そんな日の日常

Rod-ルーズ

第1話 地元酒

「お、久しぶりじゃ~ん!元気してた?10年も経つと変わるもんだね~」


駅で待ち合わせをして待っていると、声を掛けられた。

明るい茶色に染められたロングヘアー、バイト終わりと言っていた為か白のパーカーに黒スキニーという恰好だった。


彼女の名前は錦野(にしきの)愛 

小学校からの幼馴染であり、彼女は今年で27歳を迎えていた。高校生になってから互いに話す時間も無くなり顔を合わす時もなくなったので時間としては10年も経過していた。


「まさか、たっくんにDMを貰うとは。通知来たときはびっくりしたけど久しぶりに会えてうれしいよ!」


たっくんと呼ばれる俺の名前は九重(ここのえ)巧

彼女の2つ歳下で25歳の雑誌などを携わる業界に入った3年目サラリーマンである。

普段は少し離れた場所で一人暮らしをしており、あまり実家には帰ってはいなかった。


そんなある日、たまたま重なった連休ともあり実家に帰省しようと考えた夜、ふと立ち上げたsnsで彼女が横行をしていたのが今回のきっかけだ。

久しぶりに帰ってきた地元には、変わった街並み・雰囲気、と懐かしさと寂しさを感じつつあった。

そんな中で、彼女自身も見た目だけだが少し変わっており大人と言えば少し幼いが、それでも肉のつき具合をみると、キチンと大人のなったのだと実感できる。


「久しぶり。愛さんも結構変わったね、前までは黒髪だったし制服姿だったからさ」


「確かに!それじゃ行こっか、飲み屋この辺りにあるし。私、この辺りの飲み屋によく行くからお店知ってるんだ」


「それじゃあ、お任せするわ」


⭐︎⭐︎⭐︎


「「それじゃあ乾杯〜」」


適当な居酒屋に立ち寄ってまずは互いにお酒を注文。

10年前はジュースだったのに今ではアルコールという事を考えると自分達の年齢を痛感してしまう。


「いや〜、仕事終わりのお酒は格別だね!たっくんは今日は仕事だったの?」


「いや、休み。今一人暮らしなんだけど実家から少し遠くてね」


「そっか〜同じじゃん、私も一人暮らし。まぁ近いんだけどね、ほら知ってる?隣駅の…」


見た目は変わっていたとしても話し方は当時となんも変わらない。このお喋りな感じも昔から変わらないので、話していて当時のことを思い出してしまう。


「〜でさ、、、どうしたの?」


「いや、昔のことを思い出して。愛さんは全然変わらないなぁ〜なんて思ってさ」


そういうと少し気まずい雰囲気が立ち上った。まずい、何か気に触ることを言ってしまったか。

彼女はハイボールが入ったグラスをじっと眺めて呟き始めた。


「私は、結構変わったかな~今だってこの年齢なのにフリーターで生活しているんだもん。定職だってついていないのに、フワフワ過ごしていたらいつの間にかこの年齢になっちゃった」


「私ね、一応大学を卒業してさ。たっくんと同じ社会人を経験をしたんだよ~」


えらいでしょ、なんて言いながらハイボールを飲み込んでいく。グラスを置いた時には、もう既に空の状態だったので改めて新しいものを頼む。


「でもさ、やりたいことじゃなかったんだ。スーツを着て毎日同じ電車に乗って、変わらないことをやっていく。それが少し合わなくてさ。辞めちゃったんだ、3年ぐらいやってね」


「それなりにやったんだけどな~、そんで今はやりたいこと探しに奔走中って感じなのよ」


フリーターか・・・

俺自身も辛いときもあった、自分自身この仕事は合わないのではないかと思って鞄の中に退職願を潜ませていつでも出せる状態で仕事をしていた時だってあった。

「やりたい事」なんてものは、当時あったのだろうか。いや、きっとその言葉を盾に今の場所から辞めたかったのだろう。

俺は自由ではなく安定をとった。自由の道を選んだ彼女を否定するつもりはない、ただ自分が天秤にかけた二択のもう一つの選択がこの姿であったのだろうか、と考えてしまう。


「たっくんは凄いよ、ほんと。私には真似できないかな」


「そんなすごいことでもないよ、ただ思考停止していただけ…俺はも何か見つけないとな~」


「それじゃあ私たち同じだね、互いに夢を追う人同士って感じで!」


「ホント昔から変わらないな、愛さんは」


そういって何杯目かもわからないグラスを持ち、乾杯をした。久しぶりに飲んだお酒は今までの人生で一番のおいしさだっただろう。


☆☆☆


「それじゃあね、たっくん。お仕事頑張るんだよ~」


「私はそれなりにやっていくからさ」


そういって信号を渡っていき後ろ姿が見えなくなるまで、俺は彼女を見送った。


もう忘れたようとした。けれどあの時の思いはまだかすかに残っていたのだろう。


もう会うことはないであろう幼馴染とは逆方向へと歩き出す、深夜0時を回った外の寒さになぜか寂しさを感じた

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