!!」


「さっきから全然つまれてないからなっ! それに時空だなんて頭イカれてんのか!」



 あと美味しい鍵ってなんだその言い方!



「ふふ。そうだよ。わたしはずっと裕くんにイカれてる。でも裕くんもそういう風にしたから、わたし」


「何をだよ!」


「裕くんを、デザインしたから、わたし」



 そう言った次の瞬間、華はかっこいい動作をキメて、指をパチンと三度鳴らした。

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そうして僕はデザインされた。 墨色 @Barmoral

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