第2話 2008年 7月20日①
「それにしても依頼人遅いですね。」
時刻は15時20分となり約束の時間を大幅に過ぎている。
「このまま何も無ければ私も働かずにすむんだがな。」
「ところで、今日の依頼人の資料がそこにあるから取ってくれないか。」
「満月さんまだ資料読んでなかったんですか?」
「仕方ないだろ、魔術協会から資料が届いたのが今日の午前1時頃なんだから。全く人使いが荒いことだ。」
「だったら酒なんか飲まずに資料に目を通せば良かったじゃないですか。それか早く寝て早く起きて確認すれば…というかさっきからずっと何作ってるんですか?」
「魔道具だよ、今回の依頼で使うかもしれないからな。今度、君にも魔術ビックリ箱の作り方くらいなら教えてあげよう。」
それ作らずに資料見れば良かったんじゃないかと思ったが、それ以前に今は依頼人を待ってるんだからそんなことしない方がいいのではないかと強く思った。
「そういえば…」
満月さんはそういうとキッチンに向かい普段コーヒーの豆や茶葉を入れてる棚をガサゴソ漁り出した。
「やっぱり…コーヒー豆がキレてる。買いに行くのはめんどくさいしな。そ・う・だ。デカル…」
「嫌です。」
満月さんが不敵な笑みを浮かべながらこちらを向いてきた、とても嫌な予感がする。
「まぁそう言わずにさぁ」
「嫌です。」
「仕方ないな、お釣りはやるから。」
そういうと財布から五千円札を取り出し、僕に渡してくる。これで買ってこいと言う意味だろうが僕は知っている満月さんがいつも買ってるコーヒー豆は
100g六千円もするものであり、五千円では足りないことを。
「ダメです。というか2回も騙されると思いますか?この前は知らずに千円自腹で払わせられましたが、今回はその手には乗りません。というか千円返してくれませんか。」
「チッ…さすがに引っかからないか。まぁ、金は今回の依頼が終わったら返すからその時まで待っといてくれ。」
「いやいま払ってくださいよその五千円で。どうせ報酬がはいったらはいったですぐ浪費してしまうでしょうし。」
そう満月さんはいつもそうで、魔術協会からの依頼をこなし高い報酬を得るのはいいが、それを自身の魔道具の開発や酒 嗜好品(さすがにギャンブルはやらないらしい)に使ってしまう。だから取り立てるのは今しかない、僕も今月はカツカツなのだ。
「いやそれはダメだ…デカルトこの五千円はな、私が今持ってる最後の現金、だからお前にやるわけには行かない。」
「あの満月さん言ってることが矛盾してませんか。なんでそんな大事なお金を嗜好品に費やそうとしてるんですか。頭大丈夫ですか?」
僕達がそんな口論をしていると
「あのすいません。『魔術協会』からの紹介で依頼をしに来た者なんですが…」
……………………………………………………………
「紅茶と日本茶 ウーロン茶がありますがどれがお好みでしょうか?」
「あっ、なら日本茶でお願いします。できるなら冷たいので。」
「かしこまりました。」
僕はそういうとキッチンの方にいき茶葉をきゅうすにいれガスコンロで沸騰直前になっているお湯を注ぎ日本茶を入れた。
先程、僕と満月さんが口論している間に事務所に入ってきたその男性は今、満月さんと話している。
男性は
今どき珍しく浴衣をきてここまで来たらしい。
普段は港区の私立大学に通ってる。
と彼の特徴を話してきたが、ここまでのことが全て吹き飛ぶくらい彼には大きな特徴がある。
それは彼の左腕が義手だということだ。
魔法使いは夜闇に喰われる 音宮日弦 @HYUS
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