第七話 散歩
散歩 ①
「ねぇ先輩」
「なんだい助手君」
今日の二人は実験室から離れて、近くにある池へと来ていた。助手君はウエストを絞るために、先輩は体力をつけるためにウォーキングしているのだ。
およそ三キロの池の外周は舗装されており、今もランニング中のおじさんや手を繋ぐ親子などが散見できる。ここは町の憩いの場にもなっているようである。
「超能力がもらえるなら何が欲しいですか?」
池の水によって冷やされた風を受けながら助手君は尋ねる。ちなみに助手君は今、なんの脈絡もなくこの話題を口に出した。
「前提条件に何か縛りはあるかい?」
「……? どういうことですか?」
別に特になんでもないただ時間を潰すための質問だったはずなのだが、先輩はお互いの想定している状況に齟齬があってはいけないと生真面目に聞き返した。事ここに関しては、助手君の普段の『尋ね回り』のせいだろう。
「例えば、異能は一人一個までだとか、バトル漫画のように人に向けて使うのか生活の中で使うのか、他にも、みんな使える世界なのか僕だけなのかとか――」
「そんなガッチガチにお堅いこときいてるんじゃないですよ。もっと気楽に答えてください。……ただまぁ、一人一個で生活用ってことにしときます。あとは雰囲気ってことで」
こういうのはてきとうでいい。いや、むしろてきとうだからいいとさえ言える。
「あ、あとついでに能力の名前もお願いします」
「しれっとかなりの無茶ぶりを言うね」
しかし先輩はそれ以上文句を言うことはなく、少し斜めに空を見上げて考える。
「そうだね。僕なら時間を止める能力がほしいかな。名付けるなら『ゼロカウント』なんてどうだい」
「時止めってやつですね。ありきたりだけど使いやすいくて強いやつじゃないですか。理由はやっぱり永遠に実験できるからとかですか?」
「んー。というよりは、時間の止まった世界を観察してみたいね」
先輩はなおも空を見上げて付け足す。
「時が止まっているということは、全ての物質の運動が止まっているわけだから擬似的にだけど絶対零度と同じ状態だと思うんだ。それに全てが止まっているなら酸化現象も止まっているんじゃないかなって。だから普通だと熱くて触れない炎なんかもその世界では冷たい、あるいは全然違う性質が生まれているかもしれない。そんな世界を観察してみたいね」
「ほぇ」
とりあえず助手君は相槌を打ったが、先輩が何を言っているかはわかっていない。助手君はまぁなんか時間を止められたら、お菓子を床に落とすこともないしテストでカンニングもできるくらいしか考えていなかった。まさか絶対零度なんて言葉が出てくるとは微塵も思っていなかったのである。
なのでこう返した。
「女湯を覗くとか言わなくて安心しました」
「助手君は僕をどう思ってるの……?」
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