第10話

4/13 (木)


ロッカー式の下駄箱を開けると、ピンク色の手紙が入っていた。

気になって手紙をとろうとするが、その直前で手紙があることに疑問が沸き、何をとらずにロッカーを勢いよく閉めた。

冷静に考えて、手紙があることがおかしいと結空は思った。

不登校になる前に半年ほど小学校に通っていたことがあったが、その時はこんなことはなかった。

誰かのいたずらだと思い、周囲を確認する。

柳井どころかクラスメイトすらいなかったが、勢いよく閉めたことで視線が集まっていた。

手紙を取りづらくなってしまったので、靴だけを素早くとり、教室に向かった。


教室についてから『ロッカー 手紙』とスマホで検索をする。

商品ページが出たりした中で知恵袋にラブレターに関する記事がでてきた。

さっきの手紙はラブレターだったことに気づくと、内容が気になってきた。

それと同時にラブレターなんて送ってくる人が想像できなかった。

始業式が始まってから話した女子は鬼憑きの黒坂と学級委員長の春名さんだけで、その2人が送ってくるのは考えられなかった。


ホームルームが終わり、10分間の中休みに再び下駄箱を確認すると、手紙はしっかりと残っていた。

手紙をとり、人気のない別館のトイレの個室に入る。

駆け足でとりにいっただけなのに心拍数は全力疾走したぐらいまで上がっていた。

落ち着いて深呼吸してから手紙を確認する。


『加賀智君へ

 大事なお話があります。

 今日の16時に旧校舎3階の空き教室に来てください。』


丸い字で女子だということが分かったが、名前が書いておらず誰かわからなかった。

結空の中前も書いてあるので間違いということもない。

結空のドラマやアニメで得た知識から人気のないところに手紙で呼び出すのはほぼラブレターで間違いないだろう。

結空には友達はいないし、気軽に話しかけてくる相手で思い浮かぶのは柳井だけだ。

あいつのいたずらとは考えたくなかった。

話の流れでいじることはあっても手紙を送るような陰湿ないたずらはしてこないはずだからだ。

結論が出ないまま手紙を制服のポケットにしまい、トイレを出た。


手紙の送り主が誰かわからないまま昼休みを迎えた。

結空の持っている情報から送り主を特定するのは無理だった。

学校にいる相手に相談することも考えたが、相談相手がいないのと匿名で送ってきた相手としてはラブレターの話が広まるのが嫌なんじゃないかと思ったのでやめた。

学校外にいる相手ではネトゲで仲良くなった友人がいるが学生と言っておらず、今までリアルの話をほとんどしてこなかったから無理だった。

いつものように図書館で本を開くが、頭の中をラブレターのことが駆け巡っているせいで頭に全く入ってこなかった。

深く溜息をついてから本を閉じ、図書館を出た。

晴れており、あたたかな陽気だったので気晴らしに外を散歩することにした。

学校の中庭には外で昼食をとる生徒がちらほらいた。中には男女2人組でデートのように食べていた。

もしラブレターだとして付き合うことになったら白昼堂々といちゃいちゃできるかどうか考えたが、まぁ無理だ。

目的もなくほっつき歩いていると、中庭から校舎裏の人気のないところに向かう木島先生の姿があった。

遠くかつ後ろ姿だったが、角があるおかげで木島先生だとすぐにわかった。

気になって後をつけてみると、何かを探している要素だった。


「こんにちは」

「……あら、加賀智君。こんなところでどうしたの?」

「気分転換で散歩してたら先生の姿を見かけたので」

「そう。私も気分展開してたところよ」


気分転換でこんなところに来るわけがなかった。


「そうなんですか。こんな日陰のじめじめしたところに?」

「……文句でも言いたげね」

「明らかに嘘ついてる様子だったので」


木島先生は一瞬だけムッとした表情をするがすぐに戻した。


「あなたも嘘ついてる癖によく言うわ」

「血筋のことなら嘘ではなく隠し事では?」

「鬼憑きでないと嘘ついてるのだから一緒でしょ」


木島先生は堂々と鬼憑きということを口にしたことに少し驚いた。


「たしかにそうですね。で、何してるんですか?」

「あなたには言えないことよ」

「わかりました」


余計に怪しさが増すが、特に触れることはなかった。


「そういえば、彼女から相談あった?」

「彼女って、黒坂のことです?」

「もちろん」


直近で黒坂と話したのは火曜日の日本史の授業で移動するときに話したときぐらいだった。

それにつられて、火曜日に黒坂が木島先生に呼び出されたのも思い出した。


「……何にもないですが」

「彼女から話があったらちゃんと聞くのね」

「わかりました。じゃあ俺はこれで」


木島先生の言葉から何を話したか大体想像がついた。

言ったことに対する怒りはなかった。隠すことを強制はしていなかったが、これからどうしようかと思った。

あのラブレターも黒坂からじゃないかと思えてきたが、黒坂があんな女子っぽい字を書けるとは思えなかったので候補から外した。


次の授業までまだ10分以上残っているが、散歩する気分でもなかったので今日は教室に早めに戻った。


「今日なんかあった?」

「なんだよ急に」


席に着くや否や柳井が声かけてきた。


「いつもより考え込んでる気がしたから」

「……そうか?」


思ったより表情に出るのかと結空は思った。

それとも早く戻ってきたことに対してだろうか。


「うん。それに、いつもより昼休み戻ってくるの早いし」


どうやら両方だったみたいだ。

柳井が人気の理由が何となくわかる瞬間だった。


「……まぁちょっと嫌なことがあったぐらいだよ」

「あまり根詰めすぎないほうがいいよー。そんな顔されるとイジり甲斐ないし」

「お前は一言余計なんだよな」


ちらっと黒坂を見ると目があってしまい、すぐに視線をずらした。

このタイミングで見てるってことはやっぱり黒坂と木島先生と何かあると思えてしまった。


放課後になり、鞄を持ったまま、教室を出た。

16時までは少し時間があった。

小腹が空いた程度だが、購買に行ってパンとジュースを買った。

近くにあるテーブルで座って静かに食べる。

こんな時間に一人で何か食べている人間なんて結空しかいないが、過去のぼっち飯の経験から周りを気にせず行儀よくしていれば何も起こらないので無心になってパンを食べた。


指定場所に行く前に手紙の内容を確認する。

何度見ても黒坂の書いた文字とは思えなかった。

それに加えて公安という立場や彼女の性格からこんな面倒くさいことをする姿が想像できないというのもあった。

どの道行けば答えがでる。

手紙をしまい、ゆっくりと席を立つ。

入学式以上に期待と不安に胸を膨らませながら、呼び出された場所に向かった。

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渡る世間に鬼話 木ノ木火 @kinokibi

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