第忌譚【照る照る坊主】・参戎

「綠 ! 良かった……」

「心配したんだぞ」

「良かった……本当に良かったわぁ」

「母、さん ? じいちゃんと、ばあちゃんも…………あれ……、僕 ? 

 …………あ ! 久哉くんたちは ? ! 」


 目が覚めると、今にも泣きだしそうな母の顔が目の前にありその両脇には祖父母も居た。何があったか記憶があやふやになっていた僕は、一瞬呆けてしまうが直ぐに思い出して飛び起きる。

 そして、久哉。壱樹。零士。三人の姿を探し本堂の中を見渡す。すると、首筋に何か冷たいモノが当たりびっくりして振り返る。


「うっせぇよ。俺らの心配より、自分の心配しとけ阿保」

「そう言う久哉だって、綠を心配してたくせに」

「零士。お前、ちょっと口閉じてろ」

「……間一髪とは言え、助けてあげた俺に対してその言い方は酷くない ? 」

「それはそれ。これはこれ」

「二人とも……こんな、時に……喧嘩、しないで」


 無事な姿を見て、安心する間もなく言い合いを始める久哉と零士に戸惑っていると壱樹が二人を止めに入ってくれる。


「別に喧嘩じゃないよ ? ねぇ、久哉 ? 

 俺らなりのコミュニケーションだよねぇ~」

「……知らん」

「ふっ……あはは」


 さっきまで、死ぬかもしれない程の恐怖と絶望を感じていたのが嘘の様に余りにも普通で平和な状況。助かったんだと言う安堵と、友の無事に安心した気持ち。

 

 そして、救う事の出来なかった者への罪悪感で笑いながら涙が止まらない。感情が混ざり合ってぐちゃぐちゃになる。


「ぅ、はは…はははっ」

「綠……」

「……」


 壱樹と零士が両肩に手を置いて左右から心配そうに顔を覗き込んで来てるのが解る。心配させたくないのに、笑う事も泣く事も止められなかった。


「…………お前が気を失ってる間、おからの記憶を少し覗かせてもらった。その上で言わせてもらう。

 【首無し法師】の事で、引け目を感じる必要はない。あいつは、お前を殺そうとしたんだからな」

「っ、でも……」

「解ってる。それでも、救いたかったんだろう。

 ……何かを知って、お前は【首無し法師】に同情した。優しいお前らしいよ。


 だけどな。それなら、尚の事。

 今は、引け目を感じて感情に飲まれるな。前を向け」

「久哉……くん」

「お前は、優し過ぎる。心を強く持て、一人で無理なら俺らも手を貸す。

 ……幼馴染だろう ? 」

「ぅん……っ、うん ! 」


 そうだ。今はまだ俯く時じゃない、前を向かなきゃ。

 少女が言っていた


『ボクが満足いくまで遊んで、綠くんが負けなかったら……解放してあげる』


 あの言葉を信じるなら、きっとまだ何とかなる。ただ、少女の言うが今回の様なものなら一人では太刀打ちできないだろう。

 情けないけど、僕は弱いし頭もあまり良くない。だから……


「ありがとう。本当は、もう誰も危険な目に遭わせたくないけど……久哉くんたちに、聞いて欲しい話があるんだ」


 僕は、全て話した。【首無し法師】の過去の話、神域で出会ったと名乗る白神様の話……そして、あの少女の事も。


「なるほど」

「白神様と鬼の子が実は別の存在なんだって話、俺も祖父ちゃんから昔チラッと聞いた気するけど……まさか、そんな事になってるとはな」

「その……鬼の、子は……

 なん、で……綠、に……執着、してるの……かな ? 」

「そこまでは、解らない」

「まぁ、兎に角。その鬼の子に勝ちさえすれば【首無し法師】は開放してもらえるんだろう ? 」

「そう言う事だな……綠」

「 ? 」

「お前は、それで良いんだな ? 」


 まるで全てを見透かす様な真っすぐとした目で、久哉が僕を見つめる。鋭い眼差しに、思わず目を逸らしそうになるがしっかりと目を見て返事をした。


「……うん。殺されそうになったし、怖い思いもした。

 でも、彼はもう十分に苦しんだと思うから解放してあげたいんだ」

「解った。……なら、俺は協力する」


 久哉がそう言うと、隣で聞いていた零士と壱樹もう頷く。


「当たり前じゃん。ね、壱樹 ? 」

「うん」


 次のがどんなものかは想像も出来ないし、不安や恐怖が無くなった訳じゃない。だけど、僕には頼れる幼馴染が居る。


「本当に、ありがとう。僕も頑張るから……頑張って強くなるよ」


 皆と一緒なら、きっと大丈夫。この時の僕は、心からそう信じていた。











 ………………でも、やっぱり巻き込むべきじゃなかったんだと。それから、一か月が経ってから……僕は、酷く後悔する事になる。

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