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ダンジョンと聞いて、貴方は何を想像するだろうか?異世界への入り口、一攫千金。ロマン溢れる現代の冒険譚……そんなものはごく一部に過ぎない。



日本時間、西暦2020年1月17日14時30分 日本の東北地方に位置する青森県のとある山中にて、突如大きな爆発音が響き渡った。それは世界の変革を示した最初の記録だ。


後にこの時のことをこう呼ばれることとなる。"ダンジョン事変"と。


この日を境に世界中でダンジョンが発見される。


ダンジョンの出現と共に、一時停滞していた人類の歴史は大きく動き始めた。


ダンジョンには怪物が跋扈していた。人類の叡知にして、時代を転換させた発明、銃器は過去の産物となった。しかし人類には祝福が与えられた。そう、異能力である。こうして人は戦い始めた。ダンジョンを攻略するために。人類を守るため。生活のため。欲望を満たすため。理由は様々であったが、世界は変貌を遂げた。


ダンジョンの開拓を目指す彼らはその功績を讃えられ、世界各国でその名を広く知られるようになることとなる。探索者と。


ダンジョンは罠や魔物が存在するだけの場所ではない。資源の宝庫でもあるのだ。世界中の国々はこの発見により大きく揺れ動いた。ダンジョンは、人々の生活を劇的に変化させるものであったからだ。ダンジョンからは鉄、銅、錫、鉛などの金属類を始め、宝石や石炭など様々なものが産出されることがわかった。石油も見つかった。ダンジョンでのみ採掘可能な鉱物もあった。それだけではない。ダンジョンから時折出土するアイテムは防具を始め、部位欠損を治す薬の製法までが見つかった。


その為、各国は国を挙げて自国のダンジョンの攻略乗り出した。ダンジョン産の素材を使って、武器、防具、道具を作った。そして、ダンジョンで発見された情報をもとに、新商品を開発して売った。それらの恩恵を受けて人々は豊かになった。


しかし、それだけだろうか。ダンジョン内での法律について、ダンジョン内では基本的に自由であるが、警察権が及ばないため、基本的には自己責任であり、傷害事件等を起こした場合罪に問われることはない。つまり、死体漁り、魔物列車など新しいタイプの犯罪を始め、死体遺棄や薬物の密売なども増えてきた。これらは現行犯逮捕以外では取り締まることが難しくなってきている。さらに言えばダンジョン内では殺人罪が適用されない。ダンジョン内は治外法権なのだ。それを知った卑怯な人間は群がるように増えた。


***


2025年、東京。新港区の繁華街。その更に裏の裏。ある事務所にて、見るも無惨な光景が広がっていた。男がパイプ椅子に縛られ、殴られる。男は既に顔面が血まみれで、鼻は潰れ、歯は折れていた。男は涙を流しながら懇願していた。

助けてくれと。

だが、それを見つめる男たちは笑っていた。嘲笑っていた。


ここは反社会的勢力組織マフィアの事務所である。


「いやー、裏切り者さん。組織の金を持って上海にトンズラしようとするなんてな、”おいた”が過ぎるんじゃねえのか、オイ!!!」


厳つい男が髪の毛を掴み、キレる。厳つい男のポケットから着信音が流れる。


「チッ。もしもし、ボス。はい。殺すな?いやでもアイツは!はい。はい。わかりました」


通話は数十秒で終わる。


「命拾いしたな。ボスに感謝しろ。」


そういって唾を吐き捨て、男たちは順番に部屋を出ていく。最後の男が出てから数分後、コンコンとドアがノックされ若い青年が入ってくる。


「うわ~痛そう。大丈夫じゃないですよね」


青年はそう言って、ポケットからハンカチを取り出し、傷にあてがう。


「ちょっと不快感あるとおもうけど、我慢してくださいね」


青年の手のひらから紫の光が溢れる。優しいがどこか不気味なその光は男の傷を癒す。こうして数分後。


「これで、よし。うん爪が顔から生えてきたり、鱗とか虫の足とか無いから大丈夫!!」


不穏なセリフ。解放された手で男は自分の顔をペタペタ触る。傷は...ない。痛みもいつの間にか消えている。


「若...ありがとうございます。この恩は忘れません」


「いやーー大変だもんねこの仕事。うんうん。大金に目を眩んで海外に逃げたくなる気持ちもわからなくもない」


男は口を噤む。自分が組織を裏切ろうとしたことが馬鹿らしくなったのだ。


「君もう組織に居場所ないから、俺が直接に下で働かせてあげるよ」


「いいんですか?!」


「うん。もちろん。基本的に危険なことはさせないし、使い走りとして動いて貰うだけなんだけどね」


「俺でよければ、もちろんありがたく、やらせていただきます」


男が土下座する。


「じゃあ手出してくれる?」


「手ですか。はい」


青年が男の手の上に自分の手を重ねると、タトゥーのような紋章が手の甲に現れた。


「若...これは?」


「これは、居場所をマーキング出来るようにするやつだよ。あ、健康を損ねるようなものじゃないから安心してよ」


「わかりました」


「それじゃあ名前を付けよう、ボウズ頭だからハゲね」


「わかりました。わたくしハゲは若に従います」


「うんうん。じゃあこの500円で新作の抹茶プリン買ってきて!」


「わかりました!」


男は500円を受け取ると走って出ていく。青年は男の座っていたパイプ椅子に座る。


「いやーチョロいチョロい。これで部下一人目ゲットだぜ」


青年が先ほど男に付けたのは禁忌魔法の絶対従属紋と呼ばれる、かなり外道な魔法だ。


この青年。若と呼ばれる通り、彼はコットリィ・ファミリーのボスの一人息子であり、次期後継者である。ボスには妻が二人いるがどちらもすでに他界している。ボスは子煩悩で、跡継ぎのことを非常に気にかけていた。


コットリィ・ファミリーは90年代の旧ソ連の解体と共に日本に移住した男が一代で築き上げた組織である。資金洗浄から違法薬物までをモットーに日本の裏側で徐々に勢力を広げた組織である。暴力団が勢力を失い、半グレが台頭してきた今でも、日本に、こびり付いたような裏社会の大企業である。


ダンジョン事業にもいち早く飛びつき、探索者の嗜好品、薬草煙草マジックスモークは独立した企業を隠れ蓑に組織の資金源となっている。他にも様々な事業に手を出しており、その総資産は20兆円を超えるとも言われている。


現在、日本の裏社会を支配するのは間違いなくこの組織だ。


そんなマフィアのお坊ちゃんは現在、15歳。東京探索者育成学園に首席で入学予定である。


首席といっても裏口入学やコネなどを一切使っていない純粋な実力である。決して天才ではないが、特殊な環境で育てられた彼は努力の大切さを知っているだけである。努力を怠った人間が墜ちる道などとっくの幼稚園生で理解していたのである。


「明日から学園生活か~~~」


殺伐とした世界で生きてきた割には、人の優しさも理解し、友情の大切さも知っている。ただ致命的に倫理観がバグっている。それ故に人の死に対してさほど執着をもっていない。まだ処女誰も殺していないだが、恐らく躊躇わないだろうと、周りの危険な大人たちは察している。


「可愛い女の子と遊べるかなあ」


大人びている精神でも、まだ高校一年生。同世代との恋愛はまだまだ未経験である。


***

「新入生代表挨拶。ゼク・コットリィ」

「はい!」

俺は席を立ち、舞台へと上がる。

俺の名前を呼ぶ教師の声で、静まり返っていた体育館内がざわめき始める。

まぁそりゃそうだよな。こんな女顔でクールなイケメンが登壇したら誰だって驚くだろう。女顔でナメられやすいが股間にはしっかりとロシア産の大砲ビックマグナムがついている。昨日徹夜で考えた文章だが、ハゲに練習相手になって貰ったお陰で緊張は全くしていない。


「皆さんおはようございます。私はゼク・コットリィと言います。本日より、この、東京探索者育成学園の生徒となりました。ご存知の通り、この学校は、探索者を目指す学生が集まっています。今、世界は大きな転換点にあります。ダンジョンの出現です。今までとは違った世界に変わっていくでしょう。我々、学生には未来があります。将来のビジョンを持っている者もいれば、ない者もいるかもしれません。この学園生活を有意義なものにするかどうかは自分次第なのです。しかし、皆は一人ではない。ここにはたくさんの仲間がいるのです。お互いを支え合い、助け合う。我々は同じ志を持つ友です。共に研鑽を積み、ともに成長しましょう。以上、私からの挨拶とさせていただきます」


会場が拍手に包まれる。少し声が震えてしまった。恥ずかしい。

でも、やりきったぞ! あとは、教室に戻って待機だ。


日本はダンジョンの発見当初は混乱を極めたものの、比較的早期に方針を決めた。まず、日本政府は日本中に探索者のための学校を設立し、探索者の育成を行った。また、同時に異能力者の確保、育成にも乗り出した。異能力者の確保は政府の最優先事項であった。そのため探索者養成校には様々な特権が与えられており、国からの援助金の他に学費も無料となっている。異能力者も異能力の内容によってランク付けがなされ、そのランクに応じて奨学金を受けられるシステムになっている。


何故、異能力者を優遇するか。異能力は交配によって強化され変化する。人間の拡張。政府は声を大にしていう事は出来ないが、新たな戦力、強力な兵器となることを確信している。異能力者の存在は、国の力を増すことに繋がると確信しているのだ。つまり新しい優生思想なのかもしれない。異能力者の中にはレアと呼ばれる能力を持つ者たちがいた。これらの能力は戦闘力とは別にインフラ、政治経済面など、国家にとって有益なものを指す。彼らは自由を対価に不自由ない生活を手に入れた。


***

「1年Aクラスの担任の橘川 美帆だ。よろしく頼む」

担任の女性教師が淡々と自己紹介をする。なかなかに美人だ。

黒髪ロングのポニーテールに整った目鼻。スタイルも良く、まさにモデル体型といった感じだ。20代前半だろうか? 胸は大きいし、腰はくびれている。そして、なんといっても素晴らしいのは足だ。引き締まったふくらはぎから、柔らかそうな太腿にかけてのラインは、とても綺麗だった。


「知っている人もいるだろうが私はBランク探索者だ。君たちが入学してくるまでに200回ほどダンジョンに潜ってきた。これから君たちと一緒に成長していく。分からないことがあればなんでも聞いてくれ。さて、今日は今後の予定について説明する」


そう言って、先生は一枚の紙を配り始めた。


「そこに、明日からの授業のスケジュールが書いてある。時間割表だな。それを見て、自分の受けたい授業を選んで欲しい。また、希望するコースによっては選択科目が増えるかもしれない。その辺もしっかり確認しておくように。説明は以上だ。何か質問はあるか?」


先生は一通りの説明を終えると、俺たちの顔を見渡した。


「よし、ここにいるのは一年間一緒に生活するクラスメイトだ。みんな、自己紹介をしてみてくれ。まずは……ゼク君、いってみようかな」


俺!?いきなりですか……。まあ、しょうがない。なんせ俺は首席だからな。腹をくくるしかない。


「えっと、初めまして。俺は、ゼク・コットリィと言います。趣味はトレーニングとバイクいじり。得意なことは体を動かすことです。一年間、よろしくお願いします!」


言い終えると、まばらな拍手が起きた。うーん、緊張してうまく話せなかったかも。

次は、隣の女子生徒だ。自己紹介は滞りなく進み終わった。


「意外だと思うがクラス分けは能力の序列や学力、性格等に依存していない完全なランダムだ。成績上位者はAクラス、下位の生徒はFクラスというわけでもない。という事で一年間協力し合い頑張っていこう!!」


こうして、入学式を終えた俺たちは自宅へと帰った。


***

電車で二駅、雑多で一体感のない、下品という共通項で纏められる繁華街。そんな場所に建つアパートの一室。周囲は風俗や無許可営業の居酒屋。それが今の俺の住居だ。部屋の中にはダンベルとプロテイン。それといくつかの漫画があるだけで、他の物は一切ない。俺はいつものように筋トレを始めることにした。筋トレは好きだ。ただひたすらに体を鍛える行為に没頭できる。汗を流し、全身に乳酸が溜まる感覚を味わっている時、自分が生きているという実感を得ることが出来るのだ。俺は筋トレを始めた。腹筋、背筋、腕立て伏せ、スクワット、その他諸々。どれも毎日10セット行う。このメニューを一年間繰り返す。


自分の肉体を見る。鍛え上げられた腹筋は6つに割れ、胸筋も肥大化している。全身鏡に映る姿は、さながらローマ彫刻の様だ。いやー筋肉は良い。これこそが至福の時間だ。そう思いながらも今日はここまでにしておいた。シャワーを浴びる。勿論勉強も欠かさず行う。数学は基本問題集を解きまくった。英語は得意なので分厚い単語帳を進める。世界史、地理は暗記が中心になる。


そうこうしているうちに夜は更けていった。月曜日に入学式をすれば良いと思うのだが明日は土日の休日だ。父親に会いに行かなくてはいけない。


***

朝、俺は準備を整え家を出た。電車に乗り、駅から徒歩で20分ほど歩くと父親の経営する店がある。『レストラン・ブラックスワン』これが店名だ。店の中に入ると、数人の客がいた。どうやら父親はもう帰ってきているようだ。


「お帰りなさいませ」

おいおい、ここはメイド喫茶じゃねえぞ!!!!キャピキャピしてないメイド服なのは配点高いな!


取り敢えず会釈して席に座る。


「おう!若旦那。今日はボスに用事かい?」


隻眼の老人が尋ねてくる。彼は組織に長年貢献し、今では隠居生活をしている。昔から父親と仲が良く、たまにこうして食事を一緒に摂ったりもしていた。その関係で今も親交が深い。


「はい。ボスに少し呼び出されてまして……」


すると奥から人が出てきた。ボスであるミハイル・コットリィ。


芯が通ったような姿勢と顔つき、そして威圧感を放つ体格。一見するとただのイケオジだが性格はマフィアのボスらしく、冷酷だ。しかし趣味でレストランをしている。


「久しぶりだな、ゼク。まあ座りなよ。料理はお前の好きなカルボナーラで良いな」


「ああ、ありがとう親父。……で、今回はどんな要件だ?俺も入学したばかりで忙しいんだがな。」


「そう急かすな。先ずは食え。話はそれからだ」


さっきのメイド服の女が注文したカルボナーラを持ってくる。俺は早速フォークを手に取る。卵がとろけ、パスタに絡む。一口食べる。


ブラックペッパーとチーズの濃厚な味。やっぱり親父は料理だけは最高だ。


「で、本題に入るが。お前、学園で演説したんだってな。凄いじゃないか」


「今更なんで褒める。探索者にはなるなって話だろ。別にいいじゃねえか。」


「もちろん探索者にはなって欲しくない。だが、努力には敬意を払うべきだ。だがお前には居場所がある。早く俺の後を継いでくれないか」


「またその話か親父。俺は探索者になって美女とキャッキャウフフしたいんだ。別に組織を継ぎたくないって話じゃない、ただ今は自分の人生を楽しみたいんだ。もう少しだけ待ってくれよ」


その後、少し話をしてから、代金を払って店を後にする。


「よし、それじゃあ頑張れよ」

と言って親父は厨房に戻っていく。

「じゃあ帰ろ」


親父と話すと疲れる。よし帰ろう。


***

電車に乗った瞬間に気づいた。あ、これ後を付けられてるな。視線を感じる。後ろを見ると、やっぱりだ。男2人がこちらを見ている。知らない顔だ。


『次は、新港、新港です』

改札を抜け、暫く歩く。もちろん人通りの無い、監視カメラも無い裏路地へ誘い込む。ビルとビルの隙間。案の定、付いてきた。


「糞ッ!どこ行った!」「探せ!!」


角を曲がった瞬間に一気に壁を登った。もはや袋小路。非常階段から下を見る。


「そこのお二人さん。俺を探しているのかい?」


二人の男はナイフを取り出し構える。


「何だてめぇ」「降りてきやがれ!」


俺はゆっくりと地面に降りる。


「おい、ガキだからって容赦しねぇぞ、こっちはプロなんだ。殺すぐらいわけないぜ」


男がそう言った直後、一人の男が突っ込んで来た。馬鹿だな。ナイフを避け、腕を掴み膝蹴りで真逆の方向に曲げる。痛みで悶絶した男はナイフを落とす。ボディーが、がら空きだぜ。容赦なく殴ると、意識を失ったのか倒れたまま動かなくなった。もう一人の男は腰が引けて、逃げようとしている。


いや、これくらいで逃げるなら裏社会やめちまえ!!!


「いやー何が目的で尾行したんですかね。正直に話した方が楽ですよ。優しいので痛い思いしなくて済みますよ」


男は黙り込む。あーーー。本当に裏社会の人間って馬鹿。言えば暴力振るわれなくて済むのにどうして、下手な忠誠心で自分を殺すのかな。


「面倒くさいな。脳支配ブレインジャック


男の顔面を掴み、術式を使う。なるほど、半グレ集団で誘拐目的。大層な事案じゃないな。放置で良いか放置で。気絶している奴らをその場に残して、その場を去る。警察に通報しても良かったけど、証拠無いからな。


こうして何事もなかったかのように家に帰った。


***

ボロアパート内で考える。俗っぽいが豪邸に引っ越ししたい。親は最低限のお金の援助しかしてくれない。お金持ちになりたい。何かいい方法はないかとスマホでニュースを見ていく。


一つの記事が目に留まる。


『ダンジョン内で蔓延る違法行為』

ダンジョン内では、違法行為が横行しています。密輸、賭博、窃盗などです。また、薬物の使用や取引も盛んに行われています。ダンジョンは暗く危険な場所であり、これらの違法行為に人々が巻き込まれるのはとても簡単なことです。ダンジョン内では現在、違法薬物の取引が蔓延しており、特に麻薬と覚醒剤は需要が高く高値で取引されています。ダンジョン内では基本的に監視カメラが存在しない為、密売人はやりたい放題なのが現状です。また、銃器などに関しても同様です。このように犯罪組織が跋扈するダンジョン内であるが、警察は手を出すことが出来ないでいます。


ダンジョンって、違法薬物の売買場所になってるのか。じゃあ襲って金品だけ貰おうぜ!!ってことか。

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①ダンジョンwithマフィア ウミウシは良いぞ @elysia

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