第6話 告白

試合当日、俺はいつになく緊張していた。

こんな事は初めてだ。なのに、なぜなんだ?

勘弁してくれよ。

あれだけ内緒にしてたのに。

「快ー!頑張れー!」瞬、萌、凛さんまで揃って応援に来ていた。どこから漏れたんだ?

「快。お前、凄い派手な応援来てるな。」と仲間に言われ、俺は恥ずかしくて頭を抱えながら「目立ってるよな?」と言うと、

「ああ、かなりの美男美女揃いでオーラ半端ない。」と笑われた。


カッコ悪いところを、凛さんには見られたくなかったのに。


そう思っていたが、久々の試合。

ピピーー。ホイッスルが鳴った。

始まってしまえば、そんな事考えている暇もなかった。

俺以外は現役の選手で、どちらのチームもかなりの実力派揃いだった。

俺は、久しぶりの試合に感覚が鈍っていた。前半戦俺は、焦るあまり、いつのまにかボールに振り回されていた。相手のゴールが2回も決まってしまった。


「快さん!俺らが走るんで、ともかく繋いでください。」

「オッケィー。」

腕で汗を拭いながら、頭をフル回転させた。

仲間のアドバイスに段々と頭がクリアになってきた。そうだ。走るのは速い奴に任せて、とりあえずゴールまでボールを繋ぐんだ。


相手のゴール前に、それぞれの選手が集中した。即座に、相手チームに囲まれた仲間から、サイドにスライドされたボールをキャッチ、後ろからすり抜けてきたシューターが目に入った。今だ!アシストが見事に決まった。

「わあーーーーー。」歓声が上がった。

「よっしゃー!」みんなで、背中を叩き合い、誉めあった。

「この調子で、どんどん決めていくぞ。」キャプテンの一声に、

「おー!」気持ちが盛り上がってきた。


後半戦、試合感覚を取り戻した俺は、パスを繋ぎ、同点に持ち込んだ。しかし、メンバーがギリギリで、選手交代が出来ない。みんなの顔に疲労の色が見られる。

あと1ゴール決まれば…。

そこから、なかなか試合が動かず、残すところあと1分と言うところで、俺にボールがパスされた。あと、30秒。もう時間がない!ゴールまで、50メートルはあるか?!どうする?

俺は、ありったけの力でキックした!

ボールが鈍い音を立て、スローモーションのように、ゴールへ向かって弧を描いた。

「決まってくれー。」


ピピーーー。

試合終了。

「わあーー!」 

歓声が上がった。

試合は同点に終わった。


ハアハアハアハア

俺はすっかり息が上がってしまっていた。

本来なら、ここでシュートが決まってくれたら、良かったのに。

やっぱり俺らしいのか、見事に外してしまった。悔しい。落ち込む俺とは反対に、

「ありがとう。」

「お疲れさま。」とメンバーから次々と声をかけられ、背中を叩かれた。

「快が出てくれなかったら、棄権してた。でも、次の試合に繋げられた。ホントにありがとう。」とキャプテンにハグされた。

「俺…またサッカーやりたい。みんなと勝ちに行きたい。」と考えるより先に、自然と言葉が出ていた。

「大歓迎だよ!」いつのまにか、俺の周りにみんなが集まっていた。肩を叩かれ、俺は男泣きしてしまった。


試合が終わり、グラウンドを後にすると、会社のマイクロバスから少し離れたところに、凛さんの車が止まっていた。


俺は仲間に少し待ってくれと声をかけると、すぐに凛さんの車に駆け寄った。凛さんは車から降りてきて、

「お疲れさま。」と、満面の笑みを浮かべた。

「来てくれて、ありがとう。」

素直にそう言えた。

「カッコよかったよ。」

「そんなわけないよ。決めなきゃいけない時に決められなくてカッコ悪…」と言いかけた口が、凛さんの手で塞がれた。

「結果じゃないわ。ここまで努力した快がすごいのよ。」

俺は苦笑いで応えた。その後、言葉が続かず、しばらく沈黙が流れた。

今だ!今なら言える気がする…ごくんと喉を鳴らし唾を飲み込んだ。

「凛さん!」

俺が一段と大きい声で呼んだので、凛さんが少し驚いた顔をした。

「俺、凛さんのおかげで、自分を取り戻せたんだ。俺はこれからの人生、自分のために生きることにした。だから、サッカーも自分のために再開することにした。」

「そう。よかった。でも、私は何もしてないわ。」

「いや、凛さんの生き方そのものが、俺に気づかせてくれたんだ。自分の人生。舵取りは自分でやらなきゃいけないって。それをやってのけてきた凛さんはめちゃくちゃカッコいいよ。」

「ありがと。」凛さんは言葉少なに、俺の話に耳を傾けていてくれた。

大会直後の高揚感で勢いに乗って喋り出したものの、言いたいことが空回りしていた。凛さんもそれがわかってるようで、黙ったまま俺のセリフを待ってくれていた。俺は深呼吸すると、

「俺には、凛さんが必要なんだ。俺のために…凛さんにそばにいて欲しい。好きだ…大好きだ…」噛み締めるように気持ちを伝えた。

拳を握りしめ、立ち尽くしていた俺の首に、するりと凛さんの手が伸びてきた。一瞬だった。俺に飛びつくように抱きついてくると、

「私も馬鹿正直な快が大好きよ。」

と、耳元で囁いた。

俺はすぐには信じられず、固まっていた。

しかし、俺の体に凛さんの温もりが伝わってきて、そっと抱きしめると、凛さんがより一層ギュッと俺を抱きしめてくれた。

実感が湧いてくると、嬉しさが込み上げてきて、強引に凛さんの唇を奪った。


途端に、「ヒューヒューヒュー」と声が飛んできた。

バスの車内から、窓を開け覗き込んでいたメンバーたちが拍手や冷やかしの声を上げた。

「快ー、もう帰ってこなくていいぞー。」

とキャプテンが言うと、ドッと笑いが起こっていた。

「じゃあまたなー。」と言って、俺を置いて、マイクロバスが出発してしまった。

「え?俺も行くよー。」と慌てて、走って追いかけたが、あっという間にバスは行ってしまった。

みんなが笑顔で車内から手を振っているのが見えた。


取り残された俺は、

「置いてかれた。凛さん、送って。」

とポツリと言うと、

「ホント!カッコ悪!」と凛さんが言って、2人で大爆笑した。


後日、会社では破談の小林から、一転熱愛中と言う噂に変わっていた。


完結

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ふたりのわたし Another story カナエ @isuz

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