第贄譚【花一匁】・壱
あれから、一カ月が経ち僕は今。鵺霧村の祖父母宅で暮らしている。
あの後。母に、これまで通っていた高校で実はいじめられていた事などを打ち明け幼馴染みの皆と同じ高校に行きたいと話し今に至る。
最初は、いじめられているのに気付けなかった事を何度も謝罪されたけど僕がバレない様に隠していたのだからお互い様だと伝えると強く抱きしめられた。そんな訳で、今は祖父母宅から鵺霧村の高校に通っているのだ。
仕事の事もあり、母は後半年はこちらに来る事が出来ないらしいが寧ろ良かったと思う。
だって、鬼の子との鬼ごっこに母を巻き込まずに済むのだから……半年後までには、全てを終わらせる。また、母に隠し事をするのは、心苦しいけど……亡き父の分も、母には幸せになって欲しいから余計な心配や苦労は掛けたくないんだ。
「綠~、そろそろ出かける時間よ~」
二階の自室で出かける準備をしていると、一階から僕を呼ぶ祖母の声が聞こえて来た。
「はーい ! 」
リュックを背負い階段を降りる。玄関で靴を履いていると、後ろから祖母が駆け寄って来た。
「あまり遅くならない様にね ?
それと、危ない場所には近寄らない事……あと」
「ばあさん。綠も子供じゃないんだ。
余り口うるさくすると、嫌われるぞ ? 」
「そうですけど……」
後ろからやって来た祖父に苦言を呈されると、祖母は口ごもってしまう。祖父の言う通り、余り子ども扱いされると多少は疎ましく感じるけど祖母の気持ちも解る。
なので、僕は出来るだけ明るい口調で祖母に言った。
「祖母ちゃん。もし遅くなる時は、連絡入れるし危ない場所には絶対近寄らないよ。
心配してくれてありがとうね。じゃあ、行ってきます ! 」
「おう」
「気を付けてね~」
祖父母の声を背に、僕は待ち合わせ場所へ向かう。今日は、久哉の提案で久々に幼馴染み皆で集まろうと言う事になったんだ。
久哉、零士、壱樹とも、先日再会したばかりなので妙に緊張してしまう。しかも、女子が三人。
「幼馴染み皆で集まれるのは、楽しみだけど……ちょっと不安だな」
相手がいくら幼馴染みとは言え、同年代の異性と話すなんて久しぶり過ぎて正直なんと声をかければ良いのかもわからない。
「また、昔みたいに仲良くできると良いけど……」
ポケットから取り出した手帳に挟んでいた写真を見つめ呟く。写真に写っているのは、自分を含めた八人の少年少女たち。
幼馴染みの皆で撮った写真だ。中央の車椅子に乗った少女が目に留まる。
「星さんにも、会いたかったな」
病弱であまり遊んだ記憶はないけど、鵺霧村に唯一ある福吉診療所に入院していた彼女の元に週二~三回は皆で集まって他愛もない話をして過ごしたりしていた事を思い出し懐かしさに顔が綻ぶ。だが、今回の集まりに星は来られないのだと零士が言っていた。
理由は聞かなかった……っと言うよりも、聞けなかった。零士の暗い表情が、深く尋ねようとする僕に聞くなっと訴えて来ている様に感じられたから……
鬼哭悪戯 里 惠 @kuroneko12
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