第贄譚・零
『古里求めて 花一匁
古里求めて 花一匁
匁 匁 花一匁
さん 求めて 花一匁
買って 嬉しい 花一匁
負けて 悔しい 花一匁』
あの子が歌っている歌は、メロディーこそ聞き慣れたモノに似ていたが歌詞がまるで違った。だが、童謡は地域により歌詞が変わる。
なので……それ自体は、なんら奇妙しい事ではない。けど、聞き取れなかった『 さん』の部分が妙に引っかかる。
そんな僕の考えに気付く筈もなく、あの子は話し出す。
『昔の人は、口減らしの為に子供や老人を山に捨てたり。親が子に望まぬ結婚を強いて、相手方から結納金と称した売り金を受け取る事が普通だったんだよね。
でも、凄く悔しかっただろうな。だって、好いた人と添い遂げたいと思うのが普通だもん』
僕は何か言いたかったが、声が出ない。いつもそうだ。
あの子が出て来る夢で、僕は話せなす事が出来ない。でも、あの子はそんなのお構いなしに話しを続ける。
『この歌はさ、そんな女性の想いが籠ってる。未練と後悔と苦悩と憎悪……悲痛な心の叫びだよ』
ゆっくりと歩み寄って来たあの子は、僕の前で立ち止まると手を伸ばしそっと頬に触れた。
『だから、次の鬼は彼女に決めたの』
赤い瞳から目を反らせない。つま先立ちしたあの子が、僕の耳元で囁く。
『次も、頑張って逃げ切ってね ? 』
あの子と僕の足元には、いつの間にか黒百合の華が所狭しと咲き乱れていた。黒百合の花言葉は、呪いだと誰かに聞いた事がある。
すると、黒百合が突如として燃え上がり辺り一面が火の海と化す。逃げ場のない炎の中心で、あの子が口遊む様に歌う。
『匁 匁 花一匁
綠さん 求めて 花一匁』
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