お月見〜森と紅葉の場合〜
橘スミレ
第一話
ポートマフィアの最上階、首領執務室を月明かりが照らしている。その窓際にある机の上には徳利とお猪口が準備されている。
「鴎外殿は居るか?」
ノックの後に聞こえる声。
「いるよ。いらっしゃい、紅葉君」
答えるのは首領、森鴎外。椅子に座ったまま、扉の方を向いて答えた。其処から来たのは、紅蓮の髪を簪でまとめた、赤い着物の女性、ポートマフィアの五大幹部の一人、尾崎紅葉だ。
「ちゃんと用意はしとるのか?」
「勿論だよ」
紅葉は隣の椅子に座ると持っていた紙袋に丁寧な動作で手を入れる。
「団子じゃ。今日は十五夜だからの」
「何時もありがとうね。其れでは始めようか」
「「何方が可愛い選手権in十五夜」」
十五夜の月見の日、世界一不思議な光景が出来上がった。
先手は森だ。外套から一枚の写真を取り出す。
「此れは…!」
紅葉がショックと呆れとをかき混ぜた声を上げる。写真には、バニーの姿のエリスがいた。
「バニーという色気、金髪二つに結ぶことによる可愛らしさ。何より此の海外の血が入っているような容姿、其れによりバニー姿がとても似合っておる。愛おしいな」
だが、と続けようとする紅葉を遮り森が話し出す。
「そうでしょう?此れはね、私が本当に苦労して撮った一枚なのだよ。ケーキ五つ、一週間他の洋服を着ないという条件で漸く着てくれたんだ」
紅葉が完全に呆れた声を出した。
「矢張りか……其処迄しなければ来てもらえないのはどうかと思うぞ」
「でもその価値はあるでしょう?」
「まぁ……そうじゃな。仕方あるまい」
「其れより、君の手札は何だい?」
納得してしまった紅葉を森が急かす。
「そう、慌てるな。それと、わっちの教え子は交渉無しにうけいれてくれたぞ」
妙な所でマウントを取る紅葉。自信気に見せるのは教え子、鏡花が白のうさ耳パーカーを着ている写真だ。手には兎の人形。何時もは二つに結っている黒髪を下ろして、肩にかけている。
「鏡花君という可愛いに兎という可愛いを掛け合わせた可愛いの二乗。してくれたね、紅葉君。凄まじい破壊力だよ」
妙な所でマウントを取られた森が分析する。
「そうじゃろ?しかも此の写真には続きがあるのじゃ」
「どういうことだい?」
自慢気な紅葉、瀕死の森。かなり奇妙な光景だ。それは一枚ずつ写真を出しただけでは終わらない。
「ほれ」
もう一枚の写真には、先程の鏡花と共に、黒のうさ耳のカチューシャをつけた、中也が立っている。二十二歳とは思えない可愛さも備えている中也は可愛らしいカチューシャも似合う。彼が二十二歳らしい色気とカッコ良さを持ち合わせていることを前提として、此れだ。
「酷いよ、紅葉君。私が本当に死んでしまう。どうして私の教え子達は素直じゃ無いのか」
森は遠い目をしながら話す。
「お主の性格と教育が悪い」
「酷いよ紅葉君。此れでも私、首領だよ?」
マフィアの首領処か中年男性として危ない、情けさと気持ち悪さを兼ね備えた声をだす。
「知っておるわい」
軽くあしらい、団子を手に取る紅葉。動作の一つ一つが様になっている。自分とは対照的な彼女をみて一つ溜息をつき、一言。
「そうかもね」
これで勝敗が決まった。
何方が可愛い選手権in十五夜
勝者、尾崎紅葉。
お月見〜森と紅葉の場合〜 橘スミレ @tatibanasumile
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